公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

日本における非営利・協同組織の法人形態  ―公益的非営利法人―


 ここでは公益的活動を主目的とする法人のことを公益的非営利法人として分類する。公益的非営利法人は、基本的に行政認可を設立要件としている(宗教法人やNPOは行政認証による)。また、医療法人、学校法人等根拠法規がそれぞれ規定されている関係で、活動、事業別の法人形態が多い(業種を問わない法人形態は公益法人NPOとなる)。

(1) 公益法人

 以前には旧民法34条に基づくものとしての公益法人が活動していたが、2008年に法人制度改革の一環での一般法人法の制定と一般法人制度の導入に伴いこれが廃止され、一般法人の内公益性の高い法人が公益認定法に基づいて行政認可(認定)を受けて公益法人化する制度に改変された。なお、従来の公益法人は原則として2008年~2013年までの移行期間中に新たな公益法人もしくは一般法人に移行している。
 公益法人は、非営利の公益目的事業が全体収入の50%以上を占める必要があり、また、営利的事業の遂行は制限されている。一方、課税面や寄付金受領面等で一定の有利な取り扱いがされており、一定の課題はありつつも、非営利・協同組織には適合的な法人形態といえる。
 公益法人は、社団、財団のいずれも存在する。

① 目的

公益認定法2条に定められた「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」を主目的とする。
 具体的には23項目が挙げられているが、代表的なものを例示すると以下のようである。
三 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
六 公衆衛生の向上を目的とする事業
八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業 等

② 設立

 法人設立は、都道府県知事の認可(認定)を必要とする。認可(認定)とは、行政の審査で法に定められた様々な要件を満たすことを審査した上で設立が認められる手続きを意味する。実際には内閣府及び各都道府県に設けられた公益認定等委員会において審査される。
 主な認定要件は公益認定法5条に18項目定められているが、主要なものは以下のとおりである。

1号 公益目的事業を行うことを主たる目的とする
6号 公益目的事業について、原則として、収益がその実施に要する費用を超えない(収支相償)
8号 法人全体の事業費に占める公益目的事業の事業費の割合が100分の50以上である

 その他、法人役員の構成や理事会等の機関運営の民主制、適切な管理能力、特定者への利益供与の禁止等が定められている。

最も重要な要件は、当然ながら「1号 公益目的事業」であり、法人の主たる事業が法の定める公益目的事業に該当することが必要である。
 そして、仮にこれが認められたとしても、問題となるのは「6号(収支相償)」であり、多くの公益法人やそれを目指す法人がこの点で困難を抱えている。
 公益法人であっても、自立した財政運営を行うためには、ある程度の剰余(「収益―費用」の差額)が必要である。収入の多くを国等からの補助金等に依存していたり、建物、機器等の設備投資を必要としない法人であれば、毎期収支相償状態であっても事業継続は可能であろう。しかし、実際には公益法人の多くが補助金等に依存せず、また、多額の設備投資を行い、そのために多額の借入を行ってその返済を行いつつ事業を継続させている。
 このため、認定基準上では単年度で剰余が発生した場合に、例外的にそれを将来の投資に使用するための資金を特定して(資産取得資金)、実際の投資時まで留保することを認めている。しかし、過去の設備投資において借入れられた借入金の返済部分は基本的に考慮されておらず、それに剰余金を充当することは認められていない。このため多くの公益法人が財政運営上困難を強いられることになっている。
 したがって、この収支相償要件はより柔軟なものとする必要がある。より根本的には、公益目的事業とそれ以外とを資金的に区分し、公益目的事業で獲得した資金を他には使用させないルールとすることが適切である。例え、正味財産増減計算上の剰余(一般的な損益計算に基づく利益の意義)がプラスであっても、それを公益目的事業内で蓄積し運用することには問題はないはずである。現状のように正味財産増減計算上の剰余(一般的な損益計算に基づく利益の意義)を認めないというルールは、公益目的事業を主とした公益法人の活動を阻害しかねない。 

