公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

日本における非営利・協同組織の法人形態  ―総論―

 日本には1.2億人の人々が家族を形成し生活している。また、経済活動として年約6百兆円弱の付加価値(GDP)を生産し、さまざまな社会活動を行っている。そうした諸活動を行うために、例えば数万人、数十万人の職員を抱え数千億円以上の収入規模の事業を担う組織が存在するが、それらが個人商店のように特定の個人により支配され担われるというようなことは非現実的であり、その活動を十全かつ適切に行うために、組織自体に法律的な人格を与え法的な権利能力や義務を付与することが必要となる。これを法人と呼ぶ。
 法人すなわち社会において様々な活動を行う団体、組織は、社会的存在として個人とは切り離した形で独立した法的な人格=法人格を有することになる。また、法人にはその社会的な存在目的により様々なものがあり、その所有の在り方や運営方法、行政との関係等異なる特徴があって、それぞれの根拠法規に基づいて存在形式が定められている。これを法人形態という。
 代表的な法人形態である株式会社(有限会社を含む)は営利的な事業活動を行い、法人に出資する株主により所有され株主への配当や財産分配を基本目的としている。これに対し、営利を目的としない非営利・協同組織の法人形態は、日本において非営利・協同組織を包括する法律がないこともあって、法人の活動目的や活動分野に応じて多様に存在する。法人数やその事業規模は株式会社等と比べ少ないものの、その活動分野、根拠法規によって様々ある。
 以下、非営利・協同組織の法人形態について概括的な説明を行う。

1、非営利・協同組織の法人形態についての基本的視点と留意点

 まず、非営利・協同組織の法人形態を理解する上で、基本的に押さえておくべき視点と留意点につき述べる。

(1) 日本において非営利・協同組織の法人形態は、一定の社会的存在となっている。

 日本において、営利法人形態である株式会社等以外の法人形態=非営利・協同と呼びうるあるいはそれを目指す組織の法人形態は多岐にわたるが、合計しての非営利組織の法人数は数十万と推定される。これらは社会的に一定の地位を占め、経済的にも無視しえない存在となっている。このことは世界的にも同様である。
20世紀終わりから21世紀初めにかけて、市場原理主義、営利経済万能主義の風が吹き荒れ、非営利の諸活動分野にも営利的な法人形態の参入が盛んにおこなわれたが、それに対抗する形で非営利・協同を目指す組織は、そうした理念に近接する法人形態を探求、採用し、発展してきている。

(2) 一方で、営利法人=株式会社等が圧倒的多数を占めているのが現実である。

 しかしながら、日本及び世界全体が政治経済的には営利法人が圧倒的に支配している社会、すなわち資本主義社会であることも事実である。特に法人数で言って株式会社等数の1%以下にすぎない資本金1億円以上の大企業が売上や利益の大部分を独占していることは周知の事実である。資本主義社会における営利追求による弊害が社会問題となり、その影響が医療や福祉等本来非営利であるべき分野にも及ぶ状況となっている。したがって、非営利・協同組織は、地域住民や他の非営利団体と連帯しつつ、それらに抗して資本主義社会での様々な問題を克服し改善することが求められている。

(3) 法人形態はあくまで法的な形式であること、また一方でそうした形式が非営利・協同組織の実質を規定する側面があること、に留意が必要である。

 非営利・協同組織あるいはそれを目指す組織であっても、営利法人形態である株式会社等を採用している場合がある。法人選択時他に適切な選択肢がなくやむを得ず株式会社化した事例、株式会社の形式を採用しつつ実態として、非営利・協同を志向し運営している事例等がある。一方、社会福祉法人、宗教法人、NPO等本来非営利・協同組織であるべき法人形態において、営利的、利己的な思考を持つ代表者の個人的不正、不祥事の事例も見られる。また、非営利・協同組織内においても組織内の不団結やゆるみが生じると営利的志向や非民主的運営が表面化することがありうる。非営利の法人形態のすべてが、真の非営利性を持ち、協同を進めているとは限らない点に留意が必要なのである。
 こうした状況を踏まえると、法人形態という形式のみで非営利・協同組織を安易に区分するのは必ずしも適切とはいえない。すなわち、法人形態はその目的面や法制度面から営利・非営利を区分する上で重要であるが、しかしあくまで形式でしかない。非営利・協同組織は、社会的存在として法規定に基づくコンプライアンス(法的適合性)は当然具備する必要があるが、それにとどまらず、非営利・協同組織としてのあり方を追求する必要がある。
 一方で、社会での存在様式である法人形態が、実質的な非営利・協同組織の継続発展に役立つあるいは阻害する側面にも留意が必要である。株式会社は基本的に営利を追求する法人であり、株式所有割合に基づき会社の議決権が決められ、また、株式配当を法的に禁止することはできない。したがって、株式会社でありながら非営利・協同を追求することは法的に困難が生ずる。また、公益法人は公益的な活動が事業全体の過半数を占めることが求められ、公益事業には法人税等は課されないことから、非営利の事業を進めていく上でおおきなメリットがある。そうした意味で、非営利・協同組織が法人形態を採用する場合には、十分な検討が必要である。


