公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

日本における非営利・協同組織の法人形態    -共益的非営利法人-

 組合とは法人形態の一つであり社団(株式会社や一般社団法人に代表される)と類似するが、法人と構成員(社員もしくは組合員)との関係の濃厚性、さらに構成員間の相互の人的関係が密な組織が組合である。
 協同組合はそうした組合の性格に基づく組合員の共通利益のために活動する法人であり、その意味で直接的には共益的法人の性格を持つ。しかし、協同組合は数多くの構成員による特定地域あるいは共通する職域での共益を求める組織であるがゆえに、特定者の利益追求を目的としない非営利性、多くの構成員の協同を追求する協同性を持つ。法的にも非営利であることが明記されている。よって、協同組合は非営利・協同組織の一員といえる。
 ただし、日本の税法等は出資配当の有無で法人の営利と非営利を区分していると思われ、協同組合が出資配当を行いうることからおおむね営利法人に準じた扱いとなっている点に留意が必要である。
 また、協同組合の基本的自己資本である出資金に関連して、国際会計基準(IASB)が「現金等を引き渡す契約上の義務がある場合には負債に分類する」としたことから、組合員が償還を請求する権利を有する協同組合の出資金も負債にされかねないという問題が生じている。非営利の協同組合を営利の株式会社等と機械的に同一視している点等重大な問題であり、協同組合サイドからの適切な反論による修正が求められている。
 また、日本において、労働者協同組合法の制定が国会に上程されている。長く放置され、企業組合や一般法人、NPOさらには法人格なき団体等の法形式で運営して来ざるを得なかった労働者協同組合(働く労働者が出資する協同組合)が法的に認知されうる動きとなっている。

 以下日本における協同組合のいくつかについて述べる。

 

(1) 消費生活協同組合

 消費生活協同組合法に基づき、消費者、利用者が組合員となって運営される協同組合が消費生活協同組合である。代表的には食料品をはじめとする消費財の供給をスーパーや宅配、共同購入等により行う購買生協があげられるが、それ以外にも地域での医療、介護福祉を担う医療生協、地域や職域での生命、医療、損害等の共済事業を担う共済生協がある。

 

① 目的(消費生協法9、10条)

 消費生活協同組合は、その行う事業によつて、その組合員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行つてはならない。

一 組合員の生活に必要な物資を購入し、これに加工し若しくは加工しないで、又は生産して組合員 に供給する事業
二 組合員の生活に有用な協同施設を設置し、組合員に利用させる事業(第六号及び第七号の事業を 除く。)
三 組合員の生活の改善及び文化の向上を図る事業
四 組合員の生活の共済を図る事業
五 組合員及び組合従業員の組合事業に関する知識の向上を図る事業
六 組合員に対する医療に関する事業
七 高齢者、障害者等の福祉に関する事業であつて組合員に利用させるもの

 

② 設立

 法人設立は、原則として300名以上の組合員を擁し、20名以上の発起人による創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、厚労省ないし都道府県知事の認可を取得する必要がある。
 なお、一組合員の出資は出資総口数の1/4以内に制限されている。

 

③ 法人運営

 定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が5百名以上の場合は、組合員の代表者(総 代)会を設けることができる。一般に、総代会において通常の決算予算承認、役員選任等の他、組 合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず組合員(あるいは総代)一人 当たり一票である。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 剰余が出た場合に組合員への利用分量配当の他出資配当を行うことはできるが、出資額の10%が 上限となっている。なお、医療事業について配当は禁止されており、共済事業については他の事業 との明確な区分経理を行ったうえでの独自の剰余金積み立て、配当ルールがある。

 

④ 対外的信用

 消費生協は、その事業に関連して環境、人々の健康、医療等を改善する運動を進めており、非営利の法人として、その活動に一定の信頼を得ている。

 

⑤ 行政等からの補助金取得

 運営する事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。ただし、医療福祉等実施する事業に公益性が認められれ、地域住民からの支持が得られるようであれば、行政等からの予算措置に基づく補助金取得はありえよう。

