非営利・協同組織の経営管理 -その2-
「その1」に引き続き、非営利・協同組織の経営管理の特徴点について述べる。
3,非営利・協同組織での経営管理の優位性、特徴点、課題
営利、非営利を問わず、事業組織における経営管理は通常以下のような形で遂行される。
・ 定款及びそれに基づく管理、人事労務、経理、総務等の諸規定の整備と根拠法規に 従っての最高議決機関である総会、執行機関である取締役会、理事会、監査機関である監査役会、監事会の設置とその運営。(いわゆるコンプライアンス(法令遵守))
・ 組織内の経営組織の整備とその運営。すなわち、各事業所における管理体制、各職制(いわゆるライン)の整備及び企画、人事、経理、総務といった本部機構(いわゆるスタッフ)の整備とその運営。
・ 事業方針と予算に基づく事業の執行、管理
・ 人材の確保と各種教育の実施、各種労働条件の整備。
・ 財務会計システムの整備と決算処理及び報告 等
営利組織と同様非営利組織も同じ社会的な存在であり、非営利・協同組織であっても一般的な経営管理制度の整備運用を図るべきことはもちろんである。ただし、以下の点に留意する必要がある。
・ 基本的に法人の存立根拠となる法令等は遵守する必要があるが、非営利・協同組織の経営管理上不合理なものがあればその改善を求めるべきであり、また、その対応についても創意工夫する必要がある。(例えば、公益法人の根拠法上公益法人の公益目的事業については、利益を出してはいけないこととなっている(収支相償)。しかし、公益法人 であっても補助金等に依存せず自己資金だけでなく借入を行って設備投資していくには必要最低限の利益は不可欠である。よって、非営利・協同組織はその見直しを求めるとともに、現状あるそうしたルールに対応して必要な工夫をする必要がある。)
・ 一般的な経営管理システムは非営利・協同組織において備えるべき最低条件である。これらを整備しつつ、それに非営利・協同組織に必要なものを付け加えあるいは改変するといった創意工夫が求められる。一方、無駄に管理システムを肥大化させるのも問題であり、効率化の観点も求められる。
以下、そうした通常の経営管理を踏まえた上での非営利・協同組織での経営管理の優位性、特徴点を述べる。
(1) 非営利・協同組織の経営理念、経営目標、ミッション(使命)
「私たちは”みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」これはいったいどこの経営理念だろうか?営利企業の経営理念とはとても思えない。だが実際にはコンビニエンスストア事業を展開する株式会社ローソンの経営理念である。
コンビニエンス事業は基本的に店舗に対して商品やサービス、ノウハウを提供し、その対価として店舗オーナーから粗利益(売上から商品原価を差し引いた利益)の50~70%を徴収するビジネスモデルで運営されている。この間新聞報道等で伝えられている通り、ローソンを含むコンビニ各社と店舗オーナーとの間で多数のトラブルが発生し、裁判沙汰にもなっている。賞味期限が近づいた商品の値引き販売の禁止や24時間365日の営業の強制が店舗オーナーやその家族の生活、健康を破壊する事態が頻発しているからである。店舗オーナーはコンビニ各社から収奪された利益の残り分からアルバイトの給与等の経費や期限切れ商品の廃棄損を賄わなければならず、手元に残るのは最低生活費以下というところが増えている。
そのくせローソンの上記の経営理念に基づく「基本姿勢」として公表された文書には「私たちは、最大のパートナーである加盟店を支援します。」とある。いっていることとやっていることがまるで逆である。ローソンに限らず、営利企業は経営理念、経営目標として、社会的責任を果たすといったスローガンを掲げているところが多い。しかし、実際には利益の最大追求を図るのが目的であって、社会的責任云々は二の次である。それは株式会社が出資者である株主のものであり、株主への配当や株価の引き上げを基本使命としていることからいって当然であり、ローソンの経営理念は空文に過ぎない。
これに対し、非営利・協同組織の経営理念、経営目標、ミッションはどうだろうか。医療を行う非営利・協同組織の連合体である全日本民医連の綱領には以下のような条文がある。
「一.人権を尊重し、共同のいとなみとしての医療と介護・福祉をすすめ、人びとのいの ちと健康を守ります
一.地域・職域の人びとと共に、医療機関、福祉施設などとの連携を強め、安心して住み続けられるまちづくりをすすめます」
そして、これに基づく活動方針として、加盟するほとんどの事業所において差額ベッド代を徴収せず、無料低額診療(病院等負担での患者自己負担額の減免)を実施している。これは例え経営が苦しく赤字になったり、職員の賞与を減額したりした場合でもであり、綱領でいった通りの医療活動を行っているのである。
このことは、営利を追求せず株主等の出資者、法人所有者が存在しない非営利・協同組織であることによって可能となる。こうした経営目標を掲げることで、民医連のような非営利・協同組織の存在意義を明確にし、地域の信頼を集め、働く職員を結集していくことができる。ここに大企業のような営利組織と非営利・協同組織の本質的違いがあり、経営管理上も非営利・協同組織の発展の上で不可欠である。
非営利・協同組織の経営目標を定めるうえで必要な条件は以下のとおりである。
・ 嘘偽りのない組織の真の目標であり、それにもとづき活動方針、経営計画等が定められるものとする。
・ 利用者、地域住民や経済的、社会的に困難を抱える人々に貢献し、社会的利益、公益と整合するものである。
・ 職員や関係する人々の生きがい、働きがいと合致するものである。また、働く職員の生活を守ることも経営目標の中に含まれる。
・ 抽象的なものにとどまらず、所在する地域、事業分野等に即して策定する。このために事業を取り巻く市場環境を国や自治体の政策動向や競合する営利、非営利の事業体の動向を注視しながら、非営利・協同組織としてのポジションを見定めていく。
・ 現場で働く職員等の指針として理解、実践できるよう各事業所単位でもなるべく具体化する
なお、日本において、非営利・協同組織は主要製造部門等いわゆる基幹産業分野には存在せず、大企業と呼ばれるような組織規模をもつものはごくわずかである。このことをもって、資本主義社会における市場経済が定着している産業分野では非営利・協同組織は発展できないという主張がある。しかし、ヨーロッパにおけるEUでは、非営利・協同組織を「社会的経済」と総称し、EU内で専門部局を設置しその発展を促している。また、スペインバスク地域でのモンドラゴン協同組合グループは、機械製造、スーパー、共済、金融等の事業を行う10万人規模の構成員を擁する事業体として発展している。日本には非営利・協同組織の発展を促すような法制度や政策はほとんどなく、また、確かに激しい市場環境の中で営利組織と競争しながら非営利・協同組織を運営していくことの困難性はあるが、資本主義社会においても非営利の理念を明確にした非営利・協同組織があらゆる事業分野で発展しうると考える。
(2) 非営利・協同組織での経営組織と民主的運営
従業員の経営参加、経営組織の活性化のための活動として、営利企業であるトヨタ自動車株式会社が始めた「改善、提案制度」が有名である。「改善、提案制度」は職場単位等の小集団が業務の改善、効率化について提案、実施し、それを組織全体で評価し、さらに一定の褒賞をすることを通じて、経営組織を活性化させ、現場従業員の経営参加意識の向上を図る取り組みのことを言い、高度成長期に脚光を浴びた日本的経営の優点の一つとされた。しかし、根本的疑問として、「改善、提案制度」等が営利企業において真に職員の経営参加を進めるものとなるのだろうか?と思う。なぜなら、営利企業の所有者はあくまで出資者である株主であり、獲得した利益の大部分は株主側に帰属するからである。実質上の大株主であり社長等の豊田一族は、年1兆円以上もの利益を原資に高額の配当利益と株式含み益を享受しており、これに対し従業員への還元はごく一部であり、非正規雇用の割合も増加させている。日本全体では消費税率や社会保険負担率の引き上げもあって、一人当り可処分所得が減少し続けている。つまり、営利企業における従業員の経営参加なるものは虚構であり、実質上支配株主に向けての経営者によるトップダウン型の経営管理が行われていて、これは日本においても同様であり21世紀に入って新自由主義によりますます顕在化しているといえる。
これに対し、非営利・協同組織には配当や株式値上がりによる利益を求める株主は存在しない。理事長等の役員であっても、基本的にその労務対価としての報酬しか受け取っていない。協同組合法人には組合員に対する出資配当は認められている場合があるが、実質上それは預金利子程度に過ぎない。法的に株式会社形態を採用せざるを得ない非営利・協同組織においては、定款で「配当はしない」という規定を定めたところも存在する。すなわち、労働者に対する搾取関係は基本的に存在せず、獲得した利益、剰余金は職員に還元するか組織の将来の設備投資等に使用される。したがって、「改善・提案制度」のような職員の経営参加システムは、非営利・協同組織においてこそその本来の役割を発揮できる。
非営利・協同組織の場合、非営利を使命とすることから世間水準を大きく超えるような職員への給与支給は現実的に難しい状況にある。事業への資金調達面でも株主等からの増資等による有利かつ多額の資金確保はできない。しかし、それに対抗して、全職員が経営に参加し、非営利の事業を立派に進めること、地域の共感を得て資金の協力を求められることは大きな優位点であり、この優位性を十全に発揮させることを非営利・協同組織における経営管理の柱にすえなければならない。
したがって、非営利・協同組織は、基本的にトップダウンでなく、現場単位、地域単位でのボトムアップ型の組織を構築し、「全職員参加の経営」といわれるように運営していくことが求められる。その際の基本点は以下のとおりである。
・ 構成員たる人間をどう見るか
営利企業の場合、働く職員は機械等と同様利益を稼ぎ搾取するための道具であり、利用者を含む地域住民は売上を拡大するための単なる顧客にすぎない。
これに対し、非営利・協同組織で働く職員、事業に協力し利用者になる地域住民はあくまで人間であり、家族を含む自己の生活の向上を望むとともに、仕事や日々の暮らしに生きがいと自己の成長を求め、社会的存在として他者との共感を望むものとしてとらえ、経営組織を構成し、運営していく必要がある。
・ 民主的所有と運営
非営利・協同組織の生命線は民主的所有である。一部経営者が出資金や貸付金等で実質支配し、獲得した剰余を受け取るような状態を生じさせることは、非営利・協同組織の死滅につながる。非営利・協同組織の法人形態としては、協同組合の組合員出資によるもの、社団法人での社員出資によるもの、財団法人での出資者が存在しないもの等があるが、いずれにしても個人利益を図りえない多数の人々による所有方式をとる必要がある。出資者の構成としても、出資者等は働く職員や協力を受ける地域住民等によるべきである。
また、その運営についても一部経営者等による専制があってはならない。地域に開かれ、職場を基礎としたボトムアップ型の民主的運営を制度化し、運用していく必要がある。
また、運営機関としては最高議決機関としての総会、総代会、評議員会を基礎として、そこから委任を受けた理事会等が執行責任を負い、監事会等の監査機関が執行状況のチェックを行ういわゆる「三権分立」の制度を確立し、運用していく必要がある。
・ 職員等に対する正確な情報提供、意見聴取
非営利・協同組織における組織基盤となる職員や出資者等に対しては、意思決定や業務遂行等のための正確で有効な経営情報を迅速に提供していく必要がある。また、職場会議や組合員の班会等での議論の結果出される意見等が各事業所執行機関や理事会等に報告伝達し、組織の総括と方針に反映させるようにすべきである。また、前述した「改善・提案制度」の活用等も非営利・協同組織の一部で行われ成果を上げた事例がある。
・ 結集しての事業遂行
決定した方針は、経営組織として職員全体で結集して実施していく必要がある。実践の結果を総括し、不都合な点や不十分な点があれば適時修正し新たな実践に踏み出していく必要がある。
なお、非営利・協同組織の過去の失敗例として、民族紛争以前の旧ユーゴスラビアにおける自主管理企業が提示されることがある。同じ社会主義体制でありながら、旧ユーゴは旧ソ連等と異なり、上からの管理統制ではなく各事業組織の自主管理による計画経済として、一時期もてはやされた。当初はかなりの成果を上げたように見えたが、1980年代に入って急激な経済不振に見舞われ、民族間の紛争と併せて自主管理制度とともに国自体も崩壊することとなった。
社会主義体制内の自主管理という意味で機械的に非営利・協同組織と比較することはできず、また、後進国からの出発で市場経済が未発達、複雑な民族問題を抱えていたこと等の特殊な要因も踏まえる必要はあろう。しかし、自主管理企業の失敗原因の一つとして、経営組織の官僚主義化、形骸化があったことは押さえておくことが重要だと思う。
旧ユーゴの自主管理企業では、そこで働く労働者の代表によって構成される労働者評議会が運営責任を持ち、そこから任命、支持される企業長等の経営者が実際の経営執行を行う下からの民主的仕組みとなっていた。しかし、現実にはこうした制度が形骸化し、労働者は自分の職場の経営に関心を持たず、事実上企業長が国等の行政機関により派遣されていたり、経営の失敗を隠蔽するため赤字企業を合理的理由もなく他の企業と合併させたりしたことがあった。この点は、現代の非営利・協同組織にとっても教訓化すべきことと思われる。非営利・協同組織の形骸化を克服するために、(1)の経営ビジョンをしっかり持って職員等とそれを共有し、さらに以下(3)~(5)で述べるように責任あるリーダーシップの発揮、適切な人事政策、適切な財務会計管理を進めていく必要がある。
(3) 非営利・協同組織におけるリーダーシップ
非営利・協同組織において、リーダーシップは不要との誤解が一部にある。現場において勝手に事業運営を行って平気で多額の赤字を発生させたり、理事会が経営執行機関ではなく単なる協議調整機関となっているような事例はそうした誤解によるものと思われる。これは明らかな誤解であり、経営組織である限り、組織を引っ張るリーダーシップは絶対必要である。ただ、非営利・協同組織は営利企業のように専制的なトップダウン型のリーダーシップではなく、情報や意見の集約型、提案説得型のリーダーシップである。なかなか難しい課題ではあるが、追求していくことが求められる。
一般に、リーダーシップは理事長等経営トップのリーダーシップと事業所責任者等の中間管理層のリーダーシップとに分かれる。
経営トップ層のリーダーシップは、主として①後継者人事政策、特にトップ層の確保養成と②経営理念、経営目標に基づく中長期の事業ビジョンの策定、提起の面で発揮される。非営利・協同組織においては、よく理事会のもとに人事委員会、長期ビジョン検討委員会等を設置し、そこに次世代のスタッフを配置し検討提案させるような事例が見られる。こうした方式は将来の経営責任当事者自身に検討させるという意味で適切な面はあるが、重要なことは最終的な策定、提起の責任は経営トップが担うべきということである。日常の管理業務に追われ、各種委員会任せのような事例がまま見られるが、こうした状態を招くようであれば、トップリーダーの役割は果たせない。
中間管理層のリーダーシップは、主として日常業務の管理、監督面で発揮される。プラン、実行、総括評価、改善といういわゆるPDCAサイクルを円滑に進めつつ、各職場の状況や意見等を吸収し、経営トップ層につなげていくことが求められる。
非営利・協同組織における説得型、意欲引きあげ型のリーダーシップを担うために必要なリーダーのあり方はどうあるべきだろうか。第一に古い言葉でいうと率先垂範である。組織の代表として職員や地域住民からの強い信頼を得られるような人物でありそうなるべく努力する人がふさわしい。第二に正しい方針を持つことである。様々な困難の中でも冷静に正確な方針を指し示すことができる人である。第三に謙虚に職員等の話をよく聞きつつ、その中でも粘り強く職員の成長を促すような指導ができる人である。
(4) 非営利・協同組織での人事政策
非営利・協同組織において、営利企業をしのぐ成果を上げるための財産は人である。非営利・協同組織の事業に共鳴し、その発展に人生をかけてくれる職員を確保し、組織の中で成長させていくことは、非営利・協同組織そのものの発展に不可欠である。そのための重要なポイントは以下のとおりである。
① 職員の確保、養成、配置
非営利・協同組織において事業活動を進め発展させていくためには、組織理念に共感し懸命に働いてくれる職員の確保が必要であり、また、事業発展の資するように十分な研修教育を行って養成し、さらに職員の能力が発揮できる経営組織内での最適なポジションに配置する必要がある。
非営利・協同組織において、大事な点は以下のとおりである。
第一に当然ながら職員を大事にすることである。職員は、営利企業のように搾取の対象ではなく、ともに前進していくための同志である。一方的な指示命令の対象ではなく、事業や組織について共に考え、実行していくようにする必要がある。まして、非営利・協同組織においてリストラ等をやって職員を切り捨てるような行為は絶対してはならない。
第二に職員の採用、養成にあたっては、最もだいじにすべきことは非営利・協同組織の経営理念や事業活動に対する共感と共に実践していく決意の有無である。もちろん、職員の能力や適性等に基づく採用、育成は当然だが、非営利・協同の事業活動に熱意を持つ姿勢をより重視すべきである。
第三に職員の職務を常に職員自身の生きがいと結びつけていく努力を行うことである。営利企業と異なり、非営利・協同組織に入職し頑張ろうとする職員には自分の給与のアップだけを目的としたものはいないはずである。そうした職員の初心を大事にし、そのやる気をはぐくむような教育、職場配置等が求められる。
第四に情実人事を排し、年功序列的人事を脱してやる気や能力に基づく人事を遂行することである。非営利・協同組織は一部経営者の所有物ではなく、当然情実人事などがあってはならない。また、旧態依然たる年功序列式人事は組織全体を停滞させ、官僚主義的運営の原因にもなる。人事も可能な限り明瞭化し、職員のやる気や能力に応じたものとしていく必要がある。また、後述の予算管理とも関連し、予算遂行状況によってそれを100%以上達成した場合には、全職員あるいは当該事業所職員の超過額の一部を決算賞与として支給するといった取り組みを行っている非営利・協同組織もある。
② 人事評価と職員処遇の在り方
営利企業の場合、人事評価と職員処遇についてはある意味単純である。基本的に利益獲得への貢献度合で評価され、給与等もそれに基づき決定されていく。終身雇用、年功序列の日本的経営では欧米と比較してソフトな印象があったが、バブル崩壊以降否定され、非正規雇用の増加と併せてより露骨なものとなった。
これに対して、非営利・協同組織ではほとんどそうした人事評価等は行わない。利益追求を経営目的としないことからいってそれは当然である。しかし、それでは非営利・協同組織において人事評価等は不要なのであろうか。人事評価をせず、年功序列の賃金体系で果たしてよいのだろうか。
非営利・協同組織の中で職責者や経営幹部になろうとする職員がでてこない、という「悲鳴」を聞くことがある。ただの職員であれば残業代等100%支給されるのに、管理者になったとたん管理者手当が固定で出されるだけで実質労働時間は増えるばかり、というのがその理由だと聞いた。こうした状況では健全な経営組織の発展は図れないであろう。非営利・協同組織であっても適切な人事評価を行い、それを管理者登用や給与等の職員処遇に反映させていくことは必要と考える。
それでは、非営利・協同組織における人事評価はどのように行われるべきだろうか。一部には「目標管理」システムと結合して、各職員の業務上の目標との対比で到達度を評価し、それを賞与等の処遇に反映させる取り組みも行われたことがあった。また、民医連の法人の多くでは、年に一度職場管理者による職場面接を行い、それを管理者登用等の判断材料とする取り組みが行われているようである。現状は模索段階にあると言わざるを得ないが、以下の点を基本に、創造的に実践していくことが望まれる。
・ 人事評価は、営利企業における利益貢献といった単純な指標では行わない。非営 利・協同の事業活動への貢献度といった指標を可能な限り客観化し、用いていく。
・ 評価基準は明瞭で、組織内にも公表しうるものとすることが望ましい。
・ 評価は直属の上司だけでなく、事業所管理者等複数のものにより、集団的に行う。
・ 評価の結果は、その度合等を慎重に検討したうえで職員の給与、賞与や管理者登用等に反映させる。なお、当然ながら管理者になったことで給与が減少するといったような矛盾はあってはならない。
③ 労働組合との連携
非営利・協同組織では経営者は搾取者ではなく、労働者は搾取されるものではない。また、非営利・協同組織は、経営目標の一つとしてそこで働く職員の生活を守り発展させることを使命とする。よって、非営利・協同組織において職員の生活向上を基本目的とする労働組合は経営者の敵ではなく、共に連帯し、経営組織の発展を協同して図っていく対象である。
したがって、非営利・協同組織と労働組合の関係は、営利企業のそれとは根本的に異なる。非営利・協同組織は職場の代表、働く労働者の代表として労働組合の意見を真摯に受け止める必要があるし、一方労働組合は、所属する労働者が外部の営利企業や政府等から収奪を受けていることは当然あるとしても、非営利・協同組織は基本的に労働者搾取は無い経営であることを正しく認識する必要がある。また、両者がそれぞれの立場で率直な意見を交わしあい、場合によっては労働組合がストライキを行うことは当然ありうるが、職員の生活向上を図っていくことを基本に相互に連携して取り組みを進めていくことが望まれる。さらに、非営利・協同組織が労働組合と共同して国や営利企業等への社会的要求を行い運動していくこともこの間実践されている。
(5) 非営利・協同組織での会計管理
会計とは、その実施により経営組織の状況を金額や係数で把握し、真実の経営状況の開示や経営改善、保有する財産の保全等を果たす役割を持ち、経営管理を適切に遂行していくための手段、道具である。非営利・協同組織においては、会計を通じて職員、組合員、地域住民等の経営参加を進めて行くことを目的とする。
会計は、その役割に応じて、大きく二つに区分される。なお、この二つは別個に遂行されるわけではなく、実際には会計業務として一体的に運用される。
一つは財務会計と呼ばれる。財務会計は、外部報告用会計、制度会計とも呼ばれるが、要は非営利・協同組織に結集する人々や行政、さらには社会全般に対して、組織の経営状況の実態を決算書等の形式で報告する会計である。財務会計は、法人形態ごとに定められた法的基準(企業会計原則、公益法人会計基準等)に準拠する形で作成され開示される。非営利・協同組織も一個の社会的存在であり、基本的にそうした法的基準を踏まえて作成していく必要がある。
もう一つは管理会計である。予算を策定し実績と対比する中で経営改善の方策を検討し実践すること、不正、誤謬等を防止し保有する財産を適切に保全する観点で帳簿記録し、点検し、管理することがその役割である。非営利・協同組織において全職員での経営参加を進めるためには財務会計だけでは不十分であり、管理会計の手法を創意工夫して進めていく必要がある。
① 非営利・協同組織における財務会計実施上の留意点
非営利・協同組織はそれぞれの存在基盤となっている法人形態ごとに定められた法的基準に準拠して決算書等を作成するが、ただし、必ずしも機械的に準拠していればそれでよいという訳ではない。
営利企業は、21世紀に入って新自由主義のイデオロギーに基づき、利益追求を露骨に推し進めている。企業会計の分野では、利益の享受者である株主、投資家のための経営情報の開示が重視され、現在の企業価値の判断データとして、時価主義=保有する資産や負債を時価で評価する会計に変貌してきている。そして、時価主義会計の流れは株主等が存在しない非営利・協同組織の会計基準にも影響を及ぼしている。
例えば、この間企業会計において土地等の固定資産の評価につき減損会計が実施され、、非営利・協同の法人形態の会計基準にもほとんどそのまま導入されている。減損会計は不動産の評価額をその利用による獲得予想収益を基に決定するとし、取得価額よりその評価額が低い場合にはその分の評価減を計上するというものである。しかし、非営利・協同組織の場合には利益追求を目的としているわけではなく、例え収益力の乏しい固定資産の利用状態であっても、非営利の事業に意義があればそれを継続して使用する。また、不動産の売却による利益獲得などは基本的に想定していない。減損処理を行うことで、かえって非営利・協同組織に関係する人々に不安や誤解を与えしまいかねない。
また、10年以上前になるが、グローバルな会計基準を目指している国際会計基準において、協同組合の出資金につき脱退時の返還を定めているものは資本ではなく負債、との提案がなされたことがある。確かに営利企業の法人形態である株式会社の場合には返済し減少しうるものは負債とすることに異存はないが、そもそも営利を目的としない地域の多数の組合員が拠出する出資金の意義、特殊性を考慮せず、機械的に株式会社と同様に取り扱うことはできないと考える。
以上、法的に定められた会計基準であっても、非営利・協同組織はそれを鵜呑みにせず批判的に対処していくことが求めらる。例えば、加盟する法人の法人形態が多様な民医連では、それらに共通するルールとして民医連統一会計基準を定め、法人形態ごとの基準を踏まえつつも、それを批判的に摂取する立場をとっている。
さらに、開示の形式、内容について、法人形態ごとの会計基準にはそれぞればらつきがあるが(例えば、銀行等からの借入限度額の定めを義務化している法人形態もあればそうでないものもある)、職員、地域住民等に明瞭でわかりやすい経営情報という観点から、適切な開示を進めていくことも非営利・協同組織としては必要である。
② 非営利・協同組織における管理会計上の基本点
第一に重要なのは予算に基づく管理である。営利企業でも予算は作られるが、営利目的を第一義としない非営利・協同組織における予算は特別に重要である。非営利・協同組織の予算は経営目標実現のための事業構想の裏付けとなる経営数値上の指針だからであり、したがって、予算は非営利の事業構想に基づいて設定していく必要がある。一方で、予算は事業活動に必要な利益(剰余)目標を基本に設定すべきである。非営利・協同組織において利益獲得は第一義の目的ではないが、非営利の事業を育て発展させていくためには一定規模の人員確保、設備投資等は必要であり、その実現のためにはある程度の利益ができなければ再生産に行き詰まりかねない。予算につき、経営者はその編成方針を提起し、各職場での議論を経て確定し、実践する。さらに予算実践の結果を総括し、改善していく取り組みが求められる。
予算は対象期間別に、中長期、単年度、月次と分けられる。
中長期予算は中長期経営計画とも呼ばれ、3~10年程度を対象期間とし、新たな事業展開や次世代への橋渡しの役割を持つ予算である。非営利・協同組織の場合、事業や活動の構想は多くで持っているが、経営計画がないところが多く、事業遂行上の弱点となっている。新たな事業所設備の建設、新たな地域や新規事業への進出等を展望し、その裏付けとなる予算として検討するべきである。また、この計画、予算づくりは経営トップが責任を負うべきものであり、全職員、組合員が納得、理解されるものとして事業活動目標とセットで進めるべきものである。なお、よく金融機関の借入のために根拠のないバラ色の計画を作る法人があるが、そうした予算ではなく十分吟味した実行可能な予算を作成する必要がある。
次に単年度予算は1年間の予算であり、予算といえば通常単年度予算のことを言う。単年度予算は、その前年度の実績及び中長期予算を踏まえ、それを整合また改善策を織り込んだ形で策定する。予算開始3~6か月前から検討を開始し、現場職員や事業所管理部の意見を踏まえる必要がある。また、職員に対するベースアップや賞与等を検討し、それを織り込むことになる。
最後に月次は年度を12等分した月ごとの予算である。月次予算を12か月分積み上げて単年度予算とし、毎月次実績比較する形で執行状況をチェックし、改善策を追求していく必要がある。なお、月次予算を簡略化し、単純に年度予算を12等分して作成するような事例が見られるが、これでは時期、季節ごとにある事業の繁忙状況を無視するもので、予算管理を形骸化させかねない。
第二に重要なのは分権管理である。経営の管理責任を経営トップや管理者層に集中させず、可能な限り現場の職責者、職員に担ってもらうということ=全職員参加の経営、である。このことは、一部株主等に所有、支配されている営利企業においては原理的に不可能なことであり、特定の所有者が存在せず多くの地域住民等支えられた非営利・協同組織だからこそ可能な管理手法である。それが十全に発揮されれば、強力な力を発揮する。逆に、非営利・協同組織において、こうした取り組みが弱い場合には、営利企業との間で優位性が発揮できず、事業間競争に敗れてしまうこともありうる。
また、全職員参加の経営、分権管理を実現していくためには、掛け声だけ唱えていても実現不可能である。それを可能にする仕組み=システムが必要である。すなわち以下のとおりである。
・ 現場職員に対し、迅速に正確でわかりやすい経営情報を提供する。そこには法人、事業所の経営情報と併せて、身近な各現場での経営情報を提供する。
・ 現場職員が自ら経営情報を認識理解、さらには改善策を提起実践することとし、またそれらが遂行できる能力を育てていく。
・ 非営利・協同組織全体あるいは事業所全体として現場職員からの経営情報を汲み取り、それを法人、事業所運営に生かしていく
これらを実現するために必要なのが、事業所別独立会計、部門別損益管理である。
事業所別独立会計は、非営利・協同組織内の事業所ごとに独立した会計管理機能を付与し、そこに事業所の予算策定、日常及び決算処理、決算総括、資産・負債管理の責任と権限を事業所管理部のものとする管理システムである。
事業所独立会計の仕組みは次のとおりである。
・ 本部(本社)を含む各事業所を独立会計単位とする。
・ 各事業所はそれぞれ損益計算書だけでなく貸借対照表も持ち、事業所ごとに管理部を中心にその勘定残高の管理に責任を負う。本部(本社)も同様であり、本部の費用は本部予算に基づき本部費として、適正に各事業所が負担する。
・ 事業所間の取引は、適正な取引価格を決め、本支店勘定(内部付替勘定)を通じて付け替える。
・ 本部(本社)まかせの会計処理ではなく、事業所ごとに現場ー職責者ー管理部の会計伝票による起票、承認の流れを確立し、会計処理を行い、各事業所で月次決算を行う。
・ 資金は本部(本社)に集中し、各事業所はその使用資金量に基づき使用資金利息を負担する。
・ 本部(本社)を含む各事業所ごとに責任のある予算管理を行う。
次に、部門別損益管理とは、さらに現場職員に近づいた関係管理を行うために、各事業所をさらに部門、職場等に細分化し、それらの部門で予算策定、決算総括等を担い、部門管理者が責任を負うシステムである。
部門別損益管理の仕組みは次のとおりである。(民医連の病院を例として説明する。)
・ 病院組織を大きく直接患者に接する直接診療部門、直接診療部門からのオーダーを受けて業務を行う診療技術部門、医療行為以外の支援を行う診療補助部門の3部門に分け、さらにそれぞれについて下記のように細分化する。
直接診療部門ーーー各入院病棟、外来各科等
診療技術部門ーーー検査、放射線、リハビリ等
診療補助部門ーーー医事、管理等
・ 各部門はそれぞれ損益計算書を持ち、部門ごとにその勘定残高の管理に責任を負う。
・ 直接診療部門が診療報酬等に基づく収益を計上する。診療技術部門、診療補助部門は、適正な内部取引価格を決め、直接診療部門に部門受託収益(直接診療部門側では部門委託原価)を請求、計上する。
・ 部門ごとに現場ー職責者の会計伝票による起票、承認の流れを確立し、会計処理を行い、各部門で月次決算を行う。
・ 各部門ごとに責任のある予算管理を行う。
これらの分権化した会計管理システムを導入することで、現場職員に自分が働く職場の経営状況を把握し、改善策を考え、実践していくことが可能となる。さらにそうした理解を基礎に、事業所全体あるいは法人全体の経営管理に参加し、担っていく気風を育てていくことが可能となる。
非営利・協同組織の経営管理 -その1-
私が所属する協働公認会計士共同事務所は、非営利・協同組織の事業体への関与が主たる業務であるが、そこでは単に決算書作成や会計、税務の支援にとどまらず、経営や財政全般に対する支援、助言を行うことを重要な役割としてきた。我々がそうした業務を行ってきたのは、非営利・協同組織においても、特に事業活動を行う法人においては、その経営を管理することが求められるからである。
一般に、経営管理に関する所説はアメリカにおいて営利大企業を対象として研究され、その営利的な企業活動に対する様々な実務書が公表されているが、非営利・協同組織の経営管理には、その存在意義に照らし、営利大企業に対するものとは大きく異なる特徴点がある。
ここでは、われわれの主たる関与先の非営利・協同組織である全日本民主医療機関連合会(略称 民医連)に加盟する法人を対象に経営管理上の特徴点、長所と短所、今後の課題等につき、私の業務経験に基づき述べることとしたい。
1、非営利・協同組織での経営管理への誤解
(1)非営利・協同組織では管理は不要?