③ 法人運営

 定款、一般法人法、公益認定法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 基本構成員としての社員(会員)総会(社団の場合)、法人役員としての理事会、監事会、評議員 会(財団の場合)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国等や同種の公益法人 等に寄付する。
・ 社員(会員)は社会に開かれ、不当な入会条件等を付してはならない。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・  公益法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負う。また、行政庁による定期的監査を受ける。

④ 対外的信用

 非営利の公益的活動を行う法人として、その活動に一定の信頼を得ることが可能である。

⑤ 行政等からの補助金取得

 運営する公益目的事業に対して、制度化された施設補助、運営費補助の制度がある場合がある。また、一定の公益的事業に対する補助金募集に対しては、公益法人等に募集対象を限定しているものもある。

⑥ 不動産取得や銀行借入

 公益目的事業遂行等のために法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
 ただし、基本的に投機的な資産取得、資金運用は禁じられており、遊休財産規制(公益目的事業等のために必要な財産以外の財産は一定限度以内)もある。さらに、②で述べたように、将来の収入を見込んでの不動産取得等を行う場合には、収支相償要件が障害となる可能性がある。

⑦ 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、内閣府公益認定等委員会より公表されている公益法人会計基準に基づく。

・ 経理公開は、毎期の決算書を所轄行政庁に報告し、また、公告開示(官報等への掲載の他、定款 で定めることによるホームページにへの掲載でもよい)し、法人事務所内での閲覧請求に応じるこ とが求められている。 

・ 法人税は、法人全体の収支ではなく、公益目的事業を除く事業について、税法上の収益事業を行 っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に普通税率を乗じて税額算定され納付義務 が生ずる。ここで、収益事業とは34事業が示されている。例えば以下の通りである。
・物品販売業ーーー有償でのもの、サービスの譲渡
・請負業---外部からの委託に対して物的人的サービスを提供し、対価を受け取るもの
・技芸教授業ーーー学校教育法に基づく学校法人等によるものは原則非課税だが、それ以外の教          育活動を有償で行う場合には課税
ごく大雑把に言うと、受益者より対価を得て行う活動は税法上の収益事業に該当する可能性が高 い。したがって、それを避けるためには、収入を得る方法として固定的な会費、寄付等を活用して いくことが考えられる。
  また、固定資産税(地方税)について、社会福祉法上の社会福祉事業に供する固定資産は非課税 となる。
・ 消費税は、公益目的事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、 役務の提供を課税対象とする。ただし、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者と して現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。 すなわち会費や寄付金はこの定義からいって不課税となるので、法人税と同様収入を得る方法を工 夫する必要がある。
ただし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づく ことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者 の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる 可能性が強い。留意が必要である。

⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典

公益法人の公益目的事業に対して支出した寄付金は、個人の所得税の計算上所得控除もしくは税額控除を受けることができる(公益法人の所在自治体については法人が届け出ることで地方税の税額控除を受けることができる)。また、法人においても法人税の計算上寄付金控除の限度枠を一定拡大することができる。
こうした点で、公益法人は寄付金募集をする上での有利性がある。

 

 

(2) 事業別法規に基づく法人

 医療法人、社会福祉法人等の事業別法規に基づく法人形態は、日本独特の所轄官庁による縦割り制度により制度化された法人形態である。例えば、医療法人、社会福祉法人厚労省の所轄、宗教法人、学校法人は文科省の所轄である。これらはいずれも非営利で公益性を持つ法人として広義の公益法人に分類される。

 

① 医療法人(社会医療法人

 

a 医療法人の分類 

 医療法人は医療法に基づく非営利の法人とされているが、現状では株式会社と同じく出資持分を持つものも認められており、単純に非営利・協同の法人形態とはいいがたい。以下のような分類となる。