2、日本における法人制度と非営利・協同組織の法人形態

(1)日本における法人制度

 基本的性格 税法上の区分  根拠法規   法人形態    法人数(万) *5

 非営利     普通     一般法人法   一般法人*2      4.9
 (中間*1)            民法                 法人格なき団体              不明

   非営利             協同組合           各種                   消費生協
    (共益)                               協同組合法      企業等協同組合               4.3 
                                                                               農協            等

 

   非営利                公益               公益認定法        公益法人                      0.9
    (公益)                                      NPO法             NPO                      5.0
              各種
                                                    事業別法規        医療法人*3                     5.0
                                                                            社会福祉法人                   2.0
                         学校法人                         0.8
                                                                              宗教法人     等              18.1

   非営利                公共               各種                 独立行政法人*4
  (公共)          分野別法規     国立大学法人
                        NHK              等
                                            

  営利               普通                会社法       株式会社                261
                       有限会社        等

 

*1 一部もしくは全部営利事業を行うことを否定されてはおらず、その意味で「必ずしも営利ではない」という意義。
  なお、法人格なき団体の多数は営利を目的としていない比較的小規模のものと推定される。

*2   この内残余財産の分配を行わない等の要件を満たすものにつき、法人税法上「非営利型」一般法人とされ、公益法人と同様に税法上の収益事業のみが課税対象となる。

*3 医療法人の内真に公益的性格を持つ法人は医療審議会で認可される「社会医療法人」とされ、それ以外の医療法人は事業のすべてが法人税課税対象となっている。なお、出資持分を失くす等の要件を満たすものを特定医療法人として法人税に軽減税率が適用される。

*4 独立行政法人については、その一部は公共法人として指定され法人税非課税であるが、それ以外は法人税法公益法人の扱いを受ける。 

*5  法人数のデータ入手先は以下の通り。
  協同組合、医療法人、株式会社等---2015年分 財務省(国税庁) 法人の種類別法人数(なお、株式会社等については、非営利型でない一般法人数が含まれている可能性あり)


一般法人---2016年分 法務省 法人登記法務局別件数表
NPO---2015年度分 内閣府 認証・認定数の推移
公益法人ーーー2014年度分 公益認定等委員会 社団・財団別の公益法人
社会福祉法人ーーー2017年度分 厚労省 社会福祉法人の現況報告書等の集約結果
学校法人ーーー2003年度分 文科省 学校法人等及び私立学等数(数値は準学校法人を含む)
宗教法人ーーー2017年度分 文化庁 宗教法人の概要


(2)法人形態の分類

① 目的別分類(営利と非営利)

 日本における法人制度は、大きく営利を目的とする法人形態と営利を目的としない法人形態とに分けられる。
 営利を目的とした法人形態は、多くの法人の形態である株式会社、有限会社、合名会社、合資会社等が該当し、利益追求を基本目的とし、株主等出資者に対する最大配当、財産分配が基本的な使命である。この為の仕組みとして、株主総会等が最高議決機関であり、議決権は基本的に株主の出資割合によって与えられる。法人数としては圧倒的多数である。
 これに対して営利を目的としないすなわち非営利の法人形態は数多くの種類があり、非営利・協同組織の法人形態はその多くがこの中に含まれている。大きくは「中間」「共益」「公益」「公共」と分類される。

② 税法上の分類

 法人税法では、法人を以下のように区分した上で、基本的に獲得した利益(課税所得)に一定の税率を乗じて法人税を納税することとなっている。

a 普通法人(株式会社等、一般法人)

 法人の全ての事業から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた普通税率(19~23.2%)を乗じて納税する。

b 協同組合

  法人の全ての事業から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた軽減税率(19%)を乗じて算定する。
 普通法人と同様に、事業の内容にかかわらず全ての事業を課税対象とする(全部課税)扱いになっているのは、協同組合も基本的には営利法人と位置付ける日本の法制、税制の考え方にもよづくと思われる。

c 公益法人等(公益法人NPO社会福祉法人等事業別法規に基づく非営利法人)

  原則として非課税であるが、法人の事業の内税法で定められた収益事業(34事業、かなり広範囲でありかなりの法人が申告し納税している)があれば、その部分から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた軽減税率(19%)ないし普通税率を乗じて納税する。
 なお、医療法人については、医療内容や出資持分等で公益性を具備する社会医療法人は上記の通りであるが、それ以外の法人は全部課税である。(なお、その内特定医療法人のみ低軽減税率でその他は普通税率が適用される。)

d 公共法人(国立大学法人NHK等)