前述の通り経営管理をめぐる研究が主として営利大企業を対象として行われてきたことがあり、非営利・協同組織と経営管理という議論は過去にはあまり聞かれなかった。(わずかにアメリカの経営学者であるドラッカーがアメリカの非営利組織を対象として「非営利組織の経営」を出版している。)また、非営利・協同組織の場合、事業活動というより主として社会的な意義を持つ運動や諸活動から始まっている事例が多く見られることから、そもそも非営利・協同組織における経営管理など不要、といった誤解があったように思われる。非営利・協同組織では構成員の自主性、各人の自覚で進めていけばよいのだ、という訳である。
しかし、以下のような点から、非営利・協同組織においても適切な経営管理が求められ、営利大企業に対するものとは異なる経営管理の理論が必要となっていると考える。
① 日本においても非営利・協同組織で職員規模が数千人以上のものが現に現れており、構成員の自主性だけに頼った経営では限界がある。
② 事業活動についても収益規模で数百、数千億円の組織が生じており、それを継続発展させる為には各人の自覚だけでは不十分で、適切な経営管理が求められる。
③ 1983年に民医連に加盟する山梨勤労者医療協会の倒産事件が発生した。その他消費生協でもこの間いくつかの倒産があったが、非営利・協同組織であっても不適切で安易な運営をしていれば実際に倒産することがありうる。
④ 日本において非営利・協同組織が拠って立つ法人形態は多岐にわたるが、いずれの法人形態であってもその根拠法規に基づく諸規定の整備、総会等各種機関の設置、適切な経営内容の開示等の経営管理制度による運営が求められている。非営利・協同組織は少なくともこうした法制を踏まえて活動し、また、こうした制度を非営利・協同組織として望まれる方向に活用していくことが求められている。
(2)非営利・協同組織では利益は不要?
よくある誤解の代表的なものが、「非営利・協同組織は利益を出すことが目的ではないのだから、利益は不要である。収支トントンが一番良いし、赤字でも仕方がない」という
意見である。
確かに、営利企業とは異なり、配当や株価の上昇を望む株主が存在しない非営利・協同組織は、利益の追求、最大化を目的として活動するわけではない。無差別平等の医療といった社会的な意義ある活動の追求を第一目的とする。しかし、だからといって利益は不要で、赤字でも仕方がないということにはならない。社会的な意義ある活動を追求し、発展させていくためには、その支えとしての必要な利益確保が求められるからである。実際に赤字状態を放置すれば、例え非営利・協同組織であっても倒産し、地域に多大の迷惑をかけ、職員を路頭に迷わせる事態は起こりうる。
山梨勤労者医療協会の倒産事件で見られたように、一部の経営幹部の専制的支配のもとで多額の赤字を発生させ、しかもそれを隠蔽するような事態を招いた場合には、非営利・協同組織の損害だけにとどまらず、それを支えてきた職員、地域住民に損害を与え、ひいては非営利・協同組織に対する信頼に大きな傷を残すことになる。
また、非営利・協同組織に一生を捧げ、献身的に働いてきた職員に対し、その生活を支える給与を保証することは組織としての基本的任務であるが、経営が赤字のために給与、賞与の遅配、減額等起こすようでは非営利・協同組織の「名折れ」となる。
2,非営利・協同組織での経営危機と経営再建の教訓ー九州沖縄地域K会の経験ー
前述の通り、1983年の山梨勤医協の倒産事件は非営利・協同組織での経営管理の重要性をあらためて認識すべき事態であったが、その詳細は既出版の「いのちの平等をかかげて(山梨勤医協50年のあゆみ)」や「無差別・平等の医療を目指して(全日本民医連)」等で語られており、また、倒産時点で私個人は直接かかわってはいないので、ここでは、その9年後の1992年に発生した九州沖縄地域にあるK会の実質倒産事件につき経営危機に至る経過とその再建の歩み、教訓につき語りたい。K会の事件も山梨とほぼ同様の問題を抱えていた。
(1) K会での経営危機
山梨勤医協倒産事件の2年後である1985年に、山梨と同様に公益法人である九州沖縄地域のK会が手形不渡り事件を起こした。当時はどこの法人も材料代などについて支払手形で支払っていたが、不渡りとはその手形が現金化されるときに、K会の口座に資金がなかったということである。手形の不渡りは、法的には2回連続して起こると銀行取引停止になり倒産に至る。K会の場合は何とか地域から協力債を集め2回目の不渡りを回避したが、この時点でK会の経営はすでに危機にあった。原因は無理な病院建設である。建設前のK会の収益規模は54億円程度にもかかわらずセンター病院であるO病院を120億円以上をつぎ込んで建設し(1984年竣工)それを支える医師体制も脆弱であった。しかも、落下傘型の建設で共同組織や地域の方々の病院を建設してほしいという運動があったわけではなかった。さらに経営悪化を理由として突然の労働条件引き下げを図ったことを契機に労働組合の分裂という事態も引き起こしていた。
銀行融資を受けることが難しいため、建設会社やリース会社からの借入等も行って当面の資金危機を回避できたものの、借入に協力した金融機関から役員を受け入れ、民主的運営とは程遠い一部役員による不明瞭で非民主的運営が定着することになった。一部役員が出資した会社を通じた乗馬クラブの運営等やそこを通じた不明朗な入出金、経営の赤字を糊塗する粉飾決算等はこの時期から深刻化していった。しかし、こうした状態を長く続けることができないのは自明である。640床の許可病床を持つO病院の稼働は400床台にとどまり、垂れ流しつづける赤字を粉飾決算でごまかす対応をさらに継続することは困難になった。
1991年に入り、K会内部での一部役員に対する疑念、不信感の高まり、また、85年以降医師支援や助言を行ってきた全日本民医連からの提案を受けて、一部役員の抵抗を打破した形でのK会評議員会(財団法人であるK会の評議機関)の決議により、全日本民医連の顧問公認会計士である我々による調査が行われることととなった。
1992年8月に調査報告書が公表されたが、調査によってわかったことは、K会が実質倒産状態だということ、また、粉飾決算をはじめでたらめな経営管理を行ってきたということである。K会の総負債は245億円に上り、資産総額113億円との差額である債務超過額は132億円にのぼった(1992年3月末時点)。K会が調査以前に公表していた91/3月末の決算書上の債務超過額は47億円であるから、91年4月から1年間の損失14億円を差し引いても70億円以上の赤字が隠されていたことになる。この数値は山梨勤医協の倒産時の総負債の規模よりも大きく、債務超過額はおおむね同水準である。山梨の場合、山梨県当局の当初の意向では清算消滅させる方向にあり実際そうなりかかったが、K会もそれとほとんど同様の経営実態にあった。
また、粉飾の内容、経過を調べたところ、驚いたことにK会のつくっていた決算書の数値の多くは根拠のない作文であり、決算書のもととなる会計帳簿も未整備であることが明らかとなった。われわれが決算書の数値のもととなっている元帳を見せてほしいというと、当時の経理部長は「ありません」と言うのである。このため粉飾に加担した一部役員や経理部長も含めてだれも経営の実態がわからなくなっており、作文である粉飾した決算書を「かざり」にして、長期にわたり一部役員による専制的経営が行われてきたということであった。このため調査は困難を極め、資産や負債の各項目につきその存在の実地確認や契約書、請求書等の根拠証憑を1件づつあたりそれを集約することで実態としての決算書を作成せざるを得なくなったのである。
(2) 経営再建の歩み
調査報告書を受けて、K会において、深刻な経営状態の共通認識化とそれまでの一部経営指導部の無責任な運営に対する抜本的批判が進められた。それらはとりあえず役員や病院等事業所管理部、幹部医師、評議員等において行われた。大きな誤りを犯した役員は退任し、理事会、院長をはじめとした指導部は交代した。その上で、過大な病院建設投資、地域要求に根付かない医療活動方針、外部に依存した医師体制、非民主的な管理運営手法と経営実態の非開示、粉飾決算等これまでの問題点を正面から受け止め、全日本民医連からの指導も受けて、抜本的な改革を進めることにした。これらはK会において「民医連的経営再建」と呼ばれた。
当時のことで今でも覚えているのは、K市の海岸近くの民宿で行った経営再建のための合宿での議論である。当時のO病院院長は医大助教授出身の外部招聘医師が担っており、詳細は忘れたがそこでの発言内容が民医連のことを知らずかなり緩いものだったため、参加した全日本民医連役員より厳しい批判を受けた。それを契機に議論が怒鳴りあいになってしまい、収拾がつかず団結に程遠い状態になってしまった。「いったいこれからどうなるのだろう」と絶望的な思いがしたものである。
とりあえず、当面する財務上の焦眉の課題は、資金ショートを回避し倒産を防ぐことであった。このため、140億円強にも達する金融機関(銀行、リース会社、抵当証券会社)からの借入金のリスケジュール(返済繰り延べ)を成功させる必要があった。当時(92/3月期)の状況は当期損失14億円で、減価償却費の倍以上の赤字であり、借入金返済資金が全くなかったからである。交渉は難航し、金融機関側からの破産申し立てや役員派遣の可能性も憂慮されたが、K市の救急車搬送件数の2割以上を受け入れてきたK会の医療の公益性、社会的必要性を認めさせ、当面4年間の利息も含む返済の猶予を得ることができた。この4年間で経営を赤字から黒字に転換して返済原資を生み出すこと、そのために本格的な中長期の経営再建計画とそれを可能にする医療構想を確立することが課題となった。
リスケジュール成立後、経営再建計画とそれの基となる医療構想の検討が始まった。山梨勤医協副専務の支援も受けて、経営再建計画は1992~2014年までの23か年計画として確定された。山梨の再建計画は15年であるから、それよりも経営再建まで8年も長い計画である。これは、K会の場合医療そのものが赤字であり(山梨は医療自体は黒字であった)その黒字化のために一定期間を要すること、また、債務の多くは金融機関借入であり(山梨は多くが協力債)利息負担しながらの再建計画であること、といった点からである。
また、本来のあり方とは逆転しているが、経営再建計画を支える医療構想も具体化された。O病院の640床をはじめK会4病院の1300床の許可病床を早期にフル稼働させること、救急医療に今まで以上に注力するとともにその他3病院での慢性期病床を地域の要求や医療情勢に合わせて構造転換すること、友の会を協力債受け皿組織から地域住民との連帯組織に転換していくこと、自前での医師確保養成に注力すること、看護学院の定員2倍化を成功させ看護師体制を充実させること、といった構想が検討され、各事業所の管理部体制の確立が図られた。これらについては、全日本、福岡民医連からも様々な支援が行われた。
その結果、1992,93年度は赤字が続き経営危機がより深化したものの94年度より黒字化し、90年代後半期より徐々に経営再建計画に沿った10億円規模の利益確保が達成されるようになった。また、法人の民主的運営、事業所単位の全職員参加の経営も徐々に軌道に乗るようになってきた。
経営再建当初の頃は、経営危機といっても多くの職員にはなかなか理解が得られなかった。山梨と違い法的な倒産を引き起こしたわけではなかったこと、若い職員が多くO病院開院直後の手形不渡り事件を知らない職員も数多かったこと、長年民主的運営とは無縁であり、経営は一部経営幹部が担うものだという体質が染み付いていたこと、といったことがその背景にある。
ある時昼休みにO病院の食堂に職員を集めて、事務長の依頼で私が講師を務めて経営の学習会を行ったことがあった。私の話が硬すぎたこともあって最初の10分で集まった職員の多くが居眠りをはじめ、閉口したことがあった。忙しい昼休みに学習会を開くなど間違いだったと今では思うが、「なんでこんな話を聞かなければならないのかわからない」というのが当時の職員の率直な感想だったと思う。
一方その数年後に同じO病院の各病棟師長の会議に参加した。そのころO病院では各病棟別(部門別)損益管理が実践されていて、病棟三者会議(担当医長、師長、担当事務)を中心とした各病棟での予算管理が始まっていた。そこでの議論は事務も顔負けのもので、これには私も驚いた。三者会議での予算等必要な議論、病院管理部からの適切な提起、そして何より経営再建を軌道に乗せている自信が師長たちの変化に表れていた。
2000年代に入ると、300床のK総合病院の建て替えが検討課題となった。医療情勢の激変のもとで医療経営構造の転換を図ること、K総合病院の老朽化への対応が必要なことがその理由である。経営再建計画には建て替え計画は織り込まれておらず、リスケ中なので金融機関からの新たな借入も難しいため、メインバンク等との粘り強い交渉によりリスケジュールの見直しを認めさせた。借入返済分の一部を新病院建設資金に充てることとし、2003年に名称変更の上新築移転することができた。
その後しばらくして激震が走った。メインバンクでありリスケジュールの主要交渉先であるR銀行が金融ビッグバンの影響で倒産したのである。戦後長らく政府主導で「護送船団方式」での経営をしてきた金融機関もバブル崩壊後の不良債権問題に耐えられなくなり、R銀行は国の救済により事実上の国営銀行となった。このためこれまでのリスケジュールでは経営再建が認められなくなる可能性が生まれ、場合によってはK会に対する債権の外銀等への売却等も考えられる事態となったのである。
K会としては、この際リスケジュールを長期に続けるような不正常な状態を脱し、一挙に正常な法人に復帰することを目指した。R側からは正常化の条件として金融庁のマニュアルに基づく5年以内での債務超過解消計画の策定が求められた。K会は、この間定着させてきた年間10億円超利益確保体質を基礎に、繰り延べられてきた約30億円の未払利息の支払免除、法的再生に準じた処理としての資産の再評価益約14億円を組み合わせ、5年後での債務超過解消計画を策定し、R側からの了解を得ることができた。これにより、2004年4月より正常法人となり基本的に経営再建が終了することとなったのである。(その後、他の金融機関からの借入でRグループからの借入は全額返済となった。また、5年後の2008年度末で計画通り債務超過状態は解消された。)
(3) 経営再建の教訓
1年間の事業収益以上の債務超過額、2倍以上の達する負債額という状態は、通常の企業であればとっくの昔に倒産していておかしくない。K会が山梨勤医協と同様に経営再建できたのはいったいなぜだろうか。
それは、一言でいえば、非営利・協同組織であることに徹したこと、非営利・協同組織のあるべき姿を目指したこと、であるといえる。K会ではそれを「民医連的経営再建」と呼び、それを全職員の共通指針として取り組んだ。
このことは、単に倒産状態における経営再建のノウハウといったことにとどまらず、広く非営利・協同組織における経営管理のあり方として教訓化すべきことといえる。
① 経営目標における非営利・協同
営利企業であれば、経営再建のために営利を最大限追及すること、すなわち、収益が最大化するような事業に特化し、顧客からとれるものはとり、一方で職員はリストラし、その給料はできるだけ引き下げるのが普通である。
これに対しK会は、開設以降水害支援、炭鉱やカネミ油症等での健康被害問題での住民の健康を守るたたかいを支援し、経営の再建が始まってからも地域から求められる救急医療の充実を図り、行先の無い患者を受け入れる慢性期病床を整備し、差額ベッド代は一切取らないという方針を取ってきた。このことはK市民のK会への強い信頼につながり、一方で医師、看護師等職員の誇りにもなった。さらに近隣開業医、行政との信頼関係も蓄積されてきた。要するにK会の経営再建は、社会的になくてはならない存在として認知され発展してきたことの結果である。このため、友の会員を対象に募集した協力債は実質倒産状態が明らかになって以降も減少しなかった。また、金融機関側においても「つぶした場合の社会的責任を考えるとつぶそうにもつぶせない」状況にあったと思われ、さらに再建途上においても再建に協力せざるを得なかったといえる。
非営利・協同組織において、経営が厳しいからと言って安易に営利追求に目標を変えるのはむしろ自殺行為である。経営が厳しいからこそ、経営目標における非営利・協同を明示し、患者、地域住民からの信頼を高め、職員を結集することが決定的に重要である。
② 経営組織の運営における非営利・協同
K会は一部役員による冒険的投資、無責任な経営判断、経営実態の隠蔽が経営危機を招いた。このような事件は、営利企業におけるオーナー経営者によりよく起こされるが、非営利・協同組織においては通常考えられない事態である。
非営利・協同組織は営利企業のようなオーナーは存在せず、多くの組合員、職員、地域住民等により所有され、運営される。すなわち「協同」である。問題が発生するのは、非営利・協同組織に「動脈硬化」が生じ、本来のあるべき運営が行われなくなったからである。経営は一部役員任せで、他の役職員は無関心という状態は非営利・協同組織では本来ありえない。
K会では「民医連的再建」の歩みを進めて以降、職員、協同組織に経営の実態を率直に伝え、経営再建に立ち上がるように訴え、「全職員参加の経営」を追求してきた。非営利・協同組織において「打ち出の小槌」のような利益獲得手段はなく、職員のがんばりのみが経営改善の力となる。毎年の予算実践を地道に全職員の協力で進めていく努力の積み重ねが経営再建の原動力となったのは明らかである。
③ 経営計画における非営利・協同
K会では、経営再建のために23か年の中長期経営計画を策定した。これは単なる金融機関向けのリスケ計画ではなく、その裏付けとなる医療構想、施設計画、職員確保養成計画等を持ち、K会を支えるすべての人々の共通の拠り所として存在し、経営再建中での毎年度の医療活動、予算執行の基礎としての役割を果たした。経営再建が最優先のため計画策定の順序は逆となったが、医療構想等と強く結びついた経営計画の策定は非営利・協同組織には絶対必要である。
非営利・協同組織において活動計画、事業計画は必要だが経営計画はいらないのでは?といった誤解が一部にあるが、それは誤りである。非営利・協同組織だからこそ、利益追求第一主義に走ることなく医療構想等を着実に進めていくための経営計画を策定していくことが求められる。
④ 非営利・協同組織でのリーダーシップ
K会問題の発生原因の一つに、一部役員による非民主的、恣意的運営があった。誤ったトップダウン型のリーダーシップが、極端な形でその弊害をあらわしたものであった。
そもそも、K会のような非営利・協同組織にはトップダウン型のリーダーシップはそぐわず、現場で働く職員の基礎にしたボトムアップ型のリーダーシップがふさわしい。法人そのものの所有や運営上の民主性、簡単に言えば一部オーナーによる経営ではないことが非営利・協同組織の本質的特徴だからである。
一方「非営利・協同組織においてリーダーなどは不要」との意見も正しくない。実際、千名を超える職員数で百名以上の医師を要する組織において、理事会、事業所管理部を中心にしたリーダーシップとそれを支える全日本、福岡民医連からの物心両面での支援が無ければ、困難な経営再建を達成することは不可能であった。非営利・協同組織におけるリーダーシップは、働く職員や友の会の人々を経営への無関心から脱却させ経営再建に向けて結集すること、そのために非営利・協同組織の存在価値や将来展望を常に提起し、職員等の成長を促すリーダーシップである。
⑤ 人事政策における非営利・協同
K会の経営再建が成功した要因の一つに、医師、看護師等の職員の確保と地域に根差した医療に対する共感の形成があった。そうした医療専門職を確保することなしに、1300床の病床をフル稼働させることはできなかったからである。また、労働条件についても再建当初は賞与不支給等を実施せざるを得なかったが、その後はリストラを行うこともなく徐々に世間並みの水準に回復させていった。労働組合の分裂問題も解決された。
非営利・協同組織においては、多額の資金が外部から供給されることはなく、有能な人材の確保とその活動に主体的に参画する意志を持った職員の養成が非常に重要である。職員の確保を経営の柱の一つと位置付け、大事にし、その成長を促していくことは非営利・協同組織の発展には不可欠である。
⑥ 財務管理における非営利・協同
K会での経営再建計画の執行や職員の経営再建への参画といった取り組みは、掛け声だけで実行されたわけではない。200億円にも達する収益規模と1000名以上にもなる職員によるの経営参加を進めるためには、それに必要な仕組みが必要である。
K会は、形骸化していた予算管理制度をあらため、経営再建計画に基いて毎年度の予算策定を行い、月次での決算総括を行い、100%以上の予算執行を長年にわたって遂行してきた。このため、病院、診療所等ごとの事業所別の予算管理、90年代後半期からは各病棟、外来等の部門別の予算管理を行った。この予算は策定段階から各事業所管理者を中心に部門役職者、担当医師、師長を含めて検討され、その執行も現場段階から進めていく努力を行った。すなわち、現場の医師、看護師等も含めた全職員に経営が見え、理解でき、参画しうる取り組みを進めてきた。
非営利・協同組織において、全職員の経営参加を進めるためには、それにふさわしいシステムが必要である。民医連において、それらは「事業所別独立会計」「部門別損益管理」といわれるが、そうした仕組みを創意工夫し、実践していくことが必要であった。
また、粉飾決算を行い、一部役員による不適正な入出金があったK会の経験を反省し、定められた会計基準に基づく適正な決算書の開示、内部監査等による財務の相互チェックシステムも確立させた。これらもK会において重要であった。
日本における非営利・協同組織の法人形態 -中間的非営利法人-
株式会社に代表される営利の法人形態と前回まで説明してきた非営利の法人形態との間にある中間的非営利法人について以下説明する。実際には少なくない中間的法人が、公益的非営利法人に準じた所有、分配、運営をルール化しあるいは実際に運用することで、非営利・協同組織として活動している。
(1) 一般法人
一般法人法に基づき2006年からスタートした法人形態であり、社員を基礎とした社団(ただし出資は不要)と設立時の最低3百万円以上の寄付を基礎とした財団のいずれも認められる。株式会社等の営利法人と1、で述べた公益的法人の中間に位置する法人形態である。
ただし、一般法人の内以下のような法人税法上の要件を待たすことで成立する非営利、共益型一般法人は、より非営利性を具備した法人形態となっており、法人税法上も収益事業課税である。(通常の一般法人は株式会社と同様の全部課税)
ー要件ー
(非営利型)
・剰余金の社員等への分配を行わない(定款で定める)
・解散時の残余財産は国、地方自治体、公益法人等に帰属させる(定款で定める)
・特定の役員の親族等が役員総数の1/3以下である
(共益型)
・会員相互の支援その他会員の共通利益を図る活動を主目的とする
・特定個人、団体への剰余金分配もしくは残余財産帰属を認めない
・特定の役員の親族等が役員総数の1/3以下である
以下主に一般法人社団(非営利、共益型)を想定して説明する。
① 目的
法的に定められた目的はなく任意に決定できるが、非営利、共益型の法人としては営利的な目的は掲げられない。
② 設立
株式会社と同様に準則主義(一般法人法に基づく設立手続きを行うことで任意に設立でき、法人登記を行うことの他は行政への届け出等は不要)である。したがって、設立時の社員総会等開催後には比較的短期間に設立が可能である。
③ 法人運営
定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 社団においては基本構成員としての社員(会員)総会、法人役員としての理事が最低必要である。ただし、民主的運営を図る立場からは、理事会及び監事(会)の設置が望まれよう。
・ 財団においては役員として理事、理事会、評議員、評議員会、監事(会)の設置が求められている。
・ 非営利型の要件を満たすために、役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
④ 対外的信用
一般法人は株式会社のような営利法人ではないが、必ずしも非営利性、公益性を具備してはいない中間的法人である。ただし、非営利、共益型の要件をクリアーすることで、非営利の法人としてその活動に一定の信頼を得ることが可能である。
⑤ 行政からの補助金取得
社会福祉法人のようにな制度化された施設補助、運営費補助の制度はないが、実施する事業に公益性が認められれ、地域住民からの支持が得られるようであれば、行政等からの予算措置に基づく補助金取得はありえよう。
⑥ 不動産取得や銀行借入
法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、定められた基準はないが、一般法人中公益性が高い法人として認可される公益法人に対して定められた公益法人会計基準におおむね準拠していくこととなる。また、毎期の決算書を都道府県等に報告する必要はないが、法的には公告開示(官報等への掲載の他法人事務所内での掲示でもよい)することが求められている。
・ 法人税の課税ルールは、一般法人(非営利型)の場合NPOと同じである。
・ 消費税の課税ルールについても、一般法人(非営利型)の場合NPOと同じである。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
残念ながら特に特典はない。
(2) 法人格なき団体
一般に町内会、PTA、マンション等の管理組合、ボランティア組織等法人格を取得してはいないが、団体として活動している事例は社会に多数存在する。この内、事業活動を行い、団体の運営規約を持ち、構成員が明確で代表者が存在するような団体について、「法人格なき団体」と呼んで、法的な一定の権利能力が認められ、団体としての一定の法的な義務が課される。
非営利の事業活動を個人有志でスタートする場合やごく小規模の活動の場合には、法人格なき団体として活動することがありうる。ただし、事業活動を長期に継続したり、規模が拡大していった時には、何らかの法人形態を選択、取得していくことが課題となろう。法人格を持たない状態では各種の法的規制や社会的信用の面で障害が生ずることになるからである。
① 目的
法的に定められた存在ではないことから、目的は任意に決定できる。
② 設立
任意に設立でき、法人登記も不要である。
③ 法人運営
任意であるが、民主的運営を図る立場からは、規約に基づき社員(会員)総会、理事会及び監事(会)の設置が望まれよう。
④ 対外的信用
活動内容により評価はされるだろうが、どうしても法人格を取得している法人よりは落ちざるを得ない。
⑤ 行政からの補助金取得
全く可能性がないわけではないが、補助金取得のためには行政側より何らかの法人格取得を求められる場合が多いであろう。
⑥ 不動産取得や銀行借入
法人格を取得していないことから、団体名義での不動産取得はできず、団体で取得する場合にはその代表者名義とせざるをえない。したがって、代表者交代時等に名義変更等の手間とコストがかかる。団体の預金等についても同様であり、銀行借入を行う場合にもそれがネックとなりうる。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、当然定められた基準はなく任意である。企業会計、公益法人会計等を参考に、団体の実 情に合わせた会計が行われる。