ー非営利・協同とは言い難い医療法人ー

・ 経過措置医療法人

 現在の医療法では出資持分を持つ(出資者への配当は認められないものの残余財産分配権は保有する)医療法人の設立は認められないが、2007年の医療法改正前においては出資持分を持つ医療法人や医師一人出資の医療法人が認められており、経過措置としてそれ以前に設立したものの存続は認容されている(医療法付則第10条2項)。このため、現在でも医療法人数の80%以上がそうした医療法人(「経過措置医療法人」という)となっている。経過措置医療法人は、医療法人としてのいわゆる収益事業の実施は規制されているものの、主として所長医師の節税目的等で設立されている場合も見られ、また、株式会社と同様に特定個人の出資持分があることからいって非営利・協同の法人形態とはみなし難い。

ー非営利・協同組織とみなしうる医療法人ー

・ 出資額限度法人

 社団医療法人において、社員の退社及び残余財産の分配にあたり定款の定めでその出資額を払戻額の限度としたものである。持分がないわけではないものの、出資に基づく私的利益の享受は排除されている。2007年の医療法改正前の一時期に厚労省もこの拡大を検討していたが、改正後は出資持分の廃止を原則としたことから、現状で採用している法人数は少ないと思われる。

・ 出資持分の無い医療法人(社会医療法人を含む)

財団形式の医療法人、社団形式であっても定款において出資持分をなくした医療法人である。2007年の医療法改正後に設立された法人は出資持分を認められないのでその全てが該当し、それ以前に設立された法人でも特定医療法人(税法の定めた医療内容、規模等を含む一定の要件を満たした法人であり、税率の軽減を受けられる)等一定数存在する。
 なお、従来の出資持分のある経過措置医療法人から現行医療法に基づく出資持分のない法人への移行を進めるため、その障害となる移行時の課税問題を解決するための移行計画の「認定」制度が設けられている。
 また、この中でも医療内容や法人運営等一定の要件を満たす法人は公益性の高い医療法人として社会医療法人となる。

 こうした点を踏まえ、以下の医療法人の説明は主として「非営利・協同組織とみなしうる医療法人」特に社会医療法人を対象に行う。

 

b 医療法人の法的意義

 生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし遂行される医療行為を行う病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団で都道府県知事の認可を受けて設立される法人が医療法人である。
 この内、出資持分がないことだけでなく、民主的運営を図りうる役員、社員構成や救急医療等医療内容面での公益性が確保されている医療法人は、都道府県知事の認可を受けて社会医療法人となる。

 

c 設立、認可

 医療法人及び社会医療法人の設立、認可は都道府県知事の承認を必要とする。実際には各都道府県に設けられた医療審議会において審査される。
 
 医療法人の主な認可要件は以下のとおりである。

・ 財団または持分の定めのない社団であること
・ 社団のおける社員数は3名以上、財団における評議員数は理事数を超えること
・ 原則として理事は3名以上、監事は1名以上置くこと
・ 理事長は医師もしくは歯科医師であること、また、病院等の管理者は原則として理事とすること
・ 2か月以上の運転資金を有していること
・ 病院等の業務を行うための必要な施設、設備、資金を有していること。施設は自己所有であることが望ましく、賃借の場合には長期かつ確実なものであること

 医療法人から社会医療法人になるための主な認可要件は以下のとおりである。

・ 救急医療等確保事業等(*)公益的医療活動を実施している(過去3年間の実績が必要)
・ 役員、社員等については、親族等が3分の1以下であること
・ 理事の定数は6人以上、監事の定数は2人以上とする
・ 定款又は寄付行為において、解散時の残余財産を私的に分配せず国等に帰属させる旨定めている
社会保険診療に係る収入金額が全収入金額の8割を超えること
・ 理事等に対する報酬について、支給の基準を定め公開していること