 

⑥ 不動産取得や銀行借入

 法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。

 

⑦ 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた生協法施行規則に基づく。ただし、医療生協の場合 には事業の性格上必ずしもこれに適合しないことから日生協医療部会(当時)より「医療生協の会 計実務」が医療生協版として公表され、それに基づくこととなっている。また、法人事務所内での 掲示で公衆の縦覧に供しなければならず、また、それに代わっての電子開示も認められている。

・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。 ただし、税率は軽減税率が適用される。
また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫、医療生協の病院、診療所は非課税となる。

・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸 付、役務の提供を課税対象とする。
  ただし、医療生協については社会保険診療部分は非課税であり、課税対象の売上が年1千万円以 下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にで  きるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先から の「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められ ないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税 納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。

 

⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典

 残念ながら特に特典はない。

 


(2) 事業協同組合

 

 中小企業等協同組合法に基づき、中小企業者が組合員となって相互扶助を行う共同事業体である。
生産・加工・販売・購買・保管・運送・検査などの事業に関する共同施設、事業資金の貸し付け、福利厚生に関する施設などの事業を行う。

 

① 目的(協同組合法1、5条)

 中小企業者の経営と取引条件の改善、競争力の維持、向上のために事業経営に関する共同事業を行うことを主目的とする。共同事業によって組合員の相互扶助を図り、組合員への直接の奉仕が目的であり、特定者の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない。

 

② 設立

 法人設立は、4名以上の組合員有資格者*が発起人となり創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、事業の種類に応じた国の所轄部門の認可を取得する必要がある。
 なお、一組合員の出資は出資総口数の1/4以内に制限されている。
 * 組合員になれるのは次のいずれかに該当するもの、なお法人、個人を問わない。(協同組合法7条)
・ 資本金等の額が3億円(小売業、サービス業については5千万円、卸売業については1億円)以内の法人
・ 常時使用する従業員の数が3百人(小売業は50人、卸売業、サービス業は百人)以内の事業者

 

③ 法人運営

 定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が2百名超の場合は、組合員の代表者(総代)会を設けることができる。総会もしくは総代会において通常の予算承認、役員選任等の他、組合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず組合員(あるいは総代)一人 当たり一票である。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。
・ 剰余が出た場合に、組合員に対してはその利用量に基づく配当(利用分量配当)を行うことが基本であるが、出資配当(10%以内)を行うこともできる。

 

④ 対外的信用

 事業協同組合は、中小企業者の相互扶助組織として、その事業に関連して中小企業者の権利を守り発展させるために活動しており、非営利の法人として一定の信頼を得ることが可能である。

 

⑤ 行政等からの補助金取得

 運営する事業に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度はない。

 

⑥ 不動産取得や銀行借入

 法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、当然ながら与信審査等はあるものの、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能である。また、組合員を対象とした貸付、転貸事業を行うことができる。

 

⑦ 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、厚生労働省の省令として定められた中小企業等協同組合法施行規則に基づく。

・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。ただし、決算日後の通常総会で承認確定される事業分量配当については売上割戻しとして当該決算日に遡及して損金参入が認められる。また税率は軽減税率が適用される。
 また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫は非課税となる。

・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。
 なお、利用分量配当は実質上の売上割戻しとして課税売上(の返還)の扱いとなる。

 

⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典

 残念ながら特に特典はない。

 


(3) 農協その他

 (1)(2)以外の協同組合は、農林漁業協同組合、中小企業等協同組合法に基づく信用協同組合、企業組合、その他信用金庫等がある。ここでは、農業協同組合について説明する。

 農業協同組合は、農産物生産者である農家を組合員となり、日本において全国を網羅しほとんどの農業者が参加する協同組合である。その特徴点は以下のとおりである。
・ 生産者である農業者が基本的構成員(正組合員)である。なお、基本的には個人であるが、農事組合法人も組合員になることができる。
・ 組合の地域に住所を有する利用者も組合員(准組合員ー共益権は持たない)となることができる。
・ 農産物の生産、流通、販売の他、様々な事業を行うことができる。特に、信用(金融)事業を兼業する点は生協にない農協の特徴である。