・ 法人税の課税ルールは、NPOと同じである。
・ 消費税の課税ルールについても、NPOと同じである。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
特に特典はない。
以上
日本における非営利・協同組織の法人形態 -共益的非営利法人-
組合とは法人形態の一つであり社団(株式会社や一般社団法人に代表される)と類似するが、法人と構成員(社員もしくは組合員)との関係の濃厚性、さらに構成員間の相互の人的関係が密な組織が組合である。
協同組合はそうした組合の性格に基づく組合員の共通利益のために活動する法人であり、その意味で直接的には共益的法人の性格を持つ。しかし、協同組合は数多くの構成員による特定地域あるいは共通する職域での共益を求める組織であるがゆえに、特定者の利益追求を目的としない非営利性、多くの構成員の協同を追求する協同性を持つ。法的にも非営利であることが明記されている。よって、協同組合は非営利・協同組織の一員といえる。
ただし、日本の税法等は出資配当の有無で法人の営利と非営利を区分していると思われ、協同組合が出資配当を行いうることからおおむね営利法人に準じた扱いとなっている点に留意が必要である。
また、協同組合の基本的自己資本である出資金に関連して、国際会計基準(IASB)が「現金等を引き渡す契約上の義務がある場合には負債に分類する」としたことから、組合員が償還を請求する権利を有する協同組合の出資金も負債にされかねないという問題が生じている。非営利の協同組合を営利の株式会社等と機械的に同一視している点等重大な問題であり、協同組合サイドからの適切な反論による修正が求められている。
また、日本において、労働者協同組合法の制定が国会に上程されている。長く放置され、企業組合や一般法人、NPOさらには法人格なき団体等の法形式で運営して来ざるを得なかった労働者協同組合(働く労働者が出資する協同組合)が法的に認知されうる動きとなっている。
以下日本における協同組合のいくつかについて述べる。
(1) 消費生活協同組合
消費生活協同組合法に基づき、消費者、利用者が組合員となって運営される協同組合が消費生活協同組合である。代表的には食料品をはじめとする消費財の供給をスーパーや宅配、共同購入等により行う購買生協があげられるが、それ以外にも地域での医療、介護福祉を担う医療生協、地域や職域での生命、医療、損害等の共済事業を担う共済生協がある。
① 目的(消費生協法9、10条)
消費生活協同組合は、その行う事業によつて、その組合員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行つてはならない。
一 組合員の生活に必要な物資を購入し、これに加工し若しくは加工しないで、又は生産して組合員 に供給する事業
二 組合員の生活に有用な協同施設を設置し、組合員に利用させる事業(第六号及び第七号の事業を 除く。)
三 組合員の生活の改善及び文化の向上を図る事業
四 組合員の生活の共済を図る事業
五 組合員及び組合従業員の組合事業に関する知識の向上を図る事業
六 組合員に対する医療に関する事業
七 高齢者、障害者等の福祉に関する事業であつて組合員に利用させるもの
② 設立
法人設立は、原則として300名以上の組合員を擁し、20名以上の発起人による創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、厚労省ないし都道府県知事の認可を取得する必要がある。
なお、一組合員の出資は出資総口数の1/4以内に制限されている。
③ 法人運営
定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が5百名以上の場合は、組合員の代表者(総 代)会を設けることができる。一般に、総代会において通常の決算予算承認、役員選任等の他、組 合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず組合員(あるいは総代)一人 当たり一票である。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 剰余が出た場合に組合員への利用分量配当の他出資配当を行うことはできるが、出資額の10%が 上限となっている。なお、医療事業について配当は禁止されており、共済事業については他の事業 との明確な区分経理を行ったうえでの独自の剰余金積み立て、配当ルールがある。
④ 対外的信用
消費生協は、その事業に関連して環境、人々の健康、医療等を改善する運動を進めており、非営利の法人として、その活動に一定の信頼を得ている。
⑤ 行政等からの補助金取得
運営する事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。ただし、医療福祉等実施する事業に公益性が認められれ、地域住民からの支持が得られるようであれば、行政等からの予算措置に基づく補助金取得はありえよう。
⑥ 不動産取得や銀行借入
法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた生協法施行規則に基づく。ただし、医療生協の場合 には事業の性格上必ずしもこれに適合しないことから日生協医療部会(当時)より「医療生協の会 計実務」が医療生協版として公表され、それに基づくこととなっている。また、法人事務所内での 掲示で公衆の縦覧に供しなければならず、また、それに代わっての電子開示も認められている。
・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。 ただし、税率は軽減税率が適用される。
また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫、医療生協の病院、診療所は非課税となる。
・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸 付、役務の提供を課税対象とする。
ただし、医療生協については社会保険診療部分は非課税であり、課税対象の売上が年1千万円以 下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にで きるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先から の「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められ ないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税 納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
残念ながら特に特典はない。
(2) 事業協同組合
中小企業等協同組合法に基づき、中小企業者が組合員となって相互扶助を行う共同事業体である。
生産・加工・販売・購買・保管・運送・検査などの事業に関する共同施設、事業資金の貸し付け、福利厚生に関する施設などの事業を行う。
① 目的(協同組合法1、5条)
中小企業者の経営と取引条件の改善、競争力の維持、向上のために事業経営に関する共同事業を行うことを主目的とする。共同事業によって組合員の相互扶助を図り、組合員への直接の奉仕が目的であり、特定者の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない。
② 設立
法人設立は、4名以上の組合員有資格者*が発起人となり創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、事業の種類に応じた国の所轄部門の認可を取得する必要がある。
なお、一組合員の出資は出資総口数の1/4以内に制限されている。
* 組合員になれるのは次のいずれかに該当するもの、なお法人、個人を問わない。(協同組合法7条)
・ 資本金等の額が3億円(小売業、サービス業については5千万円、卸売業については1億円)以内の法人
・ 常時使用する従業員の数が3百人(小売業は50人、卸売業、サービス業は百人)以内の事業者
③ 法人運営
定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が2百名超の場合は、組合員の代表者(総代)会を設けることができる。総会もしくは総代会において通常の予算承認、役員選任等の他、組合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず組合員(あるいは総代)一人 当たり一票である。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 剰余が出た場合に、組合員に対してはその利用量に基づく配当(利用分量配当)を行うことが基本であるが、出資配当(10%以内)を行うこともできる。
④ 対外的信用
事業協同組合は、中小企業者の相互扶助組織として、その事業に関連して中小企業者の権利を守り発展させるために活動しており、非営利の法人として一定の信頼を得ることが可能である。
⑤ 行政等からの補助金取得
運営する事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。
⑥ 不動産取得や銀行借入
法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。また、組合員を対象とした貸付、転貸事業を行うことができる。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた中小企業等協同組合法施行規則に基づく。
・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。ただし、決算日後の通常総会で承認確定される事業分量配当については売上割戻しとして当該決算日に遡及して損金参入が認められる。また税率は軽減税率が適用される。
また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫は非課税となる。
・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。
なお、利用分量配当は実質上の売上割戻しとして課税売上(の返還)の扱いとなる。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
残念ながら特に特典はない。
(3) 農協その他
(1)(2)以外の協同組合は、農林漁業協同組合、中小企業等協同組合法に基づく信用協同組合、企業組合、その他信用金庫等がある。ここでは、農業協同組合について説明する。
農業協同組合は、農産物生産者である農家を組合員となり、日本において全国を網羅しほとんどの農業者が参加する協同組合である。その特徴点は以下のとおりである。
・ 生産者である農業者が基本的構成員(正組合員)である。なお、基本的には個人であるが、農事組合法人も組合員になることができる。
・ 組合の地域に住所を有する利用者も組合員(准組合員ー共益権は持たない)となることができる。
・ 農産物の生産、流通、販売の他、様々な事業を行うことができる。特に、信用(金融)事業を兼業する点は生協にない農協の特徴である。
① 目的(農協法7、10条)
農業協同組合は、その行う事業によつてその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、農業所得の増大に最大限の配慮をし、農畜産物の販売その他の事業において、経営の健全性を確保しつつ事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めることとしている。
このために遂行する事業は、農業者の事業、生活に関するあらゆるものが含まれるが、特に組合員の貯金受入れと資金貸付といった信用(金融)事業を遂行できることが特徴である。
② 設立
法人設立は、原則として15名以上の発起人による創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、農水省ないし都道府県の認可を取得する必要がある。
なお、一組合員の出資は一定範囲に制限される。
③ 法人運営
定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が一定数以上の場合は、組合員の代表者(総代)会を設けることができる。一般に、総代会において通常の決算予算承認、役員選任等の他、組合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず原則として組合員(あるいは総代)一人当たり一票であるが、准組合員は議決権を持たない。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。なお、正組合員代表から構成された経営管理委員会を設け、専門的経営機能を担う理事を別途選任し業務執行に当たらせる制度を選択することができる。
・ 剰余が出た場合に組合員への利用分量配当の他出資配当を行うことはできるが、出資額の8%が上限となっている。なお、利用分量配当について5年間出資金として扱う回転出資金制度が認められている。
・ なお、近時、農協から株式会社、医療法人(社会医療法人)、消費生協等への法人形態の組織変更を認める法制度が整備されている。
④ 対外的信用
農協は、日本においてほぼすべての農業者を組合員を組織し、生産から販売までの事業活動のみならず共済、金融、医療福祉等を通じて農業者の生活にも大変重要な存在となっている。また、農協組織としても全国、県、地域のネットワークが形成されている。農業者にとって必要不可欠の存在である。
⑤ 行政等からの補助金取得
農協に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度というよりも、農業者に対する直接の補助金制度がある。
⑥ 不動産取得や信用(金融)事業
法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能であるが、農協自身が信用(金融)事業を展開しており、組合員に対する貸付業務等を行っている。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、農林水産省の省令として定められた農協法施行規則に基づく。また、法人事務所内での掲示で公衆の縦覧に供しなければならず、また、それに代わっての電子開示も認められている。
・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。ただし、税率は軽減税率が適用される。
また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫、病院、診療所等は非課税となる。
・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。
ただし、厚生連(農協を組合員とし医療を担う協同組合)については社会保険診療部分は非課税であり、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
残念ながら特に特典はない。
以上
日本における非営利・協同組織の法人形態 ―公益的非営利法人―
ここでは公益的活動を主目的とする法人のことを公益的非営利法人として分類する。公益的非営利法人は、基本的に行政認可を設立要件としている(宗教法人やNPOは行政認証による)。また、医療法人、学校法人等根拠法規がそれぞれ規定されている関係で、活動、事業別の法人形態が多い(業種を問わない法人形態は公益法人、NPOとなる)。
(1) 公益法人
以前には旧民法34条に基づくものとしての公益法人が活動していたが、2008年に法人制度改革の一環での一般法人法の制定と一般法人制度の導入に伴いこれが廃止され、一般法人の内公益性の高い法人が公益認定法に基づいて行政認可(認定)を受けて公益法人化する制度に改変された。なお、従来の公益法人は原則として2008年~2013年までの移行期間中に新たな公益法人もしくは一般法人に移行している。
公益法人は、非営利の公益目的事業が全体収入の50%以上を占める必要があり、また、営利的事業の遂行は制限されている。一方、課税面や寄付金受領面等で一定の有利な取り扱いがされており、一定の課題はありつつも、非営利・協同組織には適合的な法人形態といえる。
公益法人は、社団、財団のいずれも存在する。
① 目的
公益認定法2条に定められた「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」を主目的とする。
具体的には23項目が挙げられているが、代表的なものを例示すると以下のようである。
三 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
六 公衆衛生の向上を目的とする事業
八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業 等
② 設立
法人設立は、都道府県知事の認可(認定)を必要とする。認可(認定)とは、行政の審査で法に定められた様々な要件を満たすことを審査した上で設立が認められる手続きを意味する。実際には内閣府及び各都道府県に設けられた公益認定等委員会において審査される。
主な認定要件は公益認定法5条に18項目定められているが、主要なものは以下のとおりである。
1号 公益目的事業を行うことを主たる目的とする
6号 公益目的事業について、原則として、収益がその実施に要する費用を超えない(収支相償)
8号 法人全体の事業費に占める公益目的事業の事業費の割合が100分の50以上である
その他、法人役員の構成や理事会等の機関運営の民主制、適切な管理能力、特定者への利益供与の禁止等が定められている。
最も重要な要件は、当然ながら「1号 公益目的事業」であり、法人の主たる事業が法の定める公益目的事業に該当することが必要である。
そして、仮にこれが認められたとしても、問題となるのは「6号(収支相償)」であり、多くの公益法人やそれを目指す法人がこの点で困難を抱えている。
公益法人であっても、自立した財政運営を行うためには、ある程度の剰余(「収益―費用」の差額)が必要である。収入の多くを国等からの補助金等に依存していたり、建物、機器等の設備投資を必要としない法人であれば、毎期収支相償状態であっても事業継続は可能であろう。しかし、実際には公益法人の多くが補助金等に依存せず、また、多額の設備投資を行い、そのために多額の借入を行ってその返済を行いつつ事業を継続させている。
このため、認定基準上では単年度で剰余が発生した場合に、例外的にそれを将来の投資に使用するための資金を特定して(資産取得資金)、実際の投資時まで留保することを認めている。しかし、過去の設備投資において借入れられた借入金の返済部分は基本的に考慮されておらず、それに剰余金を充当することは認められていない。このため多くの公益法人が財政運営上困難を強いられることになっている。
したがって、この収支相償要件はより柔軟なものとする必要がある。より根本的には、公益目的事業とそれ以外とを資金的に区分し、公益目的事業で獲得した資金を他には使用させないルールとすることが適切である。例え、正味財産増減計算上の剰余(一般的な損益計算に基づく利益の意義)がプラスであっても、それを公益目的事業内で蓄積し運用することには問題はないはずである。現状のように正味財産増減計算上の剰余(一般的な損益計算に基づく利益の意義)を認めないというルールは、公益目的事業を主とした公益法人の活動を阻害しかねない。
③ 法人運営
定款、一般法人法、公益認定法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 基本構成員としての社員(会員)総会(社団の場合)、法人役員としての理事会、監事会、評議員 会(財団の場合)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国等や同種の公益法人 等に寄付する。
・ 社員(会員)は社会に開かれ、不当な入会条件等を付してはならない。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・ 公益法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負う。また、行政庁による定期的監査を受ける。
④ 対外的信用
非営利の公益的活動を行う法人として、その活動に一定の信頼を得ることが可能である。
⑤ 行政等からの補助金取得
運営する公益目的事業に対して、制度化された施設補助、運営費補助の制度がある場合がある。また、一定の公益的事業に対する補助金募集に対しては、公益法人等に募集対象を限定しているものもある。
⑥ 不動産取得や銀行借入
公益目的事業遂行等のために法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
ただし、基本的に投機的な資産取得、資金運用は禁じられており、遊休財産規制(公益目的事業等のために必要な財産以外の財産は一定限度以内)もある。さらに、②で述べたように、将来の収入を見込んでの不動産取得等を行う場合には、収支相償要件が障害となる可能性がある。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、内閣府公益認定等委員会より公表されている公益法人会計基準に基づく。
・ 経理公開は、毎期の決算書を所轄行政庁に報告し、また、公告開示(官報等への掲載の他、定款 で定めることによるホームページにへの掲載でもよい)し、法人事務所内での閲覧請求に応じるこ とが求められている。
・ 法人税は、法人全体の収支ではなく、公益目的事業を除く事業について、税法上の収益事業を行 っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に普通税率を乗じて税額算定され納付義務 が生ずる。ここで、収益事業とは34事業が示されている。例えば以下の通りである。
・物品販売業ーーー有償でのもの、サービスの譲渡
・請負業---外部からの委託に対して物的人的サービスを提供し、対価を受け取るもの
・技芸教授業ーーー学校教育法に基づく学校法人等によるものは原則非課税だが、それ以外の教 育活動を有償で行う場合には課税
ごく大雑把に言うと、受益者より対価を得て行う活動は税法上の収益事業に該当する可能性が高 い。したがって、それを避けるためには、収入を得る方法として固定的な会費、寄付等を活用して いくことが考えられる。
また、固定資産税(地方税)について、社会福祉法上の社会福祉事業に供する固定資産は非課税 となる。
・ 消費税は、公益目的事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、 役務の提供を課税対象とする。ただし、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者と して現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。 すなわち会費や寄付金はこの定義からいって不課税となるので、法人税と同様収入を得る方法を工 夫する必要がある。
ただし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づく ことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者 の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる 可能性が強い。留意が必要である。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
公益法人の公益目的事業に対して支出した寄付金は、個人の所得税の計算上所得控除もしくは税額控除を受けることができる(公益法人の所在自治体については法人が届け出ることで地方税の税額控除を受けることができる)。また、法人においても法人税の計算上寄付金控除の限度枠を一定拡大することができる。
こうした点で、公益法人は寄付金募集をする上での有利性がある。
(2) 事業別法規に基づく法人
医療法人、社会福祉法人等の事業別法規に基づく法人形態は、日本独特の所轄官庁による縦割り制度により制度化された法人形態である。例えば、医療法人、社会福祉法人は厚労省の所轄、宗教法人、学校法人は文科省の所轄である。これらはいずれも非営利で公益性を持つ法人として広義の公益法人に分類される。
① 医療法人(社会医療法人)
a 医療法人の分類
医療法人は医療法に基づく非営利の法人とされているが、現状では株式会社と同じく出資持分を持つものも認められており、単純に非営利・協同の法人形態とはいいがたい。以下のような分類となる。
ー非営利・協同とは言い難い医療法人ー
・ 経過措置医療法人
現在の医療法では出資持分を持つ(出資者への配当は認められないものの残余財産分配権は保有する)医療法人の設立は認められないが、2007年の医療法改正前においては出資持分を持つ医療法人や医師一人出資の医療法人が認められており、経過措置としてそれ以前に設立したものの存続は認容されている(医療法付則第10条2項)。このため、現在でも医療法人数の80%以上がそうした医療法人(「経過措置医療法人」という)となっている。経過措置医療法人は、医療法人としてのいわゆる収益事業の実施は規制されているものの、主として所長医師の節税目的等で設立されている場合も見られ、また、株式会社と同様に特定個人の出資持分があることからいって非営利・協同の法人形態とはみなし難い。
ー非営利・協同組織とみなしうる医療法人ー
・ 出資額限度法人
社団医療法人において、社員の退社及び残余財産の分配にあたり定款の定めでその出資額を払戻額の限度としたものである。持分がないわけではないものの、出資に基づく私的利益の享受は排除されている。2007年の医療法改正前の一時期に厚労省もこの拡大を検討していたが、改正後は出資持分の廃止を原則としたことから、現状で採用している法人数は少ないと思われる。
・ 出資持分の無い医療法人(社会医療法人を含む)
財団形式の医療法人、社団形式であっても定款において出資持分をなくした医療法人である。2007年の医療法改正後に設立された法人は出資持分を認められないのでその全てが該当し、それ以前に設立された法人でも特定医療法人(税法の定めた医療内容、規模等を含む一定の要件を満たした法人であり、税率の軽減を受けられる)等一定数存在する。
なお、従来の出資持分のある経過措置医療法人から現行医療法に基づく出資持分のない法人への移行を進めるため、その障害となる移行時の課税問題を解決するための移行計画の「認定」制度が設けられている。
また、この中でも医療内容や法人運営等一定の要件を満たす法人は公益性の高い医療法人として社会医療法人となる。
こうした点を踏まえ、以下の医療法人の説明は主として「非営利・協同組織とみなしうる医療法人」特に社会医療法人を対象に行う。
b 医療法人の法的意義