(*)○休日診療、夜間診療等の救急医療
    ○周産期医療を含む小児救急医療
    ○へき地医療・離島医療
    ○重症難病患者への継続的な医療
    ○感染症患者への医療
    ○災害医療
    ○質の高い医療従事者の確保・育成に関する活動 等

 

d 法人運営

 医療法人は定款、医療法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 基本構成員としての社員(会員)総会(社団の場合)、法人役員としての理事会、監事会、評議員 会(財団の場合)の設置及びその適切な運営が求められる。

さらに、経過措置医療法人を除き以下のような運営が求められる。

・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国、同種の社会医療法 人等に寄付する。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・  医療法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、また、社会医療法人の場合所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負い、行政庁による定期的監査を受ける。

 

e 対外的信用

 医療法人は、個人開業医と比較して、一定の財産的要件を求められ、また、組織的運営が求められている点から、対外的信用度はある。また、21世紀に入り介護福祉分野に株式会社等営利企業の参入が認められているが、非営利の法人形態である医療法人はより社会的信用を得られうる。
 また、社会医療法人は、その中でも公益的医療を行い、より開かれた法人運営が義務付けられていることから信用度はより高くなるといえる。

 

f 行政等からの補助金取得

 医療法人を対象とした補助金制度はないが、医療福祉分野を対象とした経費、設備助成金制度を活用することは可能である。特に社会医療法人は、その公益的医療分野での補助金取得をする上で有利といえる。

 

g 不動産取得や銀行借入、収益事業

 医療福祉事業のための病院等の不動産取得は、医療法人の設立認可の上で望ましいとされている。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
ただし、医療法人は医療福祉事業以外の収益事業を営むことが禁止されているため、収益事業のための不動産取得やそのための銀行借入等は基本的にできない。なお、社会医療法人は、投機的でなく社会的信用を害しない範囲でその経営を支えるために一定の収益事業を行うことが認められている。

 

h 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた医療法人会計基準に基づく。

・ 経理公開は、毎期の決算書等を所轄行政庁に報告し、また、行政庁は請求に応じて決算書等を閲覧に供することとなっている。 

・ 法人税

 医療法人は、株式会社等の営利企業と同じであり、法人全体の収支に対して普通税率が課される。ただし、地方税である事業税については、社会保険診療部分は非課税なのでその分税負担は減る。
 また、特定医療法人は、協同組合と同じく軽減税率が適用される。
これに対し、社会医療法人は税法上公益法人等に分類され、法人全体の収支ではなく、社会医療法人の本来事業を除く事業を対象に、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に軽減税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。例えば病院、診療所等の医療事業は本来事業として非課税であるが、介護事業(付帯事業)や収益事業は課税対象となる。
 また、固定資産税(地方税)について、社会医療法人の認定要件に該当する固定資産については非課税となる。

・ 消費税

 法人税非課税事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。なお、医療保険事業は消費税非課税取引なので、医療法人の場合、課税売上は通常少ないが、見合いの控除対象仕入額も課税売上割合(売り上げに占める課税売上の割合)でしか控除できないので、税負担は生ずる。
 また、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、小規模医療法人の場合課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性が強い。留意が必要である。

i 受取寄付金の寄付者側の特典

社会医療法人も含めて医療法人に対して支出した寄付金は、個人の所得税計算上の特別な取り扱いはない。

 


② 社会福祉法人

 社会福祉法人は、社会福祉法に基づき、老人、障害者等に対する福祉事業を担う財団法人形態である。長く国等からの措置費(補助金)により財政運営される法人であったが、21世紀に入って措置費制度が大きく見直され、介護保険制度の導入も受けて、財政的な「自立」が求められるようになっている。事業そのものも従来社会福祉法人が担ってきた保育園や介護福祉分野は営利法人を含む他の法人形態による運営が認められてきているが、特別養護老人ホーム社会福祉法人のみの運営事業も残されている。