 法人の全ての事業が非課税である。

e 法人格なき団体

 法人格なき団体については、法人ではないものの代表者または管理人の定めが団体の定款、規約等で定められ、実態としての法人の機能を有しているものを言い、そうした団体については法人とみなして法人税が課される。(そうでないものは個人とみなされて所得税の対象となる。)
法人格なき団体は、公益法人等と同様に原則非課税であるが、税法で定められた収益事業を行っている場合にはその部分から獲得される利益(課税所得)に対し課税される。ただし、乗ずる税率は普通税率である。

③ 設立運営主体による分類

 法人がだれによってあるいは何によって設立されたか、また、設立後はだれによってどういった形で運営されるかという点で、法人は以下のように分類される。

a 社団

 出資者の資金等拠出(出資等)に基づき設立され、設立後も出資者等により運営される法人である。株式会社がその典型であり、出資者である株主は法人所有者として株主総会保有株式数に応じて発言権を持ち、利益配分も保有株式数に応じて受領できる。

b 財団

 寄付者による寄付行為に基づいて設立され、寄付された財産をもとに運営される法人である。出資者等は存在しないことから、有識者等で構成される評議員会が最高議決機関となる。社会福祉法人、学校法人等の公益法人がこれに該当する。

c 組合

 出資者等の資金等拠出(出資等)に基づき設立されることは社団と共通であるが、組合員の共通利益(共益)を事業目的とすることから、法人と出資組合員との関係あるいは組合員相互の関係がより濃厚で人的色彩が強い点が異なる。出資組合員の総会(あるいは総代会)が最高議決機関であるが、議決権は組合員一人一票である。各種協同組合がこれに該当する。


法人形態ごとの分類は以下の通りである。

 社団ーーー 株式会社等、NPO

 財団ーーー 社会福祉法人、学校法人、宗教法人、独立行政法人等公共法人

 社団もしくは財団ーーー一般法人、公益法人、医療法人、法人格なき団体

 組合ーーー各種協同組合 
 

④ 設立時の行政認可等

a 認可

 認可とは、任意の法人設立は認められず、国や地方自治体がその根拠法規に定められた要件を審査し、要件を満たしていると認められた場合にのみ設立が許可されることをいう。補助金や税負担の減免等の制度がある公益的法人や協同組合は認可制度により設立される。また、法人設立後も継続して行政からの監督を受け、定期的な行政監査も行われる。

b 認証

 認証とは、国や地方自治体が法人の設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。認可と同様に任意の設立は認められないが、認可ほど厳しくはない。日本においてはNPOが認証により設立することとなっている。具体的には設立申請後2カ月間の定款等の公衆縦覧の後2カ月以内に認証される。法令に適合している限り基本的に認証され、不認証の場合には行政はその理由書を通知しなければならない。また、法人設立後も継続して行政に対して決算書等の提出が求められる。

c 準則

 準則とは根拠法規に基づく設立手続きを行うことを意味し、そうした手続きを行うことで任意に設立でき、法人登記を行うことの他は行政への届け出等は不要である。法人数として最も多い株式会社や一般法人は準則主義に基づき設立される。


d 任意

 その他、法人格なき団体は直接の根拠法規はなく、設立手続きが法定されている訳ではない。したがって、任意に設立することができる。

 

 以上非営利・協同組織の法人形態につき、次回以降説明する内容を含めて営利法人と比較する形でまとめると、以下の表のようになる。

     公益的非営利法人  共益的非営利法人  中間的非営利法人  営利法人

法人形態   公益法人      各種協同組合      一般法人     株式会社
       NPO                                                            法人格なき団体
                   事業別公益法人

 

目的               公益目的                組合員の共益目的       明示されていない       営利目的
                                                        (非営利を明示)

 

所有等         私的所有なし                 組合員所有              明示されていない      私的所有
                    出資配当なし              (ただし、一人当り                                        出資配当
                  残余財産分配なし                   の上限あり)                                      財産分配
                    一人一票原則                 一人一票原則           一人一票原則だが     持分議決
                         別段の定めを許容

 

設立     認可OR認証                         認可                        準則OR任意               準則

 

税法分類      公益法人等                       協同組合                      普通法人           普通法人
                    (原則非課税                (全部軽減税率課税)              (全部普通税率課税)        収益事業課税)                                                  OR原則非課税
                                                                                                 収益事業課税

 

 以上非営利・協同組織における法人形態の概要説明を行ってきたが、次回は個別の法人形態について述べることとする。

                                                                                                                                 以上