生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし遂行される医療行為を行う病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団で都道府県知事の認可を受けて設立される法人が医療法人である。
この内、出資持分がないことだけでなく、民主的運営を図りうる役員、社員構成や救急医療等医療内容面での公益性が確保されている医療法人は、都道府県知事の認可を受けて社会医療法人となる。
c 設立、認可
医療法人及び社会医療法人の設立、認可は都道府県知事の承認を必要とする。実際には各都道府県に設けられた医療審議会において審査される。
医療法人の主な認可要件は以下のとおりである。
・ 財団または持分の定めのない社団であること
・ 社団のおける社員数は3名以上、財団における評議員数は理事数を超えること
・ 原則として理事は3名以上、監事は1名以上置くこと
・ 理事長は医師もしくは歯科医師であること、また、病院等の管理者は原則として理事とすること
・ 2か月以上の運転資金を有していること
・ 病院等の業務を行うための必要な施設、設備、資金を有していること。施設は自己所有であることが望ましく、賃借の場合には長期かつ確実なものであること
医療法人から社会医療法人になるための主な認可要件は以下のとおりである。
・ 救急医療等確保事業等(*)公益的医療活動を実施している(過去3年間の実績が必要)
・ 役員、社員等については、親族等が3分の1以下であること
・ 理事の定数は6人以上、監事の定数は2人以上とする
・ 定款又は寄付行為において、解散時の残余財産を私的に分配せず国等に帰属させる旨定めている
・ 社会保険診療に係る収入金額が全収入金額の8割を超えること
・ 理事等に対する報酬について、支給の基準を定め公開していること
(*)○休日診療、夜間診療等の救急医療
○周産期医療を含む小児救急医療
○へき地医療・離島医療
○重症難病患者への継続的な医療
○感染症患者への医療
○災害医療
○質の高い医療従事者の確保・育成に関する活動 等
d 法人運営
医療法人は定款、医療法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 基本構成員としての社員(会員)総会(社団の場合)、法人役員としての理事会、監事会、評議員 会(財団の場合)の設置及びその適切な運営が求められる。
さらに、経過措置医療法人を除き以下のような運営が求められる。
・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国、同種の社会医療法 人等に寄付する。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・ 医療法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、また、社会医療法人の場合所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負い、行政庁による定期的監査を受ける。
e 対外的信用
医療法人は、個人開業医と比較して、一定の財産的要件を求められ、また、組織的運営が求められている点から、対外的信用度はある。また、21世紀に入り介護福祉分野に株式会社等営利企業の参入が認められているが、非営利の法人形態である医療法人はより社会的信用を得られうる。
また、社会医療法人は、その中でも公益的医療を行い、より開かれた法人運営が義務付けられていることから信用度はより高くなるといえる。
f 行政等からの補助金取得
医療法人を対象とした補助金制度はないが、医療福祉分野を対象とした経費、設備助成金制度を活用することは可能である。特に社会医療法人は、その公益的医療分野での補助金取得をする上で有利といえる。
g 不動産取得や銀行借入、収益事業
医療福祉事業のための病院等の不動産取得は、医療法人の設立認可の上で望ましいとされている。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
ただし、医療法人は医療福祉事業以外の収益事業を営むことが禁止されているため、収益事業のための不動産取得やそのための銀行借入等は基本的にできない。なお、社会医療法人は、投機的でなく社会的信用を害しない範囲でその経営を支えるために一定の収益事業を行うことが認められている。
h 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた医療法人会計基準に基づく。
・ 経理公開は、毎期の決算書等を所轄行政庁に報告し、また、行政庁は請求に応じて決算書等を閲覧に供することとなっている。
・ 法人税
医療法人は、株式会社等の営利企業と同じであり、法人全体の収支に対して普通税率が課される。ただし、地方税である事業税については、社会保険診療部分は非課税なのでその分税負担は減る。
また、特定医療法人は、協同組合と同じく軽減税率が適用される。
これに対し、社会医療法人は税法上公益法人等に分類され、法人全体の収支ではなく、社会医療法人の本来事業を除く事業を対象に、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に軽減税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。例えば病院、診療所等の医療事業は本来事業として非課税であるが、介護事業(付帯事業)や収益事業は課税対象となる。
また、固定資産税(地方税)について、社会医療法人の認定要件に該当する固定資産については非課税となる。
・ 消費税
法人税非課税事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。なお、医療保険事業は消費税非課税取引なので、医療法人の場合、課税売上は通常少ないが、見合いの控除対象仕入額も課税売上割合(売り上げに占める課税売上の割合)でしか控除できないので、税負担は生ずる。
また、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、小規模医療法人の場合課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性が強い。留意が必要である。
i 受取寄付金の寄付者側の特典
社会医療法人も含めて医療法人に対して支出した寄付金は、個人の所得税計算上の特別な取り扱いはない。
② 社会福祉法人
社会福祉法人は、社会福祉法に基づき、老人、障害者等に対する福祉事業を担う財団法人形態である。長く国等からの措置費(補助金)により財政運営される法人であったが、21世紀に入って措置費制度が大きく見直され、介護保険制度の導入も受けて、財政的な「自立」が求められるようになっている。事業そのものも従来社会福祉法人が担ってきた保育園や介護福祉分野は営利法人を含む他の法人形態による運営が認められてきているが、特別養護老人ホーム等社会福祉法人のみの運営事業も残されている。
a 目的
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人である。社会福祉法では社会福祉事業を第一種と第二種に分類しているが(社会福祉法第二条)、第一種は利用者の保護の必要性が高い事業として、原則として国や地方自治体と社会福祉法人しか行うことができず、一方で第二種は利用者への影響が第一種と比べると小さく、社会福祉法人以外でも届出をすれば事業を行うことができる。第一種社会福祉事業は以下のとおりである。
一 生活保護法に規定する救護施設、更生施設等
二 児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設等
三 老人福祉法に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム又は軽費老人ホーム
四 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害者支援施設
六 売春防止法に規定する婦人保護施設
七 授産施設及び生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業 (五は欠番)
b 設立、認可
社会福祉法人の設立、認可は都道府県知事の承認を必要とする。
社会福祉法人の主な認可要件は以下のとおりである。
・ 財団であること
・ 評議員数は理事数の2倍を超えること。また、地域代表者、利用者家族の代表を含み、評議員の親族等の割合は1/3以内とすること
・ 原則として理事は6名以上、監事は2名以上置くこと
・ 理事には施設長、学識経験者、地域代表者を含み、理事の親族等の割合は1/3以内とすること
・ 1~3か月以上の運転資金及び事務経費を有していること
・ 事業の対象となる福祉施設は原則として自己所有であり、地方自治体等から賃借する場合には10百万円以上の資金が必要(なお、土地を賃借する場合には地上権等の登記が必要)。
c 法人運営
社会福祉法人は定款、社会福祉法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 法人役員としての理事会、監事会、評議員会の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国もしくは社会福祉法 人等に寄付する。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
・ 社会福祉法人会計基準に基づく決算書等の作成を行い、また、社会医療法人の場合所轄行政庁に提出するとともに開示義務を負い、行政庁による定期的監査を受ける。
d 対外的信用
社会福祉法人は、社会福祉法に基づく公益的な社会福祉事業を担う法人であり、一定の財産的要件を求められ、また、組織的運営が求められている点から、対外的信用度はある。また、21世紀に入り介護福祉分野に株式会社等営利企業の参入が認められているが、非営利の法人形態である社会福祉法人はより社会的信用を得られうる。
e 行政等からの補助金取得
社会福祉法が定める第一種社会福祉事業については、社会福祉法人を対象とした設備補助金、運営費補助金(措置費)の制度が設けられている。例えば、特別養護老人ホームを建設する場合には、建設資金の一定割合が国及び地方自治体から助成される。また、第二種社会福祉事業についても各種補助金制度が設けられている場合があり、その取得が可能である。
ただし、徐々にその助成は削減されてきている。
f 不動産取得や銀行借入、収益事業
前述の通り法人設立時での福祉施設は自己所有が原則である。法人設立後においては、従来医療福祉機構からの借入以外銀行借入等による不動産取得は認められなかったが、現在は可能である。ただし、社会福祉法人として、無理のない返済計画によることが求められている。
また、社会福祉法人の場合、個別の社会福祉事業によって運営費補助金を受けている場合があることから事業別に収支、資金を管理することが求められており、他の事業会計からの借入等が制限されている。
また、社会福祉法人は社会福祉事業の遂行に支障がない限り、他の公益事業や収益事業を行うことが認められているが、これも収支、資金を個別に管理することが必要である。
g 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた社会福祉法人会計基準に基づく。社会福祉法人会計 基準は、原則として、法人全体、事業区分別、拠点区分別に、資金収支計算書、事業活動計算書(損 益計算書)、貸借対照表の3つの計算書類を作成する必要があることが特徴である。
・ 経理公開は、毎期の決算書等を所轄行政庁に報告し、福祉医療機構がそれを取りまとめて財務諸 表等電子開示システムとして開示している。
・ 法人税
社会福祉法人は税法上公益法人等に分類され、法人全体の収支ではなく、社会福祉法人の社会福祉事業を除く事業を対象に、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで算定された課税所得に軽減税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。したがって、税法上の収益事業のない法人が多いためかなりの法人が非課税となっている
また、固定資産税(地方税)について、社会福祉事業に供する固定資産は非課税である。
・ 消費税
法人税非課税事業であるか否かに関わらず、事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。なお、社会福祉事業は消費税非課税取引なので、社会福祉法人の場合、課税売上は通常少ないが、見合いの控除対象仕入額も課税売上割合(売り上げに占める課税売上の割合)でしか控除できないので、税負担は生ずる。
また、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、社会福祉法人の場合課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。
h 受取寄付金の寄付者側の特典
社会福祉法人に対して支出した寄付金は、個人の所得税の計算上所得控除もしくは税額控除を受けることができる(社会福祉法人の所在自治体については法人が届け出ることで地方税の税額控除を受けることができる)。また、法人においても法人税の計算上寄付金控除の限度枠を一定拡大することができる。
こうした点で、社会福祉法人は寄付金募集をする上での有利性がある。
③ その他学校法人、宗教法人等
その他、公益的活動を行う法人形態として、学校法人、宗教法人等がある。
a 学校法人
学校法人は、学校教育法1条に定める私立学校の設置運営を目的とする私立学校法に基づく法人である。学校としては小中高等学校、大学の他、幼稚園の一部も学校法人として運営されている。なお、学校教育法1条に該当しない専修学校、各種学校を運営する場合にも準学校法人として法人化が可能である。
学校法人は、土地等の資産の寄付に基づき、その他教育、研究施設としての適切性の審査を経て、文科省もしくは都道府県により認可される。学校教育法1条に基づく学校法人は、校舎等の建設費や運営費につき定められた一定の計算割合で補助金を受領する。
学校法人は、設立時の寄付に基づく財団であり、社団でいうところの寄付行為に基づき運営される。運営機関は役員としての理事会、監事会の他評議機関としての評議員会の設置が求められる。評議員数は理事数の2倍以上が必要である。
学校法人は文科省令である学校法人会計基準に基づき会計が行われ、また、税負担は公益法人等として原則として非課税、収益事業のみ課税対象となる。
b 宗教法人
宗教法人は、宗教法人法1条に基づき、宗教団体が礼拝の施設等を所有し運営するために設立する法人である。宗教法人には個別に礼拝の施設を備える単位宗教法人と、宗派、教団のように寺院等を傘下に持つ包括宗教法人(傘下にある法人は被包括宗教法人)とがある。
宗教法人は、礼拝施設等の拠出に基づき、文科省もしくは都道府県により「認証」される。「認証」とは、行政が宗教法人の設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。株式会社等のように法令にのっとった手続きをすれば行政届け出等は不要であること(「準則主義」)よりは厳しいが、社会福祉法人のように行政の審査で様々な要件を満たすことを確認した上で設立が認められる「認可」よりは簡便である。
宗教法人は、礼拝施設等の拠出に基づき設立される財団といえる。社団でいうところの定款である「規則」に基づき運営される。運営機関は役員としての3人以上の責任役員を置き1名を責任役員とする。責任社員の不在に備えて代務者を置くことも求められる。なお、義務付けられてはいないが、大規模法人では一般に信者総会等を設置し、そこで重要な意思決定の承認を受けている。
宗教法人には法定された会計基準はないが、公認会計士協会より「宗教法人会計の指針」が出されている。また、税負担は公益法人等として原則として非課税、収益事業のみ課税対象となる。例えば、喜捨、墳墓の永代使用料、おみくじ販売等は非課税であるが、絵葉書の販売等は課税対象となる。
(3)NPO
特定非営利活動促進法に基づき、1998年からスタートした法人形態(社員(会員)を基礎とした社団、ただし、出資は不要)である。NPO中一定の要件をクリアーした認定NPO(もしくは仮認定NPO)になることで、NPOへの寄付者側での所得税等の寄付金控除等が受けられることから、収入原資としてその多くを寄付金募集に期待する団体にあっては適合的な法人形態といえる。
① 目的
特定非営利活動促進法に掲げる20項目の内のいずれかを法人の事業目的としなければならない。
ex.・保健、医療、福祉の増進を図る活動
・子供の健全育成を図る活動 etc
② 設立
法人設立は、宗教法人と同様に都道府県知事の「認証」を必要とする。「認証」とは、行政がNPOの設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。
具体的には設立申請後2カ月間の定款等の公衆縦覧の後2カ月以内に認証される。法令に適合している限り基本的に認証され、不認証の場合には行政はその理由書を通知しなければならない。
また、設立時の一定額以上の寄付や出資といった財務要件はない。
③ 法人運営
定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。
・ 基本構成員としての社員(会員)総会、法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な 運営が求められる。
・ 非営利であり、獲得した剰余金を社員や役員に分配してはならない。解散時の残余財産は国もし くは公益法人、社会福祉法人等に寄付する。
・ 社員(会員)は社会に開かれ、不当な入会条件等を付してはならない。
・ 役員総数に占める特定役員の親族等の割合は1/3以内とする。
④ 対外的信用
公益法人や社会福祉法人ほどではないが、非営利の法人として、その活動に一定の信頼を得ることが可能である。
⑤ 行政等からの補助金取得
社会福祉法人のように、運営する社会福祉事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。ただし、実施する事業に公益性が認められれ、地域住民からの支持が得られるようであれば、行政等からの予算措置に基づく補助金取得はありえよう。
⑥ 不動産取得や銀行借入
法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。
⑦ 会計と経理公開、税負担
・ 会計は、公的基準ではないものの内閣府から推奨されているNPO法人会計基準に基づく。また、 毎期の決算書は都道府県に報告し、また、公告開示(官報等への掲載の他法人事務所内での掲示で もよい)することが求められている。
・ 法人税は、法人全体の収支ではなく、税法上の収益事業を行っている部分のみを抽出し、そこで 算定された課税所得に普通税率を乗じて税額算定され納付義務が生ずる。ここで、収益事業とは34 事業が示されており、NPO法の目的事業であるかいないかは問われず、また非営利性の有無は問 われない。例えば以下の通りである。
・物品販売業ーーー有償でのもの、サービスの譲渡
・請負業---外部からの委託に対して物的人的サービスを提供し、対価を受け取るもの
・技芸教授業ーーー学校教育法に基づく学校法人等によるものは原則非課税だが、それ以外の教育活動を有償で行う場合には課税
ごく大雑把に言うと、受益者より対価を得て行う活動は税法上の収益事業に該当する可能性が高い。したがって、それを避けるためには、収入を得る方法として固定的な会費、寄付等を活用していくことが考えられる。
・ 消費税は、原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。ただし、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義 務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。すなわち会費や寄付金はこの定義からいって不課税となるので、法人税と同様収入を得る方法を工夫する必要がある。また、社会福祉法上の社会福祉事業等は別途非課税とされているので、実施する事業の同法への該当の有無も確認する必要がある。
⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典
NPO中一定の要件をクリアーした認定NPO(もしくは仮認定NPO)になることで、NPOへの寄付者側での所得税等の寄付金控除等が受けられる。その要件とは基本的には事業内容の公益性(非営利であることは当然であるが非共益(少数者による共通利益を図る団体でないこと)であることも求められる)、事業運営の適正性である。
・ 認定NPOとなるための重要なポイントは、パブリックサポートテスト(PST)をクリアーすることである。
PSTとは、NPOが多くの地域住民に支えられているかどうかを示す指標であり、おおむね以 下のような算定式ではかられる。
(相対値基準)受入寄付金額(この寄付金には一定の会費や補助金を含む)÷経常収入額 ≧ 20%
(絶対値基準)3千円以上の寄付者が年平均で100名以上
・ ただし、設立後間もないNPOの場合PSTを満たすことは容易ではないことから、他の要件を 満たしていれば仮認定NPOとなり、認定後3年間に限り寄付者側での所得税等の寄付金控除等が 受けられる。
以上
日本における非営利・協同組織の法人形態 ―総論―
日本には1.2億人の人々が家族を形成し生活している。また、経済活動として年約6百兆円弱の付加価値(GDP)を生産し、さまざまな社会活動を行っている。そうした諸活動を行うために、例えば数万人、数十万人の職員を抱え数千億円以上の収入規模の事業を担う組織が存在するが、それらが個人商店のように特定の個人により支配され担われるというようなことは非現実的であり、その活動を十全かつ適切に行うために、組織自体に法律的な人格を与え法的な権利能力や義務を付与することが必要となる。これを法人と呼ぶ。
法人すなわち社会において様々な活動を行う団体、組織は、社会的存在として個人とは切り離した形で独立した法的な人格=法人格を有することになる。また、法人にはその社会的な存在目的により様々なものがあり、その所有の在り方や運営方法、行政との関係等異なる特徴があって、それぞれの根拠法規に基づいて存在形式が定められている。これを法人形態という。
代表的な法人形態である株式会社(有限会社を含む)は営利的な事業活動を行い、法人に出資する株主により所有され株主への配当や財産分配を基本目的としている。これに対し、営利を目的としない非営利・協同組織の法人形態は、日本において非営利・協同組織を包括する法律がないこともあって、法人の活動目的や活動分野に応じて多様に存在する。法人数やその事業規模は株式会社等と比べ少ないものの、その活動分野、根拠法規によって様々ある。
以下、非営利・協同組織の法人形態について概括的な説明を行う。
1、非営利・協同組織の法人形態についての基本的視点と留意点
まず、非営利・協同組織の法人形態を理解する上で、基本的に押さえておくべき視点と留意点につき述べる。
(1) 日本において非営利・協同組織の法人形態は、一定の社会的存在となっている。
日本において、営利法人形態である株式会社等以外の法人形態=非営利・協同と呼びうるあるいはそれを目指す組織の法人形態は多岐にわたるが、合計しての非営利組織の法人数は数十万と推定される。これらは社会的に一定の地位を占め、経済的にも無視しえない存在となっている。このことは世界的にも同様である。
20世紀終わりから21世紀初めにかけて、市場原理主義、営利経済万能主義の風が吹き荒れ、非営利の諸活動分野にも営利的な法人形態の参入が盛んにおこなわれたが、それに対抗する形で非営利・協同を目指す組織は、そうした理念に近接する法人形態を探求、採用し、発展してきている。
(2) 一方で、営利法人=株式会社等が圧倒的多数を占めているのが現実である。
しかしながら、日本及び世界全体が政治経済的には営利法人が圧倒的に支配している社会、すなわち資本主義社会であることも事実である。特に法人数で言って株式会社等数の1%以下にすぎない資本金1億円以上の大企業が売上や利益の大部分を独占していることは周知の事実である。資本主義社会における営利追求による弊害が社会問題となり、その影響が医療や福祉等本来非営利であるべき分野にも及ぶ状況となっている。したがって、非営利・協同組織は、地域住民や他の非営利団体と連帯しつつ、それらに抗して資本主義社会での様々な問題を克服し改善することが求められている。
(3) 法人形態はあくまで法的な形式であること、また一方でそうした形式が非営利・協同組織の実質を規定する側面があること、に留意が必要である。
非営利・協同組織あるいはそれを目指す組織であっても、営利法人形態である株式会社等を採用している場合がある。法人選択時他に適切な選択肢がなくやむを得ず株式会社化した事例、株式会社の形式を採用しつつ実態として、非営利・協同を志向し運営している事例等がある。一方、社会福祉法人、宗教法人、NPO等本来非営利・協同組織であるべき法人形態において、営利的、利己的な思考を持つ代表者の個人的不正、不祥事の事例も見られる。また、非営利・協同組織内においても組織内の不団結やゆるみが生じると営利的志向や非民主的運営が表面化することがありうる。非営利の法人形態のすべてが、真の非営利性を持ち、協同を進めているとは限らない点に留意が必要なのである。
こうした状況を踏まえると、法人形態という形式のみで非営利・協同組織を安易に区分するのは必ずしも適切とはいえない。すなわち、法人形態はその目的面や法制度面から営利・非営利を区分する上で重要であるが、しかしあくまで形式でしかない。非営利・協同組織は、社会的存在として法規定に基づくコンプライアンス(法的適合性)は当然具備する必要があるが、それにとどまらず、非営利・協同組織としてのあり方を追求する必要がある。
一方で、社会での存在様式である法人形態が、実質的な非営利・協同組織の継続発展に役立つあるいは阻害する側面にも留意が必要である。株式会社は基本的に営利を追求する法人であり、株式所有割合に基づき会社の議決権が決められ、また、株式配当を法的に禁止することはできない。したがって、株式会社でありながら非営利・協同を追求することは法的に困難が生ずる。また、公益法人は公益的な活動が事業全体の過半数を占めることが求められ、公益事業には法人税等は課されないことから、非営利の事業を進めていく上でおおきなメリットがある。そうした意味で、非営利・協同組織が法人形態を採用する場合には、十分な検討が必要である。
2、日本における法人制度と非営利・協同組織の法人形態
(1)日本における法人制度
基本的性格 税法上の区分 根拠法規 法人形態 法人数(万) *5
非営利 普通 一般法人法 一般法人*2 4.9
(中間*1) 民法 法人格なき団体 不明
非営利 協同組合 各種 消費生協
(共益) 協同組合法 企業等協同組合 4.3
農協 等
非営利 公益 公益認定法 公益法人 0.9
(公益) NPO法 NPO 5.0
各種
事業別法規 医療法人*3 5.0
社会福祉法人 2.0
学校法人 0.8
宗教法人 等 18.1