 

a 目的

 社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人である。社会福祉法では社会福祉事業を第一種と第二種に分類しているが(社会福祉法第二条)、第一種は利用者の保護の必要性が高い事業として、原則として国や地方自治体と社会福祉法人しか行うことができず、一方で第二種は利用者への影響が第一種と比べると小さく、社会福祉法人以外でも届出をすれば事業を行うことができる。第一種社会福祉事業は以下のとおりである。

一 生活保護法に規定する救護施設、更生施設等
二 児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設等
三 老人福祉法に規定する養護老人ホーム特別養護老人ホーム又は軽費老人ホーム
四 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害者支援施設
六 売春防止法に規定する婦人保護施設
七 授産施設及び生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業 (五は欠番)

 

b 設立、認可

 社会福祉法人の設立、認可は都道府県知事の承認を必要とする。
 
 社会福祉法人の主な認可要件は以下のとおりである。

・ 財団であること
評議員数は理事数の2倍を超えること。また、地域代表者、利用者家族の代表を含み、評議員の親族等の割合は1/3以内とすること
・ 原則として理事は6名以上、監事は2名以上置くこと
・ 理事には施設長、学識経験者、地域代表者を含み、理事の親族等の割合は1/3以内とすること
・ 1~3か月以上の運転資金及び事務経費を有していること
・ 事業の対象となる福祉施設は原則として自己所有であり、地方自治体等から賃借する場合には10百万円以上の資金が必要(なお、土地を賃借する場合には地上権等の登記が必要)。

 

c 法人運営

 社会福祉法人は定款、社会福祉法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 法人役員としての理事会、監事会、評議員会の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国もしくは社会福祉法 人等に寄付する。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・  社会福祉法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、また、社会医療法人の場合所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負い、行政庁による定期的監査を受ける。

 

d 対外的信用

 社会福祉法人は、社会福祉法に基づく公益的な社会福祉事業を担う法人であり、一定の財産的要件を求められ、また、組織的運営が求められている点から、対外的信用度はある。また、21世紀に入り介護福祉分野に株式会社等営利企業の参入が認められているが、非営利の法人形態である社会福祉法人はより社会的信用を得られうる。
 

e 行政等からの補助金取得

 社会福祉法が定める第一種社会福祉事業については、社会福祉法人を対象とした設備補助金、運営費補助金(措置費)の制度が設けられている。例えば、特別養護老人ホームを建設する場合には、建設資金の一定割合が国及び地方自治体から助成される。また、第二種社会福祉事業についても各種補助金制度が設けられている場合があり、その取得が可能である。
 ただし、徐々にその助成は削減されてきている。

 

f 不動産取得や銀行借入、収益事業

 前述の通り法人設立時での福祉施設は自己所有が原則である。法人設立後においては、従来医療福祉機構からの借入以外銀行借入等による不動産取得は認められなかったが、現在は可能である。ただし、社会福祉法人として、無理のない返済計画によることが求められている。
 また、社会福祉法人の場合、個別の社会福祉事業によって運営費補助金を受けている場合があることから事業別に収支、資金を管理することが求められており、他の事業会計からの借入等が制限されている。
また、社会福祉法人社会福祉事業の遂行に支障がない限り、他の公益事業や収益事業を行うことが認められているが、これも収支、資金を個別に管理することが必要である。

 

g 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた社会福祉法人会計基準に基づく。社会福祉法人会計 基準は、原則として、法人全体、事業区分別、拠点区分別に、資金収支計算書、事業活動計算書(損 益計算書)、貸借対照表の3つの計算書類を作成する必要があることが特徴である。

・ 経理公開は、毎期の決算書等を所轄行政庁に報告し、福祉医療機構がそれを取りまとめて財務諸 表等電子開示システムとして開示している。

・ 法人税

 社会福祉法人は税法上公益法人等に分類され、法人全体の収支ではなく、社会福祉法人社会福祉事業を除く事業を対象に、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に軽減税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。したがって、税法上の収益事業のない法人が多いためかなりの法人が非課税となっている
 また、固定資産税(地方税)について、社会福祉事業に供する固定資産は非課税である。

