公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

プロスポーツと非営利・協同-その2-

  
 その1では、プロスポーツを巡って、非営利・協同の立場からその理念、目的について考えてみた。今回は、その組織の形について考えてみたいと思う。

 「形なんてどうだっていい。要は中味だ。」などという至極まっとうな意見もあり、それは一面その通りだと思うが、一方で安易に組織の形式、形態やルールを決め、それが何年か後には幅をきかせるようになって、その中味も形式に引きずられて大きく変わってしまい、どうにも困った事態を招くような事例は、我々の近くでも年に何回もぶつかることである。
 そういう意味で、組織の形も大変重要だと思う。

-日本のプロスポーツの統括組織-

日本のスポーツ界は、各スポーツ毎に、文部科学省所管の公益法人である社団法人(出資者の出資に基づき運営される法人だが、利益の配当や出資金売買等は実質上禁じられている)もしくは財団法人(設立時での寄付財産に基づき運営されている法人であり、出資はない)を設立し、各スポーツの振興をはかっている。例えば、野球であれば財団法人日本野球連盟、サッカーであれば財団法人日本サッカー協会、相撲であれば財団法人日本相撲連盟というような形である。
 なお、当然ながらプロレスや格闘技の場合には、スポーツというよりイベント興行の色彩が強いので、公益法人は設立されてはいない。
 そして、そうした各種団体とプロスポーツとの関係は、各団体で異なっている。

 野球の場合には、日本野球連盟はアマチュア野球の統括団体で、プロ野球の組織として社団法人日本プロ野球機構が独立して設立されており、この両者は結構仲が悪い。長島監督がアマチュア時代の息子一茂選手に指導できなかったといった訳のわからない話は有名であるが、お互いに壁を作り合っていて、最近オリンピックへのプロ選手の派遣で協力し合うようになったようだが、その組織関係は変わっていない。また、相撲についても基本的には同様でプロ相撲である大相撲は財団法人日本相撲協会により運営されている。
 これに対しサッカーの場合には、日本サッカー協会の下部組織として社団法人日本プロサッカーリーグがあり、アマチュアとプロとがピラミッド型に構成されている。
 サッカーの組織関係の方が、プロスポーツがスポーツの振興や地域に根ざすといった公益的役割を担う観点からは合理的と思うし、こうしたプロ組織の形式、位置づけがその理念や実態に影響していると思われる。しかし、現状のプロは営利を目的としているという前提に立てば、アマチュアとは性格が異なり組織も別にすべきだという考え方が当然あり得よう。歴史的なプロとアマチュアとの峻別が厳しい時代からの経過でもあり、これも一つの論点であろう。
 
-日本のプロスポーツ球団、クラブの組織形態-

 プロレスとか格闘技に限らず、プロ野球でもJリーグでも、日本のプロスポーツの組織形態はほとんど営利の法人形態である株式会社組織をとっている。例外的なのは国技たる相撲くらいである(大相撲は公益法人たる財団法人日本相撲協会が運営しており、相撲部屋自体は形式上は法人でも何でもなく個人事業主である。また、各部屋の親方や力士は協会の役職員として、給与も受けている)。
 例えば、04年のJリーグでナビスコカップに優勝し、一番の上昇株チームとなった浦和レッズにしても正式な法人名称は「株式会社三菱自動車フットボールクラブ」であり、観客動員ではトップであるアルビレックス新潟も法人名称は「株式会社アルビレックス新潟」である。プロ野球のようにほとんどが大企業の子会社で、赤字を親会社の広告宣伝費でまかなっているような「広告塔」的従属組織でばかりでは必ずしもないが、Jリーグの各クラブも、法形式上は地域の人々の所有ではなく、企業等を主とした営利目的の株式会社ばかりである。
 数年前に消滅した横浜フリューゲルスも、主要株主である全日空とゼネコンの佐藤工業の業績不振を理由に、サポーターの反対にもかかわらず身売りをする事態となった。また、最近では2部リーグのサガン鳥栖の身売り騒動(株主間で大もめとなっていて、Jリーグを除名となる話もある)が話題となっている。プロ野球の近鉄とオリックスの合併騒動はご承知の通りであるが、フアンを無視した経営側の都合での離合集散はJリーグでも同様にあり、法形式上はそれが全く合法なのが実態である。
 ただし、例外的にJリーグ2部のモンテディオ山形が公益法人形態をとっている。正式には「社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会」というが、これは山形県及び県内企業50社程度が正会員を構成し、別途賛助会員もいる。個人サポーターは後援会員となっているが、年会費50万円を負担すれば、個人でも正会員になることは可能となっている。法人運営への参加は正会員が担う建前であるが、決算書もホームページで開示しており、一応地域参加型の非営利組織に接近しているとはいえよう。

-ヨーロッパのサッカークラブの組織形態-

 Jリーグがお手本としているヨーロッパ各国のサッカークラブについても、その組織形態は圧倒的に株式会社形態のようである。ヨーロッパのクラブの特徴は、大企業だけでなく資産家の個人が大株主となっている場合が多いこと、世界中の有名選手をかき集め財政規模も大きいいわゆるビッグクラブと地域に根ざした中小のクラブが同一リーグの中に混在していることである。
 この間は有名選手の年俸や移籍料の異常な高騰やその崩壊を背景に、ビッグクラブにおいて営利性がより強まる傾向にある。1年ほど前までは収益増を目的に、地域に根ざすとは正反対に、マンチェスターユナイテッド(イングランド)ACミラン(イタリア)バイエルンミュンヘン(ドイツ)といったビッグクラブのみのヨーロッパリーグを立ち上げようという動きも見られたし、中には投資家からの巨額の資金を求め株式上場を果たしているクラブもある。
 日本選手の獲得も、日本企業からのスポンサー収入目当てが大きい動機となっていることは残念ながら事実であり、一方で中田英寿が属しているイタリアのフィオレンティーナのように実質上倒産し再建途上のクラブも存在している。
 アメリカのプロスポーツも同様と想像され、したがって、世界のプロスポーツクラブの大勢も株式会社等の営利法人形態ではないかと思われる。そして、そのことがプロスポーツの地域に根ざした健全な発展という観点からは、日本のプロ野球ほど露骨ではないにしても、弊害を引き起こし、過多な試合数による選手の消耗等の問題を生じさせていると思われる。
 ただし、サッカーレベルで世界一といわれるスペインには、クラブの組織形態が株式会社形態でないところもあるようだ。スペイン2大ビッグクラブといわれるレアルマドリードとFCバルセロナはいずれも株式会社ではなく「レアルマドリード財団」「FCバルセロナ財団」となっている。スペインの法人法制は未確認だが、社団としての株式出資所有といった仕組みではないと思われる。FCバルセロナは12万人超という世界一のサポーター(ソシオという)数で有名だが、ソシオに加入すると、チケットの割引等の恩典の他、クラブ会長選挙への投票権や役員の被選挙権も与えられることとなっている。困ったことに、こうしたスペインのクラブでさえ営利化に走っているのがプロサッカーの現状ではあるが、そういった形でクラブの運営にも参加できる仕組みは、非営利・協同の目指す組織の一つの方向であるし、プロスポーツクラブの在り方とも適合すると思われる。

-プロスポーツと