非営利 公共 各種 独立行政法人*4
(公共) 分野別法規 国立大学法人
NHK 等
営利 普通 会社法 株式会社 261
有限会社 等
*1 一部もしくは全部営利事業を行うことを否定されてはおらず、その意味で「必ずしも営利ではない」という意義。
なお、法人格なき団体の多数は営利を目的としていない比較的小規模のものと推定される。
*2 この内残余財産の分配を行わない等の要件を満たすものにつき、法人税法上「非営利型」一般法人とされ、公益法人と同様に税法上の収益事業のみが課税対象となる。
*3 医療法人の内真に公益的性格を持つ法人は医療審議会で認可される「社会医療法人」とされ、それ以外の医療法人は事業のすべてが法人税課税対象となっている。なお、出資持分を失くす等の要件を満たすものを特定医療法人として法人税に軽減税率が適用される。
*4 独立行政法人については、その一部は公共法人として指定され法人税非課税であるが、それ以外は法人税法上公益法人の扱いを受ける。
*5 法人数のデータ入手先は以下の通り。
協同組合、医療法人、株式会社等---2015年分 財務省(国税庁) 法人の種類別法人数(なお、株式会社等については、非営利型でない一般法人数が含まれている可能性あり)
一般法人---2016年分 法務省 法人登記法務局別件数表
NPO---2015年度分 内閣府 認証・認定数の推移
公益法人ーーー2014年度分 公益認定等委員会 社団・財団別の公益法人数
社会福祉法人ーーー2017年度分 厚労省 社会福祉法人の現況報告書等の集約結果
学校法人ーーー2003年度分 文科省 学校法人等及び私立学等数(数値は準学校法人を含む)
宗教法人ーーー2017年度分 文化庁 宗教法人の概要
(2)法人形態の分類
① 目的別分類(営利と非営利)
日本における法人制度は、大きく営利を目的とする法人形態と営利を目的としない法人形態とに分けられる。
営利を目的とした法人形態は、多くの法人の形態である株式会社、有限会社、合名会社、合資会社等が該当し、利益追求を基本目的とし、株主等出資者に対する最大配当、財産分配が基本的な使命である。この為の仕組みとして、株主総会等が最高議決機関であり、議決権は基本的に株主の出資割合によって与えられる。法人数としては圧倒的多数である。
これに対して営利を目的としないすなわち非営利の法人形態は数多くの種類があり、非営利・協同組織の法人形態はその多くがこの中に含まれている。大きくは「中間」「共益」「公益」「公共」と分類される。
② 税法上の分類
法人税法では、法人を以下のように区分した上で、基本的に獲得した利益(課税所得)に一定の税率を乗じて法人税を納税することとなっている。
a 普通法人(株式会社等、一般法人)
法人の全ての事業から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた普通税率(19~23.2%)を乗じて納税する。
b 協同組合
法人の全ての事業から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた軽減税率(19%)を乗じて算定する。
普通法人と同様に、事業の内容にかかわらず全ての事業を課税対象とする(全部課税)扱いになっているのは、協同組合も基本的には営利法人と位置付ける日本の法制、税制の考え方にもよづくと思われる。
c 公益法人等(公益法人、NPO、社会福祉法人等事業別法規に基づく非営利法人)
原則として非課税であるが、法人の事業の内税法で定められた収益事業(34事業、かなり広範囲でありかなりの法人が申告し納税している)があれば、その部分から獲得される利益(課税所得)に対し、定められた軽減税率(19%)ないし普通税率を乗じて納税する。
なお、医療法人については、医療内容や出資持分等で公益性を具備する社会医療法人は上記の通りであるが、それ以外の法人は全部課税である。(なお、その内特定医療法人のみ低軽減税率でその他は普通税率が適用される。)
法人の全ての事業が非課税である。
e 法人格なき団体
法人格なき団体については、法人ではないものの代表者または管理人の定めが団体の定款、規約等で定められ、実態としての法人の機能を有しているものを言い、そうした団体については法人とみなして法人税が課される。(そうでないものは個人とみなされて所得税の対象となる。)
法人格なき団体は、公益法人等と同様に原則非課税であるが、税法で定められた収益事業を行っている場合にはその部分から獲得される利益(課税所得)に対し課税される。ただし、乗ずる税率は普通税率である。
③ 設立運営主体による分類
法人がだれによってあるいは何によって設立されたか、また、設立後はだれによってどういった形で運営されるかという点で、法人は以下のように分類される。
a 社団
出資者の資金等拠出(出資等)に基づき設立され、設立後も出資者等により運営される法人である。株式会社がその典型であり、出資者である株主は法人所有者として株主総会で保有株式数に応じて発言権を持ち、利益配分も保有株式数に応じて受領できる。
b 財団
寄付者による寄付行為に基づいて設立され、寄付された財産をもとに運営される法人である。出資者等は存在しないことから、有識者等で構成される評議員会が最高議決機関となる。社会福祉法人、学校法人等の公益法人がこれに該当する。
c 組合
出資者等の資金等拠出(出資等)に基づき設立されることは社団と共通であるが、組合員の共通利益(共益)を事業目的とすることから、法人と出資組合員との関係あるいは組合員相互の関係がより濃厚で人的色彩が強い点が異なる。出資組合員の総会(あるいは総代会)が最高議決機関であるが、議決権は組合員一人一票である。各種協同組合がこれに該当する。
法人形態ごとの分類は以下の通りである。
社団ーーー 株式会社等、NPO
財団ーーー 社会福祉法人、学校法人、宗教法人、独立行政法人等公共法人
社団もしくは財団ーーー一般法人、公益法人、医療法人、法人格なき団体
組合ーーー各種協同組合
④ 設立時の行政認可等
a 認可
認可とは、任意の法人設立は認められず、国や地方自治体がその根拠法規に定められた要件を審査し、要件を満たしていると認められた場合にのみ設立が許可されることをいう。補助金や税負担の減免等の制度がある公益的法人や協同組合は認可制度により設立される。また、法人設立後も継続して行政からの監督を受け、定期的な行政監査も行われる。
b 認証
認証とは、国や地方自治体が法人の設立申請に対して法令に適合することを確認する行為を意味する。認可と同様に任意の設立は認められないが、認可ほど厳しくはない。日本においてはNPOが認証により設立することとなっている。具体的には設立申請後2カ月間の定款等の公衆縦覧の後2カ月以内に認証される。法令に適合している限り基本的に認証され、不認証の場合には行政はその理由書を通知しなければならない。また、法人設立後も継続して行政に対して決算書等の提出が求められる。
c 準則
準則とは根拠法規に基づく設立手続きを行うことを意味し、そうした手続きを行うことで任意に設立でき、法人登記を行うことの他は行政への届け出等は不要である。法人数として最も多い株式会社や一般法人は準則主義に基づき設立される。
d 任意
その他、法人格なき団体は直接の根拠法規はなく、設立手続きが法定されている訳ではない。したがって、任意に設立することができる。
以上非営利・協同組織の法人形態につき、次回以降説明する内容を含めて営利法人と比較する形でまとめると、以下の表のようになる。
公益的非営利法人 共益的非営利法人 中間的非営利法人 営利法人
法人形態 公益法人 各種協同組合 一般法人 株式会社
NPO 法人格なき団体
事業別公益法人
目的 公益目的 組合員の共益目的 明示されていない 営利目的
(非営利を明示)
所有等 私的所有なし 組合員所有 明示されていない 私的所有
出資配当なし (ただし、一人当り 出資配当
残余財産分配なし の上限あり) 財産分配
一人一票原則 一人一票原則 一人一票原則だが 持分議決
別段の定めを許容
設立 認可OR認証 認可 準則OR任意 準則
税法分類 公益法人等 協同組合 普通法人 普通法人
(原則非課税 (全部軽減税率課税) (全部普通税率課税) 収益事業課税) OR原則非課税
収益事業課税
以上非営利・協同組織における法人形態の概要説明を行ってきたが、次回は個別の法人形態について述べることとする。
以上
市場原理主義に対する経済学的批判
市場原理主義に基づく経済政策は1980年代より先進資本主義国で開始された。イギリスのサッチャー、アメリカのレーガン、日本の中曽根がその政治的担い手となり、日本では本格的には小泉首相がそれを進めた。営利企業がその主人公である市場に基本的にすべての経済運営を任せ、規制緩和のスローガンのもと政府は基本的に介入しないこととした。その結果、公益的分野を担う公営企業の民営化、社会福祉制度の切り捨て、大企業等に対する大幅減税と消費税制の拡充等が進められ、大企業はさらに大規模化して多国籍企業化し、貧富の格差は大きくなる一方となった。
市場原理主義は21世紀に入ってもその勢いを弱めてはいない。アメリカにおいて「エンロンショック(2001年)」「メリルリンチの経営破たん(2007年)」を招き、世界経済を不安定化させたが、それでもなお先進諸国の基調としての経済政策は市場原理主義であり、日本も例外ではない(国際機関であるIMFも同様)。
市場原理主義は経済学としてはフリードマン等いわゆるシカゴ学派が中心となってとなえたものとされ、それまでの各国の経済政策のバックボーンとなってきたケインズによる「政府による有効需要創出政策」への批判として提起されてきた。ここでは、営利主義に対抗して非営利・協同を唱える立場から、市場原理主義に対する経済学的な批判を行うこととする。
なお、本稿の検討にあたっては、川上則道氏著「マルクスに立ちミクロ経済学を知る(新日本出版社)」を参考にさせていただいた。
1、市場原理主義の経済理論の基本的思考
(1)市場を限界学説に基づく需給均衡論で唱える
ある商品の市場を、その商品を生産し供給する企業と商品を購入し需要する消費者との関係でとらえる。様々な価格の下での企業の供給量と消費者の需要量とを検討するのである。この関係は以下のようなおなじみの図1でとらえることができる。
① 需要曲線(D)が右下がりとなる理由
消費者は、商品を購入し消費することで一定の満足=効用を得ることができるが、その効用については商品の購入量が増加するたびに追加の効用が徐々に低下する傾向をもつ。追加の効用のことを限界効用というが、限界効用は逓減するのである。そして、需要曲線はそれぞれの需要水準における限界効用を示しており、限界効用逓減の法則に基づき、右下がりとなる。
② 供給曲線(Q)が右上がりとなる理由
企業は、商品を生産し供給することでの利益の最大化を目的とする。収益ー費用=利益であるから、できる限り収益を最大化し、一方で費用を最小化することが、企業にとって利益最大化のために必要である。ただし、完全競争市場の下では収益単価(販売価格)は市場によって決定され、個別の企業がそれを決定することはできないため、企業の生産量(供給量)を規定するのは生産のために支出される費用である。
費用は、生産量が少量の時には規模の経済により追加費用は徐々に低下するものの、ある程度の生産量以上になると追加費用が増加していく傾向を持つ。追加の生産に伴う追加費用のことを限界費用というが、限界費用は逓増するのである。そして、企業の利益の最大化は、逓増する限界費用が商品1個当たりの収益と一致する時点の生産量まで生産することによって実現できることになる。
以上のことから、供給曲線はそれぞれの供給水準における限界費用を示しており、限界効用逓増の法則(農業における収穫逓減の法則と同意義)に基づき、右上がりとなる。
③ 均衡点(P1、Q1)
消費者の限界効用を示す需要曲線と企業の限界費用を示す供給曲線の交わった点を均衡点と呼び、均衡価格P1と均衡数量Q1で市場の取引が成立することになる。
均衡点は、投入された一定の生産資源の中で、消費者にとって最も効用を最大化させ、企業にとって最も効率的な生産を行う地点となる。資源の効率利用のことを経済学では「経済的厚生」と呼びその最大化が経済の主要な目標とされているが、市場における需要供給曲線の均衡点こそが、経済的厚生の最大化された価格及び数量とされるのである。
図2で示すと以下のようになる。
(2)市場への介入の経済的意味
以上の通り、市場原理主義では市場にすべてをゆだねて価格や生産数量を決定していくことが、最も経済的に有効であるとする。したがって、こうした市場での需給に基づく価格決定原理に反するような経済政策は、社会的損失を招くものとして否定される。
以下具体例を2つ述べる。
① 市場への企業の参入規制(例えば、医療福祉分野に対する営利企業の参入規制、中小商店を守るためのスーパー規制等)
企業の参入規制を行うことで、自由競争市場と比較して、社会的余剰は減少する。以下図3で示す。

② 企業の対する補助金の支給(例えば、農林水産業や介護福祉事業への各種補助金の支給等)
企業に対する補助金を支給することで、自由競争市場と比較して、社会的余剰は減少する。以下図4で示す。

以上のような事例は政府による市場に対する様々な介入全般に共通であり、したがって政府による市場規制、財政支援等による市場の需給均衡機能への干渉は基本的に経済的に有害であり、すべてを市場に任せるべきである、ということになる。これが市場原理主義の基本的考え方である。
2、市場原理主義の経済理論への批判
説明してきた市場原理主義の経済理論は、現代社会での絶対的な真実であるかのように扱われている。日本の小中学校の教科書にも掲載され、ノーベル経済学賞の受賞者にも多数の「シカゴ学派」の学者が生まれている。
しかし、世界経済が混迷を深め、日本においても生活苦を背景とした諸事件が毎日の新聞報道でみられる現状を踏まえてみれば、政府の政策はどこかずれており、その理論的指針となっている市場原理主義の経済理論は、現実離れしていて机上の空論と思わざるを得ない。
以下、何点かに整理して批判していきたいと思う。
(1)限界学説の非現実性
1、で説明してきたように、市場原理主義経済理論の根本は、限界学説に基づく需給均衡論である。この限界学説の誤り、非現実性を以下述べる。
① 消費者は商品の価値を効用で比較し判断するのか
まず、商品を需要する消費者についてである。限界学説では、限界効用という概念を使用して市場での需要曲線を描き、均衡点での効用最大化を説明する。
しかし、消費者が商品に対して感ずる効用を価格として数値化することが果たして可能であろうか。商品の消費量の増加に応じて総効用量が増加するとは一般に言えるとしても、ハンバーガーや車、あるいは医療サービスといった様々な商品を消費することの満足度(効用)は人さまざまであり、また、その人の性別、年齢、所在地、経済状況等でも異なるはずである。要するに、効用なるものは人それぞれが持つ主観であって、数値化することはできず、商品間での比較もできないものである。
さらに、商品の消費量に応じて限界効用が逓減するという科学的根拠はない。ハンバーガー1個目よりも2個目の方が効用が下がるという理屈は何となく正しいように思えるが、果たしてそれを根拠づけ数値化することができるのだろうか。それこそ空腹度、嗜好、体格、年齢等で人さまざまであり、逓減するとする合理的根拠は見当たらない。少なくとも消費者の需要曲線をその限界効用の推移で説明するのは困難であり、非現実的な抽象論と考える。
なお、ここでは需要曲線が限界効用の推移線であるという限界学説の理論を否定するのであり、市場における需要曲線が右下がりとなる(価格の下落に応じて需要量が増加する)という当然の市場機能を否定するものではない、という点に留意が必要である。
② 限界費用は逓増するのか
次に、商品を供給する企業についてであるが、限界学説では、企業は利益最大化を目標とし、また、市場で決められた商品一個当たりの収入を所与としたうえで、限界費用という概念を使用してそれが逓増するとして供給曲線を描き、均衡点での利益最大化を説明する。
資本主義社会において企業は利益の最大化を目的として活動すること、完全競争市場において企業は市場を操作できず収入単価である価格は所与のものとなること、こうした点については基本的に異存はない。しかし、生産量の増加につれて追加費用が増加するという限界費用逓増の法則については全く根拠がなく、非現実的である。現実には、規模のメリットにより生産量の増加に応じて追加費用は逓減することが一般的と思われる。限界費用逓増の法則は、農業分野での収穫逓減の法則(限られた耕地面積により、投入原料や労働力を増やしても生産物の増加は比例的には増加しないという考え方、リカード、マルサスによって19世紀に唱えられた。当時のイギリスの特殊な農業事情に基づくと思われる。)を無理に全産業に一般化したものと思われる。したがって、少なくとも企業の供給曲線をその限界費用の推移で説明するのは困難であり、むしろ正しくないと考える。
なお、ここでは供給曲線が限界費用の推移線であるという限界学説の理論を否定するのであり、市場における供給曲線が右上がりとなる(価格の上昇に応じて供給量が増加する)という当然の市場機能を否定するものではない、という点に留意が必要である。
③ 市場は何によって価格を決定しているのか
それでは市場において商品の価格や取引数量はいかなる根拠で決定されるのか。この点については、経済学の創始者であるアダムスミス及びその理論を批判的に摂取し著書「資本論」で大きく発展させたマルクスは「労働価値説に基づく生産価格」で市場は取引されることを主張している。
すなわち以下のような論理で、市場価格が当該商品に投下された人間の労働量を基礎として決定されることを主張した。
・ 資本主義社会の主要な特徴は商品取引の全世界的展開であり、商品が市場において交換されるのはそれぞれの商品が等価であるからである。
・ この商品には使用価値と価値の2面性がある。使用価値は当該商品の有用性であり、限界学説のいう効用と同意義であるが、有用性は商品それぞれで異なっており、主観的なものであって、異なる商品間や取引を行う様々な嗜好を持つ人間間で客観的に比較することはできない。
・ これに対して価値は、商品が共通して人間の労働の産物であることに着目し、その質的差異も考慮した上での労働量に基づき形成される。したがって商品は、それに内在する労働量に応じた価値によって市場において等価交換される。
(ただし、労働者市場における労働力商品だけは、資本家はその労働量の対価を支払わず、労働者の生存、労働力の再生産の範囲でしか支払わない。これが労働者の「搾取」である。)
・ ただし、現実には、同一市場内での企業間競争、市場間の利益率の相違、流通費用、利子、地代の存在等により単純には労働価値どおりの価格水準とはならず、そうした市場を通じての価格変動、市場参入、撤退等の中で、市場において徐々に労働価値に基づく価格水準に収斂していくことになる。
・ なお、図1でみた通り、市場は前述の点以外の特殊要因を含めて形成された需要と供給との関係において価格と数量を決定していくのであり、アダムスミスのいう「見えざる手」としての市場の役割の重要性は、「生産価格」説の立場からも位置づけられている。
以上、生産価格こそが市場における価格決定理論として妥当性を持っていると考える。なお、付言すれば、ケインズによって創始され国民経済全体の把握を目的とするいわゆるマクロ経済学における「国民所得」とは付加価値(労働によって付加された価値)の国全体の合計値であり、限界学説よりもむしろ労働価値説と整合していると思われる。
こうした点から、市場原理主義の根拠である限界学説には根本的問題があると考える。
(2)独占、寡占状態での市場経済
市場原理主義は、市場を完全自由競争市場としてとらえることを基本とし、市場参加者である消費者や企業は価格決定には参加できず、市場から与えられた価格の下での購入量や生産量の意思決定のみが可能としている。
しかし、現実には、完全競争市場が存在するのはごく限られた分野あるいは国民経済的に見て金額的重要性の少ない分野であり、多くの市場は独占企業あるいはいくつかの寡占企業に供給が限定されていたり、逆に小売業に見られる通り大手スーパーの需要が市場に大きな影響を与えている状況にある。したがって、価格そのものについても独占、寡占企業は何らかの形で市場に影響力を行使しうるといわなければならない。
こうした市場においては、完全競争市場における均衡点以外のどこかの独占、寡占企業に有利な地点で、企業がその利益最大化を図るための行動することが可能になる。したがって、仮に限界学説を認容したとしても、独占、寡占市場においては、市場での均衡点で社会的余剰が最大化されることはない。
以下図5で示す。

(3)限界学説が唱える経済学の目的
市場原理主義の根本理論である限界学説が目標とするのは、限られた資源の中での最大効用、最大利益である。ひとことでいうと経済効率の極大化を目標としており、それと同意義で経済的厚生や社会的余剰の最大化を唱える。そして、それ以外の経済的問題については、基本的に「価値判断から中立」として経済学とは無関係の立場をとるのである。
例えば、以下のような本来経済学が解決すべき課題につき、基本的に無視あるいは経済効率の上で有害と評価するのである。
① 労働者の失業問題
労働者の失業問題の解決は、国民の生存、生活の安定のために絶対に必要な課題であり、経済政策の目標として、したがって経済学の目標として提起されるべき課題である。
しかしながら市場原理主義の失業に対する考え方は、雇用市場に労働を供給する労働者と労働力を求める企業間における市場が完全競争状態(図1を労働力の需給市場として見た場合)にあるならば、均衡点で価格(賃金)と数量(雇用量)が決定するので基本的に失業は生じない、というきわめて単純なものである。そして、現実に発生している失業は自発的失業(賃金水準よりも余暇による効用を選択したことによる失業)や摩擦的失業(労働需給の調整過程での一時的失業)に過ぎないとする。
これに対しイギリスの経済学者であるケインズは、1929年の世界恐慌期での現実の大量失業問題に直面しての市場原理主義の無力さを批判して「有効需要創出政策」を提唱し、政府の大規模財政支出による雇用創出によって、恐慌を脱出すべきとした。すなわち、ケインズは労働力(雇用)の需給市場を以下の図6のように描くことで、政府の財政政策によって人為的に需要を創出すべきとしたのである。

以上、ケインズの有効需要創出政策の説明を行ってきたが、実際にもこうした政策が大恐慌からの脱出に大きな効果を生んだことは歴史的事実であり、基本的にケインズの提起は正しかったと評価される。(ただし、賃金の下方硬直性の本質的要因は、労働者の生存=労働力の再生産のための最低限にあるとすべきであり、労組の反対等は単なる現象面のことと考える。)
市場原理主義の立場からも当時のケインズ理論の成功は認めざるを得なかったが、その後フリードマン等のマネタリストは、ケインズ理論は当面の短期処方策としては有効であるが、長期的に見れば無効である(市場に任されることで完全雇用は長期的には達成される)ことを主張し、不況期における福祉政策や財政出動に反対し、失業問題に正面から向き合う姿勢を持っていない。
② その他の経済目標
その他の以下のような経済目標についても、市場原理主義の理論は基本的に無視あるいは経済効率の上で有害と評価する。
a 所得格差の縮小
市場原理主義による経済政策が進められて以降、そうした政策をとるすべての国において所得格差が広がり、ごく一部の者への富の集中が問題となっている。また、大企業の多国籍企業化が進行する中で、富める国と貧しい国との格差拡大も深刻化している。
これに対して、各国は失業給付、最低賃金制、医療や年金等の社会保障、教育福祉政策等を多かれ少なかれ実施しているが、市場原理主義者はこうした政策は経済的に無意味あるいは市場を混乱させるものとして否定的である。
日本の春闘の時期に、経団連が必ず「賃金引き上げ幅は生産性上昇率の範囲内で」と主張するが、これは単純化して言うと生産性上昇による大企業、大株主の利益増加のおこぼれが賃金引上げ原資であると言っているにすぎず、所得格差の縮小どころか、消費の拡大を通じての景気引き上げといった思考も極めて低い。これも市場原理主義に乗っかった論理の一つと考える。
b 社会インフラ(公共財)や環境問題(外部不経済)
道路、公園、交通、電力水道等生活、生産基盤型の産業については、莫大な投資規模が必要で、社会インフラとして極めて重要な機能を持つが、その対価は無償もしくは長期間の低額利用料によらざるを得ない性格を持つ。こうした商品、サービスを経済学では公共財と呼ぶが、公共財については一般的な市場原理が働きにくく、また、民間営利企業が担うことを期待できないために、主として租税負担を原資に政府が担うこととなってきた。
しかし、市場原理主義の立場からはこうした公共財についても民営化し、市場にゆだねるべきとする。それによって、資源の最適配分、生産の効率化がはかられるとするのである。この間議論されている水道事業の民営化もこうした主張の延長上にあり、さらに電力会社があれだけの悲劇の中でも原子力発電を放棄しようとしないのも電力会社の利益が原子力発電に支えられているからである。だが、民営化された水道事業が果たして安全で低価な水を供給しうるのか極めて疑問であり、原子力発電は即時廃止すべきなのはあまりにも当然ではないだろうか。また、アメリカの医療制度が基本的に民間保険会社にゆだねられており、日本を含めた社会保険による国と比較してダントツの費用水準になっていることをどう説明するのだろうか。
さらに1960~70年代の日本において、営利企業による利益最大化活動の陰で、多くの公害、大気汚染が生じたことは人々の記憶に残されている。経済学では市場を通ることなく発生する損害のことを「外部不経済」というが、公害はその典型例である。この解決も企業の市場における活動を研究し、社会的な富の拡充を求める経済学の使命の一つといえる。
しかし、市場原理主義はこの規制を基本的に市場外で法的、強制的に行うことには否定的である。こうした外部不経済についても、市場原理の中に組み込んで解決していくことがその主張である。例えば、世界的な二酸化炭素の排出規制のため、その排出権の売買を行う仕組みは市場原理主義に基づく考え方と思われる。利益の大きい国、企業が、排出権を買い取り二酸化炭素の排出を平気で行うような行為が果たして妥当といえるのか、疑問である。
c 食糧安保
日本のカロリーベースでの食料自給率は、農水省の発表によれば2018年で37%である。諸外国と比較して極端に低いのが特徴である。富裕国と呼ばれてはいても、何らかの理由で諸外国からの食糧輸入がストップすれば、日本は途端に食糧危機に陥りかねない状況にある。したがって、安全保障の観点からいってその自給率を高める必要があり、農業への保護は絶対必要である。
しかし、市場原理主義の立場からは、そうした点は一切考慮されない。自由貿易を推進し、経済的に有利であれば他国からの輸入に頼ることが経済的に効率的とされる。
ドイツにおける資本会社(株式会社、有限会社)の「共同決定」制度
40年ほど前、会計士試験の勉強をはじめ、試験科目の一つである経営学の試験委員(出題&採点者)の一人が当時の西ドイツ共同決定制度の研究者であった。今ではどうかわからないが、当時、経営学等につき合格レベルの答案作成のためには試験委員の学説学習が不可欠であり、会計士試験のために旧西ドイツ共同決定制度なるものを勉強せざるを得ないことになった。しかし勉強して見ると以外に興味深く、他の試験科目より時間をかけて学習した記憶がある。