・ 消費税

 法人税非課税事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。なお、社会福祉事業は消費税非課税取引なので、社会福祉法人の場合、課税売上は通常少ないが、見合いの控除対象仕入額も課税売上割合(売り上げに占める課税売上の割合)でしか控除できないので、税負担は生ずる。
 また、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、社会福祉法人の場合課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。

 

h 受取寄付金の寄付者側の特典

 社会福祉法人に対して支出した寄付金は、個人の所得税の計算上所得控除もしくは税額控除を受けることができる(社会福祉法人の所在自治体については法人が届け出ることで地方税の税額控除を受けることができる)。また、法人においても法人税の計算上寄付金控除の限度枠を一定拡大することができる。
こうした点で、社会福祉法人は寄付金募集をする上での有利性がある。

 


③ その他学校法人、宗教法人等

 その他、公益的活動を行う法人形態として、学校法人、宗教法人等がある。

 

a 学校法人

 学校法人は、学校教育法1条に定める私立学校の設置運営を目的とする私立学校法に基づく法人である。学校としては小中高等学校、大学の他、幼稚園の一部も学校法人として運営されている。なお、学校教育法1条に該当しない専修学校各種学校を運営する場合にも準学校法人として法人化が可能である。
 学校法人は、土地等の資産の寄付に基づき、その他教育、研究施設としての適切性の審査を経て、文科省もしくは都道府県により認可される。学校教育法1条に基づく学校法人は、校舎等の建設費や運営費につき定められた一定の計算割合で補助金を受領する。
 学校法人は、設立時の寄付に基づく財団であり、社団でいうところの寄付行為に基づき運営される。運営機関は役員としての理事会、監事会の他評議機関としての評議員会の設置が求められる。評議員数は理事数の2倍以上が必要である。
学校法人は文科省令である学校法人会計基準に基づき会計が行われ、また、税負担は公益法人等として原則として非課税、収益事業のみ課税対象となる。

 

b 宗教法人

 宗教法人は、宗教法人法1条に基づき、宗教団体が礼拝の施設等を所有し運営するために設立する法人である。宗教法人には個別に礼拝の施設を備える単位宗教法人と、宗派、教団のように寺院等を傘下に持つ包括宗教法人(傘下にある法人は被包括宗教法人)とがある。
 宗教法人は、礼拝施設等の拠出に基づき、文科省もしくは都道府県により「認証」される。「認証」とは、行政が宗教法人の設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。株式会社等のように法令にのっとった手続きをすれば行政届け出等は不要であること(「準則主義」)よりは厳しいが、社会福祉法人のように行政の審査で様々な要件を満たすことを確認した上で設立が認められる「認可」よりは簡便である。
 宗教法人は、礼拝施設等の拠出に基づき設立される財団といえる。社団でいうところの定款である「規則」に基づき運営される。運営機関は役員としての3人以上の責任役員を置き1名を責任役員とする。責任社員の不在に備えて代務者を置くことも求められる。なお、義務付けられてはいないが、大規模法人では一般に信者総会等を設置し、そこで重要な意思決定の承認を受けている。
 宗教法人には法定された会計基準はないが、公認会計士協会より「宗教法人会計の指針」が出されている。また、税負担は公益法人等として原則として非課税、収益事業のみ課税対象となる。例えば、喜捨、墳墓の永代使用料、おみくじ販売等は非課税であるが、絵葉書の販売等は課税対象となる。

 


(3)NPO

 特定非営利活動促進法に基づき、1998年からスタートした法人形態(社員(会員)を基礎とした社団、ただし、出資は不要)である。NPO中一定の要件をクリアーした認定NPO(もしくは仮認定NPO)になることで、NPOへの寄付者側での所得税等の寄付金控除等が受けられることから、収入原資としてその多くを寄付金募集に期待する団体にあっては適合的な法人形態といえる。