 

① 目的(農協法7、10条)

 農業協同組合は、その行う事業によつてその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、農業所得の増大に最大限の配慮をし、農畜産物の販売その他の事業において、経営の健全性を確保しつつ事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めることとしている。
 このために遂行する事業は、農業者の事業、生活に関するあらゆるものが含まれるが、特に組合員の貯金受入れと資金貸付といった信用(金融)事業を遂行できることが特徴である。

 

② 設立

 法人設立は、原則として15名以上の発起人による創立総会を開催することからスタートする。発起人は創立総会終了後、農水省ないし都道府県の認可を取得する必要がある。
 なお、一組合員の出資は一定範囲に制限される。

 

③ 法人運営

 定款、根拠法に基づき、以下のような運営が求められる。

・ 最高議決機関としての組合員総会、ただし、組合員数が一定数以上の場合は、組合員の代表者(総代)会を設けることができる。一般に、総代会において通常の決算予算承認、役員選任等の他、組合の重要な意思決定を行う。なお、議決権は出資金の額にかかわらず原則として組合員(あるいは総代)一人当たり一票であるが、准組合員は議決権を持たない。
・ 法人役員としての理事会、監事(会)の設置及びその適切な運営が求められる。なお、正組合員代表から構成された経営管理委員会を設け、専門的経営機能を担う理事を別途選任し業務執行に当たらせる制度を選択することができる。
・ 剰余が出た場合に組合員への利用分量配当の他出資配当を行うことはできるが、出資額の8%が上限となっている。なお、利用分量配当について5年間出資金として扱う回転出資金制度が認められている。  
・ なお、近時、農協から株式会社、医療法人(社会医療法人)、消費生協等への法人形態の組織変更を認める法制度が整備されている。

 

④ 対外的信用

 農協は、日本においてほぼすべての農業者を組合員を組織し、生産から販売までの事業活動のみならず共済、金融、医療福祉等を通じて農業者の生活にも大変重要な存在となっている。また、農協組織としても全国、県、地域のネットワークが形成されている。農業者にとって必要不可欠の存在である。

 

⑤ 行政等からの補助金取得

 農協に対する制度化された施設補助、運営費補助の制度というよりも、農業者に対する直接の補助金制度がある。

 

⑥ 不動産取得や信用(金融)事業

 法人名義で不動産取得をすることは可能である。また、銀行からの設備資金や運転資金の借入は可能であるが、農協自身が信用(金融)事業を展開しており、組合員に対する貸付業務等を行っている。

 

⑦ 会計と経理公開、税負担

・ 会計は、農林水産省の省令として定められた農協法施行規則に基づく。また、法人事務所内での掲示で公衆の縦覧に供しなければならず、また、それに代わっての電子開示も認められている。

・ 法人税は、株式会社等の営利法人と同様に法人全体の収支に対する課税=全部課税がなされる。ただし、税率は軽減税率が適用される。
 また、固定資産税(地方税)について、事務所、倉庫、病院、診療所等は非課税となる。

・ 消費税は、株式会社等の営利法人と同様に原則として事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付、役務の提供を課税対象とする。
  ただし、厚生連(農協を組合員とし医療を担う協同組合)については社会保険診療部分は非課税であり、課税対象の売上が年1千万円以下の場合には免税事業者として現状では消費税納税義務はなく、課税売上を年1千万円以内にできるかどうかがポイントである。しかし、2023/10月より消費税計算上の仕入税額控除は仕入れ先からの「適格」請求書に基づくことが義務付けられ、「適格」請求書の発行は課税事業者しか認められないことから、課税事業者の仕入先となっている免税事業者についても、課税事業者として消費税納税をせざるを得なくなる可能性がある。留意が必要である。

 

⑧ 受取寄付金の寄付者側の特典

 残念ながら特に特典はない。

 

                                    以上