(ただし、いざ受験というときに試験委員が交代してしまい、この勉強は試験自体には全く役にたたなかった。人生とはこういうものである。)
表題にある「共同決定」とは、会社の経営について、株式出資を行う資本家とそこで働く労働者とが「共同決定」することを意味する。ドイツ以外のアメリカ、イギリス、フランスや日本等では会社は株主である資本家のものであり、労働者は経営権にはタッチできずコストの一部に過ぎないこととなっているのに対し、非常に特徴的である。あとで述べる通り、ドイツが含まれているEUにおいても「共同決定」制度が一部取り入れられている。
ここでは、「株主資本主義」「営利第一主義」への批判という立場から、ドイツ「共同決定」制度を紹介し、併せて私見を述べたいと思う。
1、ドイツでの「共同決定」法制度
ドイツの株式法上、最高決議機関が株主総会であることは日本と変わらない。しかし、日本では取締役会に対する監査機能を果たす監査役会は、ドイツでは最高意思決定機関として会社の基本方針の決定や取締役の選任等を行う機関であり、株主総会は監査役のみを選任することとなっている。
その上で、この監査役の構成について、以下のように法定されている。
① 1951年 モンタン共同決定法(旧西ドイツ)
従業員1000人超の石炭、鉄鋼産業の資本会社(株式会社、有限会社)が対象。監査役の構成は、原則として株主代表4名、労働者代表4名、公的機関の代表3名、合計11名となっている。(なお、資本金の額が大きくなれば監査役の総数は増加するが、構成割合は変わらない。)なお、取締役中労務担当取締役の就任は、労働者代表監査役の承認を要する。
② 1976年 共同決定法(旧西ドイツ)
従業員2000人以上の①を除く資本会社が対象。監査役の構成は、従業員数により12~20名の幅で変動するが、株主代表と労働者代表とが同数で構成することは変わらない。ただし、労働者代表には、労働組合代表(ドイツは企業別組合ではなく産業別組合である)だけでなく、一般労働者代表も含まれ、さらに最低1名は中間管理職代表も含めなければならない。なお、監査役会での議決は当然多数決だが、賛否同数の場合には、議長である株主代表監査役が第二次投票権を持つ。
③ 2004年 三分の一関与法
①②以外の資本会社は、監査役会総数の1/3を労働者代表が占める。
2、EUでのヨーロッパ会社(SE)での「共同決定」制度
ヨーロッパ会社法が2004年に施行された。ここには、EUの主要メンバー国であるドイツの「共同決定」制度の影響が見られる。
まず、ヨーロッパ会社とはEUレベルの法人形態であり、EU理事会規則に基づく法人格であってヨーロッパ各国の法人法制には規制されない。従来ヨーロッパ内でも国境を越えて事業展開を行うには現地法人等を通じて行う必要があったが、ヨーロッパ会社になれば、一つの法人格でよい。国境を越えた合併等ヨーロッパ会社になることのメリットは大きいとされる。
ヨーロッパ会社の基本的な機関構成は、株主総会は当然として、それ以外は以下からの選択となる。
①業務執行機関としての取締役会のみ
②監督機関としての監査役会と業務執行機関としての取締役会
そして、労働者代表の経営参加に関しては、労働者の代表組織である特別交渉機関と交渉し、資本側と労働側の合意により自主的に決定できる。
なお、ドイツの会社がヨーロッパ会社となる場合、合意ができない場合には、標準ルールとして、ヨーロッパ会社の設立経緯(合併、関係会社設立、組織変更)に応じて、一定の条件付きで従来の「共同決定」方式が維持されることになっている。
3、「共同決定」制度の思想
大規模株式会社に代表される経済活動を行う経営組織の基本目的は最大利潤すなわち最大の収益性であり、そこで働く人間はそうした目的を達成するための道具、手段である。これが資本主義経済での基本的な思想であり、ドイツにおいてもそうした考え方に基づき企業の経営がとらえられてきた。
20世紀前期のドイツの経営学者ニックリッシュ等はこれを批判し、そうした経営では人間疎外を招来するとし、「このような誤りの下においては、経済する人間は苦しみ続け、法律上においても現実においても、ついには葬り去られるであろう」とする。
これを克服するため、企業は資本家、労働者の共同体であるものとして、そこで働く人間は資本の下で働く手段であると同時に、自己実現を図ることを目的とした主体でもある、とする。また、企業の基本目的は、利潤の追求ではなく、労働者の賃金を含めた経営成果(=付加価値)である、ととらえるのである。したがって、企業で働く労働者は株主、経営者とともに経営に参加する権利を有し、企業の意思決定は資本家と労働者が「共同決定」すべき、との考え方が生ずる。これが「共同決定」制度の思想の源流である。
ただし、一方では、こうした考え方はあくまで資本主義制度の枠内でのものであり、資本の私的所有権は引き続き擁護され、資本の否定よりもむしろ労働の地位を高め、経営成果の産出と分配過程に労働者が参加することを重視する、としていることに留意が必要である。
4、「共同決定」制度の限界
一方で、「共同決定」制度は以下のような限界があり、正確な認識が必要である。
(1) 「共同所有」ではない
「共同決定」制度はあくまで企業経営における労使の共同決定であり、労働者が企業の所有者となるいわゆる「労働者企業」ではない。したがって、労使の意見が不一致となった場合での最終的な意思決定権は株主側にある。この点で、社会主義的な「公有」「社会的所有」とは明らかに異なっており、マルクスのいう「生産手段の私的所有の止揚」が実現できているわけではなく、労働者の経営参加といっても限界を有する。
(2) 法制度上の限界
① ドイツ企業の最高意思決定機関である監査役会における労働者側の構成比率は1/2を越えることはできない。
② 監査役会での議決が労使間で分かれ賛否同数となった場合、最終的な第2次投票権は資本側に属する。
③ 監査役会構成上の労働者代表には、労働組合代表だけではなく中間管理職の代表も含まれている。
5、資本側からの批判
21世紀に入り、EU統合や企業のグローバル化が進行する中で、また、新自由主義的思考が広がる中で、ドイツの多国籍企業等から「共同決定」制度の廃止が提起されている。その理由は、①企業活動のグローバル化の中で、機動的効率的意思決定を行う上で障害となっている、②労働者代表には経営者としての識見、能力が不足している、といった点である。ドイツやEUにおいても、アメリカ型の「株主資本主義」を求める動きは強まっているものと認識される。
6、私見
以上述べてきた点を踏まえ、「共同決定」制度に対する評価等私見を述べたい。
(1) 営利大企業における経営参加
① 労働者の経営参加の意義
営利大企業において、そこで働く労働者の代表が経営参加する意義は、例え様々な制約条件があったとしても、基本的に大きいと考える。株主を代表する資本側の経営者 に対して賃金等の労働条件をはじめとした意見を労働者代表が主張することは、少な くとも利益最大化、配当の拡大のみを志向する経営に対する一定の規制になると考え る。したがって、「共同決定」制度を日本においても導入する積極的な意義はあると考える。
なお、日本においては、取締役会等の経営機関とは別に、「労使協議会」といった協議機関を設置している企業が多いが、それを法的にも正規の経営機関の中に位置づけ ることとの違いは当然質的に異なると考える。日本の場合、企業別労働組合であるこ ともあって、労使協議会が単なる情報伝達や労働者の不満の「ガス抜き」の役割に過ぎず、実質上経営の従属機関となりうる。
② 一方での限界の認識
一方で、その限界も明確に認識しておく必要があると考える。すなわち、前述の通 り「共同決定」といっても労働者側は実質上1/2未満の発言権にとどまらざるを得な い。よって、最終的には株主代表としての経営者側の意思決定が認められる制度とな っている点は留意が必要である。
さらに、例えば、労働者代表の反対にもかかわらずリストラや賃金引下げ等労働者側に不利益な意思決定が経営判断としてなされた場合、そこに労働者代表が参加し「共同 決定」していることが、経営者側の責任回避、労働者側への責任転嫁に利用される可 能性も生じうる。したがって、「共同決定」という場合、労働者側の権限をどこまで認めさせるか、逆に株主代表経営者の権限行使へのチェックをどういった形で図るかが問題 となろう。すなわち、そもそも労働者がどこまで経営参加すべきかという検討が必要 となると思うのである。
いずれにしても、「共同決定」制度には現在の営利大企業の在り方を改革する上での限界があることは認識しなければならない。
(2) 非営利・協同組織における労働者の経営参加
① 意義
営利を求める株主が存在しない非営利・協同組織の場合には、基本的に事情は異な る。非営利・協同組織の基本構成員、出資者である組合員、社員等は基本的に利益の 最大化、多額の配当を求めてはいない。非営利の立場で、公益的な事業目的を持ちあ るいは相互の助け合い活動の推進を求めている。そこで働く労働者と立場は異なるも のの、組合員等が労働者の働くを理解し、労働者側が非営利・協同組織の活動目的に 共感を寄せることで、労使間の共通理解は十分可能と考える。
また、公益法人、医療法人、社会福祉法人等の非営利・協同組織においては、労組の役員を担っていた労働者が管理者となり、さらに実質上の任務分担として理事等の役員になっている事例は多数見られる。事実上の労働者の経営参加になっているといってもよい状態になっており、これに制度として労働組合の代表として理事会に参画する仕組みをも導入することで、制度として「共同決定」制度が機能しうると考える。
したがって非営利・協同組織には、営利大企業より以上に労使の「共同決定」制度 を積極的に進めていく条件があり、導入を図っていくことが望まれよう。非営利・協同組織の一部に営利企業の労使協議会等と同一視して労働組合の経営参加に否定的な意見も聞かれるが、硬直した思考ではなくむしろ積極的に関与していく姿勢が期待される。
② さらに労働者を含む共同所有
さらに、現状の「共同決定」制度の限界を乗り越え、労働者を非営利・共同組織の 所有にも参画していくことが考えられる。すでに、いわゆる生産者協同組合において はそれが実現しているが、労働者が自らの職場に労働を提供するだけではなく、その 所有者となり、経営にも参加することで、労使の「共同決定」は、労働者、ユーザー、消費者、患者等ステークホルダー全体の「共同決定」制度に発展しうると考える。
会計士が読む セブン本部の決算書――浮かび上がるいくつかの疑問点
平成29年の暮れから2度ほど、セブン-イレブン・ジャパン株式会社(以下、セブン本部と呼びます)に問題提起している加盟店オーナー(以下オーナーと呼びます)の方などより話を伺う機会がありました。マスコミ報道で、セブン本部と一部店舗オーナーとの間でトラブルが生じていることは知っていましたが、話を聞けば聞くほどその深刻さに驚かされました。公認会計士として30年ほど会社決算書の監査等を担ってきた私ですが、セブン本部やそのオーナーとは今まで業務上のおつきあいはありませんでした。そこで、セブン本部の決算書はどうなっているのかと思い、そのホームページから抽出して見てみることにしました。
セブン本部の決算書を見ていくと、いくつかの疑問点が浮かび上がってきます(残念ながら決算書だけでは疑問点程度にとどまりますが)。以下、まず、セブン本部と問題を訴えているオーナーの主な論争点を確認したうえで、オーナー側が批判している点のいくつかについて数字を読み解いていきたいと思います。
1、加盟店オーナーとセブン本部とのこの間の係争問題の概要
セブン本部と加盟店オーナーの間には、主として以下の4点をめぐって法的な係争事件が発生してきました。裁判等では、オーナー側の勝訴、敗訴いずれもありますが、全体としては、オーナー側の主張のほうに正当性が認められているように思います。
① 廃棄ロスチャージの不当性
セブン-イレブンのシステムでは、賞味期限切れの廃棄ロスはオーナーの負担となっています。しかし、一方でセブン本部に支払うセブン-イレブンチャージの算定基礎となる売上総利益(オーナー店舗の「売上高-売上原価」として算定される)の上では、それが売上原価に含められず控除されません。このため裁判では、セブン-イレブンチャージと廃棄ロス負担との「二重払い」となっていることの不当性が争われてきましたが、2007年6月の最高裁判決でオーナー側が敗訴しました。ところがセブン本部は、その後廃棄ロスの15%を本部負担としてオーナーとの妥協をはかっています。
② 仕入等の明細開示要求
セブン本部からの「推薦」による仕入商品の単価が一般スーパーの売値よりも高額という事実が多くみられることや、セブン本部とのオープンアカウント制度によってオーナー側には仕入れの詳細が不明となっている事態があるため、ベンダーからの仕入明細の開示を求めてセブン本部を提訴しました。最高裁でオーナー側が勝訴しましたが、差し戻し審の東京高裁の判決においては、請求書等の原資証票の開示は認められませんでした(2009年2月)。
③ 値引き販売を認めさせる
①の廃棄ロス問題とも関係しますが、ロスとなる在庫の値引き販売(いわゆる見切り)をセブン本部に認めさせるべく、公正取引委員会に訴えました。そして2009年6月、独禁法違反としてオーナー側勝利の命令が出されています。
④ 2009年にオーナー側はセブン本部との交渉を求めて労働組合を結成しました。岡山県労働委員会はオーナーの労働者性を認めて、セブン本部が交渉に応ずるよう命令をくだしています(2014年3月)。
2、セブン本部の決算書(平成28/2月期)からみられる疑問点
(単位:億円)
損益計算書
営業総収入 7936
内加盟店収入*1 6804
売上高 1071
売上原価 -772
営業総利益 7163 販管費 - 4813
営業利益 2350
営業外収益 224
内受取利息 32
営業外費用 - 7
内支払利息 - 2 経常損益 2567
特別損益 -115
税引前当期利益 2451
法人税等 - 828
税引後当期利益 1629
貸借対照表
資 産 負 債 ・ 純 資 産
流動資産 5517 流動負債 4111
現預金 446 買掛金 1653
加盟店貸勘定 148 加盟店借勘定 150
商品 25 未払金等 985
預け金 3923 預り金 1164
未収金 588 その他 158
その他 387
固定資産 12420 固定負債 569
土地 824 資産除去債務 342
他有形資産 4106 その他*2 227
無形資産 398
差入保証金 1744 純資産 13257
他投資 757 資本金 172
資本剰余金 504
利益剰余金 12522
評価差額金 58
資産計 17938 負債・純資産計 17938
*1 加盟店収入の対象となる加盟店売上高は41822億円
*2 この内長期借入金は2億円
(注) 上記数値は億円未満を切り捨てている。
1で述べた係争の経過もふまえて、以下、セブン本部の決算書に基づいて、この間議論されてきた、いくつかの疑問点を検討してみたいと思います。
ただし、残念ながら、決算書数値の情報だけでは検討するうえで限界があることも事実です。本来は、セブン本部からセブン本部のベンダーやオーナー側との契約取引関係について、より具体的な情報開示、説明が必要なのですが、それがなされていないため、詳細な検討ができないからです。その制約はありつつも、セブン本部の決算書を見ると、疑問を呈さざるをえないところがあります。
A 店舗オーナーの仕入先はベンダーであり、セブン本部はその支払い代行を行っているにすぎないのか?
セブン本部の主張では、「加盟店舗との関係において、セブン本部はその支払い代行を行っているにすぎない」と聞いています。だとすれば、商品仕入時、ベンダー(仕入先)への支払時ではセブン本部の会計処理は以下となるはずです。
<加盟店舗>
会 計 処 理
商品仕入時 会計処理せず セブン本部は仕入には関与しない
商品売上時 会計処理せず セブン本部は売上には関与しない
代金支払時 預け金/ cash オープンアカウントに基づき、ベンダーへの支払
=オーナーに対する債権(預け金)が計上される
<直営店舗>
商品仕入時 商品/ 買掛金 商品を在庫し、ベンダーへの債務(買掛金)が計
上される
商品売上時 売上原価/ 商品 商品が販売され原価となる
cash/ 売上高 利益を加算して売上となる
代金支払時 買掛金/ cash ベンダーへの支払が行われ債務(買掛金)が
減少する
すなわち、仕入取引について、セブン本部の決算書上は、加盟店舗分ではオーナーに対する債権(預け金-貸借対照表)しか発生せず、店舗数全体に占める割合が小さい直営店舗分のみ買掛金(貸借対照表)が残存し、売上高、売上原価(損益計算書)が発生します。
セブン本部の決算書を見ると、確かに決算書上の売上高は1071億円と加盟店+直営店の合計売上高(41822+1071=42893億円)の内数%にすぎず、売上原価も同様と推定されます。しかし、一方で買掛金残高は1653億円あり、売上原価772億円の2倍強となっています。このことは、単純に見ると2年分以上の直営店の仕入代金が支払われていないことを意味します。現実の商品取引関係では、そのような事態はありえないことから、加盟店舗分の仕入分はセブン本部がいったんベンダーに対し買掛金計上していることが考えられます。実際オーナーからは、オープンアカウントによる債務(セブン本部側では債権(預け金)は、加盟店舗がベンダーから商品を仕入れた時点で発生していると聞きました。)そうであれば、ベンダーにとって大事な「得意先」はオーナーではなくてセブン本部ということになり、そのことからいってベンダーからの仕入にかかわる利益(割り戻し等)がセブン本部に入ってくる関係が生じうると考えられます。
B セブン本部はベンダーより経済的利益は得ていないのか?
Aのような取引によってセブン本部がベンダーより利益を得ていることが考えられますが、セブン本部は、「加盟店舗とベンダーとの取引においてセブン本部は経済的利益を得ていない」としています。確かに、セブン本部の決算書上は仕入割戻しのようなベンダーから得る直接の収益科目は見当たりません(売上原価やその他営業外収益のなかに含まれている可能性はありますが)。
しかし、直接のベンダーからの割戻益の入金だけではなく、セブン本部が経済的利益を得る方法は考えられます。
たとえば、本来セブン本部が負担すべき広告宣伝費や販促費用、オリジナル商品の開発費等をベンダーに負担させること等です。これにより、セブン本部は本来の負担すべき費用の削減というかたちで経済的利益を享受することができます。また、その結果、ベンダーは通常のスーパー向け以上のコスト負担が生じることから、加盟店舗向け商品の価格は高く設定することになります(当然セブン本部は承知のうえでしょう)。
こうした点はあくまで推定であり、決算書だけでは断定はできません。しかし、販売量の多さからして、セブン本部の価格交渉力は日本でも有数のはずですから、一般スーパー向け価格よりセブン店舗向け価格が高く設定されていて、それをセブン本部が容認しているとすれば、何らかの「仕掛け」があると考えるのが自然です。
C オーナーがセブン本部に対してオープンアカウント残高に対して支払う利息負担額は、支払の合理性があるのか?
セブン本部は、「オープンアカウントに基づき、オーナーに対して多額の債権が生ずることから、それに対する金利を徴することは当然である。」との立場です。
セブン本部の損益計算書によれば、セブン本部の受取利息は32億円計上されています。一部は預金利息だとしても、大部分はオープンアカウントに基づく、オーナーからの利息だと思われます。そしてその対象債権は、金額水準から見て預け金3923億円(預り金1164億円の一部がその控除項目として考えられるが)と思われます。つまり、セブン本部はオーナーに対して3000億円程度の債権を保有していて、それに対して32億円の利息負担をしているということです。
この点については、以下のように考えられます。
第一に、セブン本部はほぼ無借金経営であり、長期借入金は2億円、支払利息も2億円しかありません(この支払利息も、セブン本部のリース資産取得に伴うリースによる金利が含まれていて、預け金見合いの資金調達コストではないと考えられます。)。つまり、セブン本部は貸金業をやっている訳ではなく、資金調達コストもないのに、利息だけオーナーから徴収していて、しかもその中味は利息が通常生じない商品仕入にかかわる立替債権なのです。
第二に、セブン本部はオーナーに対して3000億円程度の債権があるように見えますが、Aで述べた買掛金1653億円をはじめとして、債務のなかに実質上当該債権見合いの債務も多く含まれている可能性があります(たとえば、セブン本部にて加盟店舗についても以下のような処理を行っている可能性が考えられます)。
会 計 処 理
店舗での仕入時 預け金/ 買掛金 店舗での仕入時にベンダーへの買掛金計上
ベンダーへの支払時 買掛金/ cash セブン本部からベンダーへの支払い
上記会計処理間に一定期間のタイムラグがあり、その間セブン本部はベンダーに買掛金金利を支払うことはなく、一方で店舗オーナーへの預け金だけは受取利息を取っていることが考えられます。その債務について、セブン本社は利息を支払っておらず、オーナー債権だけ利息を徴収するのは片手落ちだと言えます。
第三に、支払利息負担はわずかであっても、配当というかたちで株主に資本金等での資金調達コストを支払っているとセブン本部は主張するかもしれませんが、配当はセブン本社の獲得利益を原資とした株主への分配であり、金利コストとはその性格が異なるものです。
以上3点にわたり、疑問点を提示しました。決算書からの推定なので、一部に必ずしも正確でない認識が含まれている可能性はあると思います。しかし、そもそもセブン本社とオーナーとの取引実態について、前述したように、セブン本社からの適切な説明がなく、その決算書でしか検討できないことこそが問題だといわなければなりません。そうした状況は明らかに異常です。そのことが密接な取引関係にあり相互に強固な信頼関係を築くべきセブン本社と加盟店オーナーとの間で、前述のような係争問題が多発している根本原因となっていると思います。セブン本社がオーナーとの協議や交渉に応じない、オーナーが求める情報開示、特に、店舗運営上の要となる仕入取引や仕入価格に関するデータを提供しないといった事実は、民主主義社会においては、とうてい考えられない事態だと言えます。
係争問題の解決をはかっていくうえでの前提条件として、セブン本社はオーナーへの適切な情報と協議を行うべきであり、オーナー側はセブン本部に対して引き続きこの点を強く主張していく必要があると考えます。
非営利・協同論の系譜
非営利・協同論は日本においては旧ソ連崩壊後の1990年代からスタートした議論であり、まだ明確な定義等は定まっていないように思われる。そもそも非営利・協同組織が現代社会の中で営利市場経済に対抗し、実践を積み重ねていく中で、徐々にその理論も深まっていく性格のものではないかと思うのである。
ここでは、非営利・協同論の系譜を「かけ足」でたどり、私見も交えて、今後の議論や実践の方向について考えてみたい。
(1) 非営利・協同の意義(いのちとくらし研究所報NO60 富沢賢治「非営利・協同の理念とナショナルセンターづくりの課題」p2、富沢賢治著「非営利・協同入門」p12~13を参考にしている)
非営利・協同論を提起した主要研究者の一人が、富沢賢治氏(一橋大学名誉教授、非営利・協同総研いのちとくらし顧問)である。富沢氏は以下のように非営利・協同という用語を提起した当時を振り返っている。
「「非営利・協同」という表現は、日本の労働者協同組合運動の中から登場したように思われーーーすでに1990年代によく用いていた。」「1998年にーーー国際シンポジウム「ポスト福祉国家における非営利・協同の役割」が東京で開かれーーー討論の共通用語として「非営利・協同」というコンセプトを用いることを提案した。」
そして、「非営利・協同の担い手である組織は、協同組合、共済組織、NPOなどの種々の民間非営利組織」であるとした上で、非営利・協同組織の特徴として以下のように述べている。
「非営利・協同組織とは「営利目的でなく社会的目的を実現するために人びとが協同して活動する組織」だということです。ーーー。非営利・協同組織の特徴はつぎの四点にあります。
① 開放性(開かれた組織、自発性に基づく加入・脱退の自由)
② 自律性(政府その他の権力の直接的な統制下にない自治組織)
③ 民主制(一人一票制を原則として民主主義と参加という価値に基づいて運営される 組織)
④ 非営利性(利潤極大化ではなく社会的目的の実現を第一義として運営される組織)」
富沢氏はこの特徴点を、後で述べるヨーロッパにおける社会的経済憲章、ICA(国際協同組合連盟)のアイデンティティに関する声明等を踏まえて提起したものと思われる。
(2) ヨーロッパにおける社会的経済、第三セクター
a 社会的経済(富沢賢治、川口清史編「非営利・協同セクターの理論と現実p16~17を参考にしている)
ヨーロッパでは、1970年代から議論と実践が進められ、当時のEC(ヨーロッパ共同体)及び多くのEC内各国で法的にも位置付けられている。しかし、非営利・協同という用語は一般的でなく、おおむね社会的経済(SOCIAL ECONOMY)と呼ばれている。
それが公的に使用された例は、フランスのミッテラン社会党政権下でCNLAMCA(共済組合、協同組合、アソシエーションの活動についての全国連絡委員会)により定められた社会的経済憲章(1980年)である。この憲章では社会的経済について、以下のように定義している。
➀ 社会的経済の企業は民主的に運営される。
➁ 社会的経済の企業のメンバーは、それぞれが選択した活動形態(協同組合、共済組合、アソシエーション)に従って、企業活動に責任を持つ。
③ すべての組合員が生産手段の所有者という資格を持つ社会的経済の企業は、教育・情報活動により、内部に新しい社会関係を創造するように努める。
④ 社会的経済の企業は、各企業の機会平等を要求する。また、その活動の自由を重視して発展の権利を認める。
⑤ 事業の剰余金は企業の発展と組合員へのよりよいサービスにのみ用いられる。
⑥ 社会的経済の企業は、個人と集団の向上を目指して、社会の調和ある発展に参加するように努める。
⑦ 社会的経済の企業は人間への奉仕を目的とする。
さらに、ECにおいて、1994年に欧州委員会が発表した「ECにおける協同組合、共済組織、アソシエーション、財団のための3か年行動計画」では以下のように述べている。
社会的経済の組織は経済民主主義の諸原則にもとづいて組織され運営される。これらの組織は、社会的目的を持ち、参加の原則(とくに一人一票原則)と連帯の原則(メンバー間の連帯、組織間の連帯、生産者と消費者との連帯など)を基礎に組織され運営される。これらの組織の特質は、とりわけ下記の原則の協調にみられる。➀資本よりも人間を優先させる。➁訓練と教育による人間発達を重視する。③自由意思による結合。④民主的運営。⑤自立とシティズンシップという価値を重視する。
b 第三セクター(富沢賢治著「非営利・協同入門」p14~15を参考にしている)
また、ヨーロッパでは非営利・協同組織の活動する分野のことを第三セクターともいう。日本においては、国、地方自治体が民間との共同出資により運営する事業体のことをそう呼ぶが、ヨーロッパではそれとは異なり、富沢氏は以下のような分野のこと示していると述べている。