 

① 目的

 特定非営利活動促進法に掲げる20項目の内のいずれかを法人の事業目的としなければならない。
 ex.・保健、医療、福祉の増進を図る活動
・子供の健全育成を図る活動 etc

 

② 設立

 法人設立は、宗教法人と同様に都道府県知事の「認証」を必要とする。「認証」とは、行政がNPOの設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。
 具体的には設立申請後2カ月間の定款等の公衆縦覧の後2カ月以内に認証される。法令に適合している限り基本的に認証され、不認証の場合には行政はその理由書を通知しなければならない。
 また、設立時の一定額以上の寄付や出資といった財務要件はない。

 

③ 法人運営

 定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 基本構成員としての社員(会員)総会、法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な 運営が求められる。
・ 非営利であり、獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国もし くは公益法人社会福祉法人等に寄付する。
・ 社員(会員)は社会に開かれ、不当な入会条件等を付してはならない。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。

 

④ 対外的信用

 公益法人社会福祉法人ほどではないが、非営利の法人として、その活動に一定の信頼を得ることが可能である。

 

⑤ 行政等からの補助金取得

 社会福祉法人のように、運営する社会福祉事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。ただし、実施する事業に公益性が認められれ、地域住民からの支持が得られるようであれば、行政等からの予算措置に基づく補助金取得はありえよう。

 

⑥ 不動産取得や銀行借入

 法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。

 

⑦ 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、公的基準ではないものの内閣府から推奨されているNPO法人会計基準に基づく。また、 毎期の決算書は都道府県に報告し、また、公告開示(官報等への掲載の他法人事務所内での掲示で もよい)することが求められている。 

・ 法人税は、法人全体の収支ではなく、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで 算定された課税所得に普通税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。ここで、収益事業とは34 事業が示されており、NPO法の目的事業であるかいないかは問われず、また非営利性の有無は問 われない。例えば以下の通りである。
・物品販売業ーーー有償でのもの、サービスの譲渡
・請負業---外部からの委託に対して物的人的サービスを提供し、対価を受け取るもの
・技芸教授業ーーー学校教育法に基づく学校法人等によるものは原則非課税だが、それ以外の教育活動を有償で行う場合には課税

 ごく大雑把に言うと、受益者より対価を得て行う活動は税法上の収益事業に該当する可能性が高い。したがって、それを避けるためには、収入を得る方法として固定的な会費、寄付等を活用していくことが考えられる。
・ 消費税は、原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。ただし、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義 務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。すなわち会費や寄付金はこの定義からいって不課税となるので、法人税と同様収入を得る方法を工夫する必要がある。また、社会福祉法上の社会福祉事業等は別途非課税とされているので、実施する事業の同法への該当の有無も確認する必要がある。

⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典

 NPO中一定の要件をクリアーした認定NPO(もしくは仮認定NPO)になることで、NPOへの寄付者側での所得税等の寄付金控除等が受けられる。その要件とは基本的には事業内容の公益性(非営利であることは当然であるが非共益(少数者による共通利益を図る団体でないこと)であることも求められる)、事業運営の適正性である。
・ 認定NPOとなるための重要なポイントは、パブリックサポートテスト(PST)をクリアーすることである。 
PSTとは、NPOが多くの地域住民に支えられているかどうかを示す指標であり、おおむね以  下のような算定式ではかられる。
(相対値基準)受入寄付金額(この寄付金には一定の会費や補助金を含む)÷経常収入額  ≧ 20%
(絶対値基準)3千円以上の寄付者が年平均で100名以上

・ ただし、設立後間もないNPOの場合PSTを満たすことは容易ではないことから、他の要件を 満たしていれば仮認定NPOとなり、認定後3年間に限り寄付者側での所得税等の寄付金控除等が 受けられる。

                                     以上