「民間非営利組織の集合体は、国際的には「第三セクター」といういい方で理解されております。「非営利・協同セクター」にせよ「第三セクター」にせよ、ここで言う「セクター」という意味は、「分野」とか「領域」とか「部門」とか言ってもいいものです。ーーー。現代社会には幾つかの異なった経済原理によって運営されている社会的構成領域があります。「第三セクター」は、その構成領域の一つであり、しかも二一世紀を見据えた時にますます重要になってくる社会領域です。ーーー。
社会は、国家や地方自治体などの公共領域(第一セクター)と営利を目的とする民間の市場領域(第二セクター)の二つによって構成されると認識されてきました。しかし、---公共経済でもなく、私的経済でもない、民間の非営利経済が第三のセクターとして実際に存在するのではないか、ということです。」
(3) アメリカにおける非営利組織(富沢賢治、川口清史編「非営利・協同セクターの理論と現実p42~54を参考にしている)
アメリカは、世界一の資本主義国として営利企業中心の経済活動が行われてきたが、一方で非営利組織による事業や諸活動も盛んであり、非営利組織に対する研究も進められている。
背景としては、アメリカの富裕層が営利活動によって蓄積した富を、巨額の資金を寄付したりする形で非営利組織を設立運営するような「文化」あるいは「風土」があることがあげられている。
ここでいう非営利組織とは、研究者であるレスター・サラモン等によれば、以下のような6つの特徴点で定義されている。
① 公式に設立され、ある程度公共組織化されたもの。
② 制度的に政府から独立している、民間組織であること。
③ 利益を生み、蓄積できるけれど、それは組織の活動に再投資されねばならず、組織の構成員に分配されないこと。
④ 自主管理
⑤ 組織の活動やマネジメントに何らかのボランティアの参加があること。
⑥ 公共の利益のためのもの
日本の非営利・協同組織、ヨーロッパの社会的経済企業と類似する点は当然あるが、注意すべきことは、上記の通り構成員に対する非分配を非営利組織の要件とすることで、相互扶助組織としての協同組合、共済組合は一般に除外されていることである。アメリカにおいては、協同組合等は基本的に営利組織とされており、非営利・協同の立場からは違和感のある分類といえる。
また、非営利組織の経済的存在意義については、新古典派経済理論に基づき説明されている。すなわち、準公共財(教育、医療、福祉サービスなど)については供給者と需要者の間での「情報の非対称性」が存在するため、私的財を扱う営利市場のように供給者の利益追求=需要者の効用最大化を図る仕組みが機能しない、よって、供給者側での利潤分配を規制する非営利組織に担わせることで供給者の動機を利潤以外のサービス供給に専念させる、という訳である。
なお、日本における法人法制、税制も、アメリカでの営利、非営利の分類の影響で同様の考え方に基づいていると思われる点も注意を要する。我々の専門分野である事業税などでは、協同組合は基本的に営利法人と同列に取り扱われている。
(4) ICA(国際協同組合同盟)による協同組合のビジョン
ICAは、第二次大戦後のおける世界の協同組合運動の動向を踏まえて、1980年に協同組合の中長期的ビジョンを提案にした。「西暦2000年における協同組合」がそれであり、提案者の名前を付け、「レイドロー報告」と呼ばれている。
そこでは、将来のビジョンとして以下のようなことが述べられている。
「(将来のための示唆)
➀ 協同組合運動にとって、その基盤となる概念、思想、および道徳的な主張を明らかにし、知らせることは重要であり、また実際に必要不可欠なことである。
➁ 協同組合原則は、運営原則ではなく基本的な指針の表明として定式化され、すべてのタイプの協同組合に適用される最低必要条項として設定されなければならない。
③ 将来は、特に地域社会レヴェルにおける多目的タイプの協同組合に重点をおいて、すべての規模の多種多様な協同組合が要求されるだろう。
④ 協同組合の民主的性格は、協同組合組織のすべての点について、またすべてのレヴェルにおいて確保されなければならない。
⑤ 経済的に効率がいいばかりでなく、社会的に影響力を持った協同組合が、新しい時代にもっともよく受け容れられることになろう。
⑥ 協同組合と国家の間の相互作用は、見通しうる将来においては大きく増大し強まるだろう。
⑦ 協同組合組織の将来の発展は、各国の経済における結合力のあるセクターの建設を通じてのみ保証されうる。
⑧ 将来の全世界的な協同組合運動においては、より広範な諸思想を許容する余地が存在しなければならない。
(将来の選択)
第一優先分野 世界の飢えを満たす協同組合
第二優先分野 生産的労働のための協同組合
第三優先分野 保全者社会(よりよい生活や社会を守る)のための協同組合
第四優先分野 協同組合地域社会の建設」
さらに、ICA100周年を記念して、1995年に「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」が発表された。
「(定義)
協同組合は、人々の自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人々が、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じて、共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえることを目的とする。
(価値)
協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たちの伝統を受け継ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、他人への配慮という倫理的価値を信条とする。
(原則)
協同組合原則は、協同組合がその価値を実現するための指針である。
<第一原則>自発的で開かれた組合員制
<第二原則>組合員による民主的管理
<第三原則>組合員の経済的参加
<第四原則>自治と自立
<第五原則>教育、研修および広報
<第六原則>協同組合間の協同
<第七原則>地域社会への関与 」
その内容は多岐にわたるが、共通する特徴は、協同組合が自立して民主的に管理されるべきこと、また、利潤追求ではなく地域社会に開かれた活動を展開すべきこと、を強調している点にあると思われる。
なお、ICA声明の中にある「自助」「自己責任」とは、安倍政権が唱えているような国民の福祉等に対して実質上政府を免責する方便としての意味ではなく、市民一人ひとりの自主的判断と主体的努力を尊重し、協同組合の発展に対し組合員一人一人が責任を負うことを意味している。
(5) いわゆる民主経営論からの批判(有田光雄著「民主経営の管理と労働」p51~58、「非営利組織と民主経営論」p35~37を参考にしている)
日本においては、非営利・協同論以前に、いわゆる民主経営を巡る議論が存在していた。この立場から、非営利・協同論に対する批判を行ったのが、有田光男氏である。
まず、有田氏は民主経営の条件として、以下4点を挙げた。
「民主経営の条件
1、「資本」の集団的・民主的協同所有
2、民主的・科学的な羅針盤(目標)
3、科学的な管理と民主的な運営
4、階級的・民主的な労働組合 」
ここでいう1、3、については、字句通りであまり説明は必要ないと思われるが、2、4、につき若干解説する。
2、民主的・科学的な羅針盤(目標)
ここでいう民主的とは、営利を追求せず、経済民主主義の実現に寄与するという意義であり、科学的とはその活動による社会改革の法則的な方向を指し示すということと思われる。つまり、民主経営は、その目標として、非営利かつ経済的な民主主義を志向し、それを通じての社会改革を展望する、といったことと理解される。
4、階級的・民主的な労働組合
日本における労働者協同組合について、労働者が協同組合の所有者であり原理的にいわゆる労使対立が生じないことを理由に、協同組合内では労働組合は不要であることを唱える議論が存在する。これに対する有田氏からの批判であり、例え民主経営であっても、経営とは別個に労働者としての固有の要求は存在し、それに基づく労働組合が必要との立場を明らかにしている。
次に、有田氏は、富沢賢治氏が述べた非営利・協同の特徴点(開放性、自律性、民主制、非営利性)についての批判を行っている。
第一に、この特徴点だけでは、政党、教会、労働組合なども含まれてしまい、無限定であるとの批判である。
第二に、生産手段の所有関係が明確でなく、誰が所有しているかという観点が欠落しているという批判である。
第三に、非営利・協同の運動も階級闘争の一環であり、労働者階級の存在と役割が欠落しているという批判である。
これらの批判点については、次の私見の中で意見を述べる。
(6) 私見
当事務所の創立者であった故坂根利幸氏は、非営利・協同総合研究所いのちとくらしの発足にあたって執筆した論文「市場経済と非営利・協同(研究所報2002/10/13)」の中で、非営利・協同の意義について、4点にわたって述べている。ここでは、それを紹介した上で、前述の議論に関する私見を述べたい。
① 営利と非営利
「医療法人も生活協同組合も、事業協同組合も、民法34条公益法人も、社会福祉法人も労働組合も、そして近時設立相次ぐNPO法人もみな、その規制する法律で営利目的を否定されている。---。すなわちこれらの法人の行う事業活動は営利目的ではなく、非営利の目的であるとされている。---。利益追求は非営利の法人または活動の目的達成のための「手段」と見ることができる。」
坂根氏は、非営利・協同組織について、その事業活動目的が営利ではなく非営利であることを第一にあげている。富沢氏が「非営利性(社会的目的の実現)」をその特徴としてあげ、ヨーロッパでの社会的経済に関する定義や原則が「人間への奉仕を目的とする(社会的経済憲章)」「資本よりも人間を優先させる(ECにおける3か年行動計画)」と述べていることと同様の趣旨である。
ただし、坂根氏は、非営利・協同組織が利益追求することを否定してはいない。「否営利」ではなく「非営利」であるとして、非営利の目的の達成のための手段として、言い換えれば、非営利・協同組織が継続的に非営利目的の事業活動を遂行するための基盤として適切な利益の確保を求めており、非営利・協同組織が倒産するような事態を招くようなことを戒めている。この点は、実践的な課題として重要と考える。
なお、有田氏は、その民主経営論の立場から行っている批判の中で「非営利・協同組織の無限定性」として、非営利というだけでは政党、教会、労働組合も含まれてしまうと述べている。確かに、アメリカでの非営利組織の議論では、そうした団体も含めているようである。しかし、ヨーロッパや日本では、ボランティア組織を含めて一般に事業活動(継続的な経済活動)を行う組織をその対象としており、教会や労働組合が教育機関、病院、共済組織等の非営利・協同組織の設立母体となっている事例は数多くみられるとしても、教会等自体を非営利・協同組織としてとらえているわけではないと思われる。
② 非営利組織の所有と配当
「所有という形式がないか(財団または社会福祉法人)、---文字通り多数の人々の「非営利の資金」の出資などのように、民間営利企業の所有という概念とは明らかに異なる所有形態をその組織実態としている。」
「なるべく少額均等、多数の人々の利益追求目的ではない資金の協同であり原則として配当はしない。」
坂根氏は、非営利・協同組織の所有関係につき、所有という形式がない組織を含めて、多数の人々の共同所有であるべきことを強調した。そのことは、非営利・協同組織の意思決定が特定者によることなく、働く労働者、生産者、利用者等の集団的協議によるべきことを意味し、さらに株式配当のように出資者に利益還元することを原則として禁止し、せいぜい金利程度にとどめるべきという主張につながる。
この点につき、富沢氏は「民主制(一人一票性を原則とした民主主義と参加)」という特徴点として説明しているように思われる。また、ヨーロッパの社会的経済論では「すべての組合員が生産手段の所有者(社会的経済憲章)」「剰余金は企業の発展と組合員へのより良いサービスにのみ用いられる(社会的経済憲章)」「民主的運営(ECにおける3か年行動計画)」と述べていることに関連してくるであろう。しかし、これに対し、有田氏は、「生産手段の所有関係が明確でなく、所有者の観点が欠落している」と批判している。
マルクスは、非営利・協同組織の一員である19世紀当時の協同組合を高く評価したが、その理由として、生産活動において資本家が不要であることを示す組織であること、資本主義変革の諸力の一つであり変化の可能性を実際に示すこと、をあげている。(当ホームページ掲載の「現代社会での非営利・協同事業組織の存在意義」を参照されたい。)ここで資本主義とは生産手段の私的所有を基礎とした社会を、資本家とは生産手段の私的所有者を意味しており、マルクスが協同組合を生産手段を私的に所有していない組織、労働者をはじめとした集団的共同所有による組織としてとらえていたことは明白である。マルクスは、資本家がいない組織だからこそ、協同組合を高く評価し、社会変革をもたらす組織と位置付けたのである。
私も、非営利・協同組織について、現代資本主義社会のオルタナティブ(新しい選択肢)としてとらえる観点から、その所有のあり方については集団的共同所有であること、少なくとも一部特定者による所有関係を発生させないことは、非常に重要と考える。実際の経験でも、非営利・協同組織の内部において、その所有関係が不明確であったが故に、組織内の不団結を生んだ事例は散見されるし、特定者による恣意的運営により非営利・協同組織から転落するような事態もありうると考える。現在の非営利・協同論について、有田氏のいうように必ずしも「所有者の観点が欠落している」訳ではないと思うが、この点をより明確にしていく方向が適切と考える。非営利・協同の議論、非営利・協同組織の実践の中で、そうした方向に進んでいくことを願っている。
③ 「協同」の意義と本質
「非営利組織だから非営利・協同であるとはいえない。」
「当該非営利組織の基本構成員らの間での協力・協同、事業にかかわる役職員・労働組合等の間での協力・協同、当該組織のサポーターとの協力・協同、そして他の非営利・協同組織らとの協力・協同、さらには組織の位置する地域住民らとの協力・協同、これらの「協同」を積極果敢に追及するという意義である。」
坂根氏は、出資社員等の組織の基本構成員、役職員、労働組合、サポーター、さらには地域住民との協同という意義であること、また、必ずしも完成形ではなく、目指すべき目標としてあることを主張している。
この点につき、富沢氏は「民主性(民主主義と参加という価値に基づき運営される」と述べ、ヨーロッパでは「個人と集団の向上を目指して、社会の調和ある発展に参加する(社会的経済憲章)」「自立とシチズンシップという価値を重視する(ECにおける3か年行動計画)」と述べている。
また、坂根氏は、非営利と協同との関係について、「あいだの・が重要である」と述べていた。非営利と協同とはその意義が異なることからそれぞれ区別して認識すべきであり、また、非営利と協同の両方の意義を備えている、あるいは、目標として追求していることが「非営利・協同」の要件であると考えていたと思われる。非営利と協同との関係については、「非営利もしくは協同」という理解から「非営利かつ協同」という理解まで幅がありうるが、私見では、「非営利かつ協同」の立場をとる。非営利のみあるいは協同のみといった組織は、短期的にはありうるとしても中長期的には成り立たず、存続できないか営利(非協同)組織に変質あるいは従属せざるを得なくなると考えるからである。
ところで、坂根氏は、スペインのモンドラゴン労働者協同組合グループに注目し何度も視察調査に訪れたが、その注目点の一つが「労働の優越」であった。同グループ内の「エロスキ」という消費生協では、職員労働者が出資金、総代会議決権、理事構成の1/2をもち、圧倒的多数の利用者は残りの1/2を持つにすぎない。この点で、協同の中でも、そこで働く労働者との協同を最も重視していたのではないかと考える。
有田氏は、非営利・協同論への批判として「労働者階級の存在と役割が欠落している」と述べているが、現代資本主義社会が世界的大企業や大富豪に牛耳られ、労働者だけでなくその他の生産者、中小企業、消費者、地域住民、発展途上国等にその被害が及んでいる中で、その変革を求める主体として労働者階級のみにそれを求めるのはいささか偏狭と思われ、理論的にも「ウイングを広げていく」ことは重要と考える。ただし、協同すべき主体の中で「労働の優越」を適切に位置づけることは、非営利・協同論の中での重要な探求課題ではないかと考える。
④ 非営利・協同と管理
「非営利・協同の組織では、---民主的管理運営を徹底して追求し、集団的指導部の形成とリーダーシップの発揮、職場を基礎としての民主的すなわち自主的、創造的、連帯的管理に徹することとなる。」
坂根氏は、会計士としての実践、実務を通じて、非営利・協同組織での管理に注目し、非営利・協同組織であってもその組織の発展、適切な運営のためには管理が必要であること、ただし、営利組織のトップダウン型管理とは異なり、民主的管理を目指すべきことを主張した。
我々協働は、会計士、税理士の集団として、非営利・協同組織の適切な管理に対する支援を行っている。非営利・協同組織は現時点で必ずしも十分な到達にあるとは言えず、逆にトップダウンではないことの弱点が表面化する事例も数多いが、職員が自分が働く職場を基礎にして自主管理を行う仕組み=全職員参加型の管理システムの構築が、非営利・協同組織における重要なキーワードだと考えている。今後創造的な取り組みとして発展していくことを期待する。
現代社会での非営利・協同事業組織の存在意義
現代社会の基本構造は、特に先進資本主義国において、多額の資産を有する少数の富裕層と経済的困難を抱え厳しい生活を強いられる圧倒的多数の一般庶民とに大きく分裂していることが特徴である。特に21世紀に入って、新自由主義、市場原理主義的経済政策が導入されて以来、すなわち資本主義経済の本質的志向があからさまに提起され実行されるようになって以来、その深刻化の度合いは大きい。日本における生活保護世帯の急増、非正規社員やいわゆるフリーターの急増は、そうした政策実行の反映である。アメリカにおけるドナルド・トランプの登場は、こうした問題をさらに深化させるものと危惧される。
これらに抗して、日本においてもまじめな非営利・協同の事業組織は、一般庶民と連帯する立場で運動し事業活動を遂行してきた。その結果、様々な困難はありつつも発展し、いくつかの分野では一定の社会的位置を占めるにいたっている。
ここでは、そうした非営利・協同事業組織の現代社会での存在意義について、社会の民主的変革という少し広い視点から私見を述べたいと考える。
1、マルクスの見解
(1) なぜマルクスか
カール・マルクスは、19世紀に勃興した資本主義に対する根本的批判者として社会革命を提起した思想家、運動家である。現代社会は19世紀半ばから150年以上が経過し大きく変容しているが、主要先進国が資本主義社会であることは変わっておらず、その本質的構造は変わってはいない。
また、非営利・協同組織の社会的役割について、まとまった形ではないが社会そのものの変革の視点で、また、単なるユートピアとしてではなく科学的に論じているのは、私が知る限りマルクスが最初である。19世紀当時には協同組合が非営利・協同の事業組織として本格的に登場した。ロバートオーエンにより提唱され、ロッチデール協同組合による先駆的実践が進められたのはマルクスが生きた時代であった。
なお、誤解のないようにいえば、マルクスがめざしたものは貧困や健康不安のない民主的で真に自由な社会としての社会主義であると考える。旧ソ連のような国家統制社会ではなく、また、資本主義を無批判に摂取しつつ政治体制として非民主主義路線をとる現代中国社会でもない。
(2) マルクスの見解(日野秀逸著「マルクス・エンゲルス・レーニンと協同組合」を参考にした。)
マルクスは非営利・協同組織の内の協同組合について論じている。しかし、ここでは、非営利・協同の事業組織全般としてとらえる。その理由は以下の2点からである。
ア 現代では非営利・協同の事業組織は、協同組合という法人形態を超えて、npo、公益法人、社会福祉法人、医療法人、労働組合(共済事業)、法人格なき団体や場合によっては民主的な目的、所有、運営を志向する株式会社といった形で広がっている。
イ 一方でマルクスの時代には、そうした事業組織の法人形態はロバートオーエン等による協同組合以外にあまりなかったと推定される。また、マルクスの時代には、医療、福祉等を含むいわゆるサービス事業分野が営利資本も参入するような経済市場として発展していなかったと推定される。
① 資本主義変革の諸力の一つであり、変化の可能性を実際に示す
「われわれは、協同組合運動が、階級敵対に基礎をおく現在の社会を改造する諸力の一つであることを認める。この運動の大きな功績は、資本にたいする労働の隷属にもとづく、窮乏を生み出す現在の専制的制度を、自由で平等な生産者の連合社会という、福祉をもたらす共和的制度とおきかえることが可能だということを、実地に証明する点にある。」
(「個々の問題についての暫定中央評議会代議員会(第一インターナショナルの--根本注)への指示」1867年 マルクスエンゲルス全集第16巻p194~195)
マルクスは、非営利・協同の事業組織が、強者生存の法則が貫く資本主義社会を改造する一翼を担うこと、福祉をもたらす社会が可能であることを実際に示すと述べている。
② 生産活動において資本家が不要であることを示す
資本家が不要であることの証明→労働者の経済組織運営能力の向上
「イギリスの俗物新聞「スペクテータ」----は、ロッチデール協同組合の実験の根本欠陥として次にようなことを発見している。「これらの実験は、労働者の組合が売店や工場やほとんどすべての形の産業を成功裏に管理することができることを示したし、また労働者の状態を大いに改善もしたが、しかし、そのとき、それは雇い主のためのあいた席を残さなかったのである。」なんという恐ろしいことだろう!」(資本論第一巻 p351(原書ヴェルケ版))
「協同組合工場は、資本家が生産の機能者として余計になったということを証明している」
(資本論第三巻 p400(原書ヴェルケ版))
マルクスの当時、生産手段を握る資本家が利益を独り占めするのは、経営者としての職能による正当な対価であるという論理がさかんに主張された。(現代でもとくにアメリカでそうであり、日本でもそうした風潮が強まっているが。)これに対しマルクスは、ロッチデール協同組合についての雇い主の席の無い経営についての新聞記事を示し、資本家による経営者としての職能など不要であることを示した。そして、そのことは資本家にとって「なんと恐ろしい」と皮肉交じりに述べている。
「協同組合工場の場合には監督労働の対立的性格はなくなっている。というのは、管理者は労働者たちから給与を受けるのであって、労働者たちに対立して資本を代表するのではないからである。」(資本論第三巻 p401(原書ヴェルケ版))
マルクスは、協同組合工場では資本家はおらず、管理者も労働者になることから、監督労働の労働者支配的性格はなくなっていると述べている。
③ 一方で協同組合「主義」の限界を指摘し、注意を喚起している
「しかし、協同組合制度が、個々の賃金奴隷の個人的な努力に限られるかぎり、それは資本主義社会を改造することはけっしてできないであろう。社会的生産を自由な協同組合労働の巨大な、調和ある一体系に転化するためには、全般的な社会的変化、社会の全般的条件の変化が必要である。」(「個々の問題についての暫定中央評議会代議員会(第一インターナショナルの--根本注)への指示」1867年 マルクスエンゲルス全集第16巻p194~195)
マルクスは、協同組合制度のみの発展だけで自動的な社会変革はできないと述べ、協同組合主義的考え方を批判している。
「労働者が協同組合生産の諸条件を社会的な規模で、まず最初は自国に国民的規模でつくりだそうとするのは、現在の生産諸条件の変革のために努力するということにほかならず、国家の補助による協同組合の設立とはなんのかかわりもないものである!また、今日の協同組合についていえば、それは政府からもブルジョアからも保護を受けずに労働者が自主的につくりだしたものであるときに、はじめて価値を持っている。」(ゴータ綱領批判 1875年 マルクスエンゲルス全集第19巻 p27)
ゴータ綱領批判は、当時のドイツ社会民主党の結成に関わる新綱領案に対するマルクスの批判文書であり、上記の記述は、新綱領案での政府から協同組合への補助を要求するという規定への批判として述べられている。日本でも農協などが政府からの補助金等に縛られて長い間自民党の「後援」をさせられてきた例や、社会主義を目指したとされる旧ソ連のコルホーズや中国の人民公社が強力な国家統制の中で有名無実化した歴史は、これに当てはまるのではないだろうか。
2、現代社会での存在意義
上記のマルクスの見解を踏まえて、現代における非営利・協同の事業組織の社会的役割、存在意義について考えてみたい。私見では以下のように考える。
① 市民の福祉、生活向上への貢献
何よりもまず、非営利・協同事業組織が一般庶民の実際の生活や健康の向上の面で貢献することがあげられる。資本主義社会での生活の貧困化、医療・福祉政策の後退の中でも、営利を求めず、困難を抱える人々への事業を通じての支援を行うことにより、これ以上の貧困化を食い止めたり、国民の福祉や生活の向上に役立っていくことができる。
② 非営利・協同組織への社会的信頼を高め、市民を結集する
①のような事業活動を通じて、事業活動を行う地域住民からの非営利・協同事業組織への信頼を高め、併せて消費者、利用者、協力者、ボランティア、出資者、運営参加者等の形でそうした人々を結集していくことができる。
③ 政府、営利企業等への批判、経済的規制
①のような事業活動を通じて、国民の福祉や生活向上を阻害している政府の政策や営利企業による非営利・協同事業組織の活動への妨害に対する批判を強め、組織化し、その改善のための政策実現や営利企業に対する経済的規制を実施していく一翼を担うことができる。
④ 非営利・協同事業組織で働く労働者の生活、権利を守り向上させる
非営利・協同事業組織で働く労働者の生活、権利を実際に守り、向上させていくことで、営利大企業が国民福祉の上でも不要であることを示す。
現実には独占大資本との競合の中で非営利・協同事業組織自体が収奪されており、そうした要因等によって非営利・協同組織の労働者が営利大企業の労働者との比較で労働条件上の大きな優位性を持っている状況には、残念ながらない。しかし、非営利・協同組織が基本的にリストラ等を行わず、いわゆるブラック企業のようなはなはだしい人権侵害から労働者を守っていることも事実である。
非営利・協同事業組織が独占大資本からの収奪に抗し、一方で労働者の非営利・協同組織構成員としての自覚を求めながら、また、市場競争の中で事業の効率化をはかりながら、その実現を目指していくことが期待される。
⑤ 非営利・協同組織での事業運営、管理能力の向上
非営利・協同組織で働く労働者やその運営参加者が運営管理能力に熟達していくことで、競争市場の中で組織の維持、発展をはかり、あわせて働く労働者の労働条件を引き上げられるような管理運営能力を営利大企業経営者に代わって労働者自身が獲得していくことができる。
ただし、その運営管理システムは営利大企業のようないわゆるトップダウンではなく、民主的運営に基づく適切な分権管理のシステムを構築していくことがその実現のためのキーポイントと考える。すでに一部の非営利・協同組織において実践が始められているが、営利大企業とは異なる非営利・協同組織に適合した運営管理システムを探求し、構築していくことが期待される。
あわせて現状では、非営利・協同事業組織が日本経済の中枢を担う大規模生産組織を運営してはいないが、そうした領域への発展も展望して、資本主義大規模金融システムに対抗する資金調達運用システムや計画と投資、製造販売のシステム、健全な市場形成や海外進出方法等非営利・協同組織として営利企業とは別のシステムの探求が期待される。
⑥ 地域住民等との社会的連帯と諸運動の強化、一方で政府等からの独立性の確保
非営利・協同事業組織として、事業活動と並行しての地域住民等との連帯のための活動、国民生活、福祉改善のための諸運動といった面で社会的連帯を強め、運動を強化するための一翼としての役割発揮が期待される。あわせて、政府等権力から独立し、地域住民、働く労働者、消費者利用者等の参加による自立した民主的な運営を進めていくことが期待される。
非営利・協同組織において労働者は搾取されているのか
はじめに
春闘の季節になった。政府の新自由主義的経済政策のもとで所得格差の広がりは顕著であり、非正規雇用や生活保護の増加といった形での貧困化が急速に進んでいる。それに抗して労働者は大幅な賃金アップをかちとっていくことが求められている。そしてこのことは、国民生活を守り、若者に未来の展望を与え、ひいては日本経済の新たな発展のためにも不可欠と考える。
われわれが関与する非営利・協同組織でも、そこで働く労働者は労働組合に結集し、春闘がたたかわれる。経営や会計についての支援を使命とするわれわれは、当然ながら労使の交渉に直接かかわる立場ではなく、個別の課題に意見をさしはさむことは控えている。しかし、非営利・協同組織の財政状況、経営状況の改善という視点から、間接的には労働条件等につき関心をもつこととなり、労使の議論につき話を伺うことはある。そこでは基本的には非営利・協同組織を守り、また、働く人々の諸権利を守る立場で真摯な議論が行われているものの、残念ながら一部に不毛とも思われるような論争がおこなわれている事例もみられる。
非営利・協同組織の健全な発展を願う立場から、議論の整理として、そこで働く労働者に対する搾取の有無という点に絞って私見を述べてみたい。
1、非営利・協同組織の労働者は搾取されているか
① 搾取の意義
資本主義社会においては、資本家(生産手段を所有する者)と労働者(生産手段を所有せず自らの労働しか売るものがない者)との階級関係が支配的に存在し、資本家が労働者を搾取する生産関係をもとに経済活動が行われ、さらにそれを基礎(下部構造)として政治、法律、文化等(上部構造)が規定されている。
すなわち、資本主義の基盤である商品経済では、商品の価値はその生産にかかる労働に基づいて決定し他の商品と等価交換されるが、資本家が労働者から購入することとなる労働力商品だけはその最低限の再生産(ぎりぎりの生活)に必要な賃金しか支払われず、その労働が生み出す生産物の価値よりも低く抑えられる。そして、労働生産物の価値と労働力商品の対価との差額である不払労働部分は資本家のものとなる。これが資本家による労働者に対する搾取であり、労働者への搾取の結果資本家が合法的に取得したものが剰余価値である。資本家は搾取した剰余価値を利潤に転化させ、その利潤から高額な役員報酬、配当利益、株式の評価益売却益を享受する。さらに利潤を資本に再投下し、増殖させていく。 したがって、労働者が資本家に対し本来の不払労働分の返還を求めること=利潤を賃上げ原資として求めることは、剰余価値が本来資本家ではなく労働者に帰属すべきものであるがゆえに、当然の要求である。
なお、日本において、非営利・協同組織は主要に流通業や医療福祉等のいわゆる人的サービス業という形で事業活動を行っているが、そうした業態では「労働者搾取の発見者」であるマルクスが著書資本論において「新たな価値を生まないといっているのでありしたがって剰余価値の生産=労働者の搾取はない」との誤解もたまに見られる。確かに資本主義社会の科学的分析を行ったマルクスは、資本論において価値の創造は製造業の生産過程で発生しているものとして扱い、流通業やサービス業での新たな価値創造を否定している。しかし、あくまでそうした業態での新たな価値創出を否定しているにすぎず、そうした業態での労働者に対する搾取(不払労働)の存在をは認めている。マルクスがこうした見解を述べたのは、資本主義的生産様式分析の純理論として資本論を展開したこと、マルクスの時代(19世紀)の資本主義はそうした分野への本格的進出がされていなかったことの反映と理解すべきと考える。
② 非営利・協同組織においても搾取はあるのか
非営利・協同組織も、資本主義社会の中で労働者を雇用し、一定の経済活動を行っている。経営者として法的に定められた役員がおり、また、非営利・協同組織の一つの法人形態である協同組合には出資者=農協の場合農家、消費生協の場合消費者も存在する。したがって、一見すると資本主義的営利企業と同じと理解しがちである。
しかし、非営利・協同組織には資本家は存在しない。法的な役員は実質上組織内の職制(役割)にすぎず、その報酬も労働者の給与体系の延長上に位置している場合がほとんどである。また、非営利・協同組織にはそもそも出資が存在しないところが多く、そうした組織では出資配当や株式譲渡益等は生じない。出資者が存在する協同組合についても、多数の農家や消費者はとうてい資本家とはいえない。出資配当があるとしても実態的には利用割戻、預金利息程度である。
つまり、非営利・協同組織においては労働者を搾取する対象である資本家がおらず、それに代わって、働く労働者自身や関係する生産者、利用者が運営主体となっている。この為、資本主義的営利企業のような搾取関係は原理的に生じえないと考える。
この点でマルクスは、抽象的ではあるが、非営利・協同組織における搾取関係の有無について以下のように述べている。
「労働者たち自身の協同組合工場は、古い形態のなかではあるが、古い形態の最初の突破である。といっても、もちろん、それはどこでもその現実の組織では既存の制度のあらゆる欠陥を再生産しているし、また再生産せざるをえないのではあるが。しかし、資本と労働との対立はこの協同組合工場のなかでは廃止されている。」(資本論第三巻p456(原書ヴェルケ版))
マルクスはこの後の文章で協同組合工場は「資本主義的生産様式」を「積極的に廃止する」とも述べており、非営利・協同組織内では様々な欠陥はありつつも搾取関係は廃止される、との見解と理解される。
③ 非営利・協同組織の利潤
こうした見解を述べると、「それでは非営利・協同組織においても利潤があるのはなぜか」といった反論がでてくることが予想される。確かに、資本主義経済において企業の利潤は本質的には労働者の搾取の結果としての剰余価値であると前述しており、それと非営利・協同組織での利潤の発生とは矛盾する。
しかし、現実に非営利・協同組織で獲得する利潤は、労働者から搾取した剰余価値ではない。非営利・協同組織においてもその事業を円滑に進め、発展していくためには一定の運転資金や設備資金が必要であり、その原資(自己資金)としてある程度の利潤は必要である。いわば労働者の共同拠出分としての利潤であり、それを働く労働者等と協議しながら計画的に確保することが、資本主義社会において、さらに将来の資本主義廃絶後の社会においても、非営利・協同組織には必要である。
この点でもマルクスは、労働者の搾取をなくした後、すなわち資本主義廃絶後の展望として、以下のように述べている。
「資本主義的生産形態の廃止は、労働日を必要労働だけに限ることを許す。(剰余労働0=搾取0を意味する:根本注)とはいえ、必要労働は、その他の事情が変わらなければ、その範囲を拡大するであろう。なぜならば、一方では、労働者の生活条件がもっと豊かになり、彼の生活上の諸要求がもっと大きくなるからである。また、他方では、今日の剰余労働の一部分は必要労働に、すなわち社会的な予備財源(高齢者、児童福祉等の財源のこと:根本注)と蓄積財源(拡大再生産のための:根本注)の獲得に必要な労働に数えられるようになるであろう。」(資本論第一巻p552(原書ヴェルケ版))
このように、マルクスは資本主義廃絶後の社会においても一定の蓄積財源が必要となること、その原資は搾取の対象である剰余労働ではなく必要労働となることを述べている。非営利・協同組織が労働者の搾取なしに、労働者の合意を得て、再生産のための蓄積財源=利潤を確保することは、理論的にありうるし、必要でもある。
2、非営利・協同組織の労働者が厳しい生活を強いられているのはなぜか
それでは、非営利・協同組織の労働者が、その他の資本主義的営利企業等で働く労働者と同様に厳しい生活を強いられているのは一体なぜだろうか。確かに、非営利・協同組織はいわゆるブラック企業のような過重労働を強いることはないし、リストラ等も行わないが、資本主義的営利企業よりも多額の(理論的には営利企業で搾取されている剰余労働分多いはず)賃金が支払われている訳でもない。営利企業労働者と大きくは変わらない経済状態となっているのはなぜだろうか。
その原因は、一言でいえば、資本主義経済の中で非営利・協同組織そのものが資本主義的企業等から収奪を受けているからであると考える。
① 資本主義的営利企業との取引を通じての収奪
資本主義社会において、非営利・協同組織は自己完結型に存在してはおらず、その意味で孤立したユートピアではない。資本主義的営利企業と競争し、様々な経済活動を行いながら
存在している。
この過程の中で、そうした資本主義的営利企業から収奪されている事例は多数見られる。仕入先の営利企業から不当に高い価格で材料を押し付けられる事例、逆に売上先の営利企業から不当に低い価格で買いたたかれる事例、施設建設工事費についてとんでもない単価で契約させられる事例等は頻繁に見られる。また、非営利・協同組織が営利的な競争企業の市場占有を目的とした価格引き下げに対応して、赤字覚悟で受注するような事例も発生する。
特にマルクス死後、20世紀以降の資本主義の発展の中では、特定の生産、流通市場を数社で占め、それらが任意に価格等の取引条件を操作できるような独占資本が市場を支配する構造(独占資本主義)になって以来、「自由競争」なるものは形骸化し、とりわけ大企業と中小企業、非営利・協同組織との間では不平等な取引関係が生じているのは周知のことである。
こうした取引の中で、非営利・協同組織が資本主義的営利企業から収奪を受ける。その結果として、非営利・協同組織の財政を圧迫し、そこで働く労働者の賃金を圧迫することになる。
② 金融資本からの収奪
同様に20世紀以降金融資本が巨大化し、企業集団を形成したり、直接間接の資金調達に介在して利潤を吸い上げ、資本の増殖を促進する役割を果たしている。非営利・協同組織でも事業活動の上で金融資本との取引は不可欠であり、利子、手数料等の形で利潤を収奪されている。「銀行は雨の日には傘を貸さない」のである。
また、金融資本は、1980年代終わりのバブル経済に見られる通り不動産価格のつり上げ等を主導しその自己崩壊により国民経済全体に多額の損失を生じさせたが、そうした事態は非営利・協同組織の利潤を含む国民全体から収奪した資金を紙くずにしたといえる。
③ 国家の介入(不当な公定価格、資本家への支援、税制、法的制度(社会保障等))
20世紀以降、国家独占資本主義段階に至ると、国家が積極的に経済活動に介入してくる。
資本主義的営利企業への支援のためあらゆる国家政策が策定、実施され、非営利・協同組織が本来あるべき収入や支出からかい離し、国家から収奪される関係が生じる。
例えば、日本では医療保健分野について国家が定める公定価格が決められている。公定価格自体は国民皆保険制度を守るために必要であるが、公定価格が不当に低く、また、公定価格の中味は、製薬会社に有利な薬価や、材料費偏重で働く医療労働者の労働を低評価する技術料、といった構造となっている。
また、国家財政上歳入分野では大企業の利潤増大を目的とした法人税減税、消費者だけでなく非営利・協同組織にも過重な負担を強いる消費税制度が実施されており、歳出分野ではゼネコンをもうけさせるだけの財政支出、大企業偏重の補助金支出が行われている。
さらに、国が運営する社会保障分野においても、年金等で集められた基金を株式投資等資本主義的営利企業に供給する役割も果たしている。
以上、国家の介入により、直接間接に非営利・協同組織は収奪を受けている。
④ その他
その他、非営利・協同組織は一般に中小規模であり、競合する資本主義的営利企業との比較で設備投資等不十分な状況により生産性が低く、市場での価格競争で劣勢となり利潤を減らす事態が見られる。いいかえるとそうした生産性の低い分野を非営利・協同組織が担わされている側面もあるであろう。その結果、価格競争の中で資本主義的営利企業から収奪される。
また、資本主義的営利企業が働く労働者の搾取や中小企業、非営利・協同組織からの収奪により獲得した利潤を、営利企業一部管理者等に分配する結果、独占大企業の賃金水準が相対的に高くなるという現象も見られる。
以上、非営利・協同組織内部において搾取関係がないとしても、資本主義社会の枠内においては労働者の諸権利が侵害される事態を免れることはできず、非営利・協同組織の労働者もその例外ではない。
3、非営利・協同組織労働者のたたかいの方向
労働者がその生活向上と職場での権利を守り発展させたいと願うことは非営利・協同組織においても変わることはない。団結して職場や社会で主張し、たたかうことは当然の権利である。
ただし、以上の点を踏まえると、非営利・協同組織で働く労働者が賃金の引き上げや労働条件の改善のためにたたかう方向は、資本主義的営利企業とは異なる特徴点があると考える。
① 経営者との協同し、非営利・協同組織の存続、発展とそこで働く労働者の生活向上の ためにたたかう。
非営利・協同組織においては労働者を搾取する対象である資本家がおらず、資本主義的営利企業のような搾取関係は原理的に生じえない。一方で組織そのものが資本主義的大企業等より収奪を受けている。したがって、労働者の生活向上のためにたたかう相手は、基本的には非営利・協同組織の経営者ではなく、収奪しているものたちである。
非営利・協同組織が国や資本主義的大企業から収奪されている剰余を取り返すたたかいがより必要となる。
この点で、非営利・協同組織の経営者との協同しての取り組みが特別の重要性を持つと考える。
② 経営に対する提言、効率化のための協力
非営利・協同組織であっても、市場経済の競争関係の中で事業活動を遂行している。競合する資本主義的営利企業との間で、生産性等劣っている点は改善しなければ非営利・協同組織の存続と発展、働く労働者の生活向上は図れない。
この点は第一義には非営利・協同組織の経営者の役割である。しかし、労働者も関心を持ち、効率化のための提言を行ったり、必要に応じて協力することもありえる。なおその前提として、非営利・協同組織の財政運営状況について、経営者から適時、適切に開示を受けることが必要であり、経営者は労働者に対する財政状況の情報開示を積極的に進めていくことが求められる。
③ 経営者の誤った政策(労働者への不当な賃下げ、リストラ等)へのたたかい
非営利・協同組織では原理的に起こらない事象ではあるが、残念ながら経営者がその役割を大きく逸脱し、実質上労働者の搾取が生じることはありうる。非営利・協同組織の経営者が不相当に高額な役員報酬を受け取る、労働者が生活できないような賃下げを行う、大規模なリストラを行うといった事態である。
こうした事態が発生した場合には、例え非営利・協同組織であっても、労働者はその経営者に対してたたかい、是正させるべきことが当然必要である。
Q&A 法人格なき団体の法人化の是非
Q: 私たちは医療従事者が集まり、日本の医療をよりよくするために活動する団体ですが法人格は持っていません。この間一部会員より法人化すべきとの主張がされていますが、どのように考えればよいでしょうか。
A: あなたたちのような団体を一般に任意団体といいますが、法的には「法人格なき団体」といいます。現在の法人制度では、株式会社のように利益追求のための事業を行う目的の法人が数や規模としては大きいですが、一般法人(非営利型とその他)、NPO等非営利の任意団体が法人化できる仕組みもあります。法人化の是非については一概に言えません。法人化によるメリット、デメリット、法人化するとしてどういった法人形態を採用するかを団体内でよく検討した上で、法人化の是非を判断することが適切です。
解説:
法人化することのメリット、デメリットとしては以下のようなことがあげられます。
① 一般的に、任意団体であるより法人化したほうが、社会的な存在としての認知、信用度が増します。
② 法人化することで、法人登記することができ、法人名義での不動産取得、預金口座の開設等ができます。法律的な人格を認められるからです。任意団体のままだと、不動産は代表者の名義とせざるを得ないし、預金口座も同様になります。金融機関からの借入も任意団体では難しい場合があります。代表者の交代や代表者がその地位のままなくなった時あるいは団体が解散する時などに、団体や構成員の法的権利が不安定になる可能性がありますし、実務も煩雑となります。
ただし、任意団体に全く法的権利能力がないという訳ではなく、代表者の定めがあれ ば訴訟の当事者になる等は可能です。
③ 特定の事業活動を行おうとする場合、法人格の取得が必要となることがあります。例えば特別養護老人ホームの運営といった特定の社会福祉事業は、行政庁の認可を受けて社会福祉法人という法人格の取得が求められます。
④ 法人化には当然ながら一定の法的規制があります。NPOであればNPO法、一般法人であれば一般法人法に従った目的、設立手続き、運営、財産管理が求められます。
また、NPOの場合、一定の法的要件を満たしたうえで行政庁の認証を受け、毎期の決 算報告が義務付けられます。一般法人の場合は株式会社と同様に法的要件を満たして設 立手続きをとればよい(準則主義)ので、特に規制はありません。
⑤ 法人化によって税金(法人税)の取り扱いが変わる場合があります。NPOは、任意団体と同様に法人税法の定める34の収益事業を行う場合、該当する事業のみ課税対象となります。
しかし、一般法人の場合、株式会社と同様にすべての収入が課税対象となります。会費収入や寄付金にも課税されてしまいます。これを回避するためには、剰余や残余財産の非分配等を定款に明記する等の要件を満たす「非営利型」を選択する必要があります。 (ただし、要件を満たしていないことが税務当局に認定された場合、過去に遡及して課税されます。)
以上のようなメリット、デメリットを正確に認識し、あなたたちの団体の将来展望とすり合わせた上で、判断してほしいと思います。
日本における公会計の状況-地方公営企業の会計制度改定-
(1) 日本における公会計及び公会計基準の状況
① 公会計
日本における国や地方公共団体の会計、すなわち公会計については、長らく資金の収支に基づく収支会計を基本として作成されてきた。また、収支の予算が重視され、決算は従来あまり注目されない状況にあった。
しかし、国や地方自治体の財政赤字が大きな政治問題となる中で、また、国債、地方債の購入者のそれらの財務情報に対する関心の高まりも背景に、発生主義に基づく会計処理を行い、適正な損益(収支差額)の算定やストックとしての資産や負債の残高を示す財政状態の開示が必要との考え方が提起された。
また、国や地方自治体の活動分野の民営化が叫ばれ、民間企業が公的財政分野に進出し、競合する(いわゆるイコールフッティング)動きが強まる中で、公会計についても民間の企業会計と同様のルールとし、比較できるようにすべきとの意見も出された。
21世紀に入って、公会計全般が上記考え方に沿った動きとなっている。
② 公会計基準
日本において、統一した公会計の基準は存在しない。現在でもそうした状況は変わっていないが、1999年に首相直属の諮問機関である経済戦略会議が「国等の財政・資産状況を分かりやすく開示するために企業会計原則の基本的要素を踏まえつつ財務諸表を導入すべき」との提言を行ったことを受け、それにそった形で見直しが行われている。見直しの方向は共通して①で述べたような考え方に基づく。
国については、財務省の財政制度等審議会により省庁別財務書類の作成基準が策定され(2003年)、省庁ごと、一般、特別会計ごとにそれにそった財務諸表が作成されている。
地方自治体については、総務省よりいわゆる総務省方式改定モデルと基準モデルの2種類が2006年に公表され、2012年3月時点でいずれかのモデルを採用する地方自治体は7割強に到達している。
また、21世記になって本格的に制度化された独立行政法人等についてはそれぞれの法人形態ごとに企業会計の基準に準ずる形で会計基準が定められている。
(2) 地方公営企業の会計制度改定の概要
地方公営企業法は、その政省令において適用対象の公営企業について統一した会計制度(会計基準)を定めているが、この間重要な改定が行われた(平成24年(2012年)2月施行)。 基本的に以下のような考え方に基づく改定を行っている。
・ 民間企業会計原則の考え方を最大限取り入れたものとすること
・ 地方公営企業の特性等を適切に勘案しつつ、地方分権改革にそったものとすること
この間さかんに統廃合等が進められている地方自治体病院は地方公営企業の一つであり、当然この改定の影響を受けることになる。実際の適用は平成26年度(2014年度)の予算及び決算からとなっているが、その概要及びそれによる自治体病院等の財政に与える影響は以下のとおりである。
① 民間企業会計原則の考え方の導入
この間の企業会計における改定の動向を踏まえつつ、その積極的な導入をはかっている。主な項目は以下のとおりである。
a 退職給付、賞与、貸倒等引当金の計上
b 減損会計
c リース会計
d セグメント情報の開示 等
この内、退職給付引当金については、地方自治体の一般会計と地方公営企業会計との負担区分を明確にした上で、地方公営企業負担職員について、退職給付負担額(簡便的には期末要支給額)を計上する。なお、最長15年以内で計画的に計上していくことを認めるが、今後自治体病院において大きな負担となる可能性がある。
② 地方公営企業会計の独自処理
a 「借入資本金」の資本から負債への区分変更
従来病院建設のために地方自治体が発行した地方債(建設改良企業債)は、「借入資本金」として負債でなく資本表示してきたが、本来の負債表示とする。この結果資本の金額、割合は大きく減少することになり、自治体病院の財政比率は大きく悪化することになる。
b 資本制度
従来資本については原則として処分、取り崩しが認められなかったが、法定積立金(減債積立金、利益積立金)の積み立て義務の廃止と同時に、条例または議会の議決を経て処分、取り崩しが可能とする。
c 補助金等により取得した固定資産の償却制度
従来固定資産の取得のために受領した補助金等の部分は減価償却の対象から除外することができた(みなし償却制度)。今回の改定ではそれを認めないこととし、全額減価償却を行う。
また、それに対応し、補助金等は従来の資本剰余金表示から、一旦負債(長期前受金)に計上した上で減価償却見合分を順次収益化する。
③ 地方公営企業の財政に与える影響
上記のような改定の結果、地方公営企業の財政がより明瞭になり、民間企業等他の設立形態との財政比較が容易になるというメリットはある。また、施設建設のための借金(建設改良企業債)を「借入資本金」という会計的には意味不明の名称で資本表示するといった問題も解消される。
しかし、(2)のような会計処理を行うことで、費用は増加し、自己資本は減少することになり、自治体財政健全化法での財務分析比率(健全化指標)が大幅に悪化することは間違いない。また、ほぼ民間企業と同様の会計処理、表示になることで地方公営企業を民営化する時の判断資料としてそのまま利用できることになる。この間の地方自治体に対する財政面からの攻撃をさらに促進する役割を果たすことになると考えられる。
(3) 公会計の改定へのたたかいと対応
以上の点を踏まえて、公会計の改定への対応の基本的方向は以下のように考える。
① 従来の資金収支に偏った会計制度の見直しを行い、総合的な財政運営成績と財政状態 を示すものとして積極的にとらえ、財政の適切かつ効率的な運営をめざし、学習し活用していくことが求められる。
② 一方で、この改定の狙いが新自由主義的経済政策、公益的な活動や事業の縮小、あ いはそうした分野への民間営利企業の参入にあることもつかんでおく必要がある。公会 計は公益的諸活動の維持、発展のためにあるという立場で、機械的な企業会計制度の導 入等には批判的観点を持ち、対処していくことが求められる。
「新しき村」を訪問して
年末の休みを利用して車で一時間程度の奥武蔵の山にハイキングにいったついでに、「新しき村」を訪問してきた。車の通り沿いにある案内の看板を見るたびに、「新しき村」の記念館でもあるのかと気になっていて、「一度行ってみよう」と思っていたのだが、「新しき村」が現時点でもが存在し、住民が生活しており、こんなにも近くにあることに驚いてしまった。県道を5百メートルほど入り、鉄道線路を渡ったところにある「村」の入口には柱が2本立っていて、そこにはこう記されている。「この門に入るものは自己と他人、生命を尊重しなければならない。」
「新しき村」といっても若い人たちにはなじみがうすいと思うので、簡単に解説したい。 理想主義、人道主義を掲げた白樺派を志賀直哉等と立ち上げた文学者である武者小路実篤が、「理想郷の実現」という大義のために建設したのが「新しき村」である。1919年に宮崎県にまず創建し、続いて1938年に埼玉県入間郡毛呂山町の現在地に建設している。「新しき村」の村民は、「全世界の人間が天命を全うし各個人の内にすむ自我を完全に成長させることを理想」とし、農業と牧畜による共同労働を行い、共同所有、相互扶助の生活を行いつつ、自己実現に励むこととされている。
終戦直後はほぼ崩壊状態にあったが、間もなく復活し、50名弱が村民として共同生活していた時期もあり、個人所有状態をなくすため財団法人となった。現時点の村内生活者は20名程度であるが、農業収入の低迷と村民の高齢化が進み後継者を育てることが課題となっている。なお、宮崎の「村」は現在2名が在住しているとのことである。また、村外会員が約170名存在し機関紙の発行や各種支援等をおこなっている。
武者小路実篤は「友情」等の小説を書いた文学者であり、私が10代の頃の「必読書」であった。実篤自身は「新しき村」には6年程度しか在住せず、また、戦時中は戦争支持者にもなり、「プチブルジョアジー」としての限界は明らかであったものの、その理想は生き続け、様々な苦難があった中でも、百年近くの間良心的な人々を結集し、営々と活動が続けられてきたといえる。
あまり宣伝を行っていないので観光客などは少ない。しかし、「村」内には、絵も描いた武者小路実篤の小規模な美術館があり、全国から「泊まり込みで来る人もいる」とのことである。農産物を販売する売店もあり、農薬等を使用しないので近隣の常連の人が買いに来ていた。私も有機農法による卵ともちを購入し、帰宅した。
●所在地
〒350-0445 埼玉県入間郡毛呂山町大字葛貫423番地1
電話・FAX 049-295-5398(事務室)
電子メールアドレス info@atarashiki-mura.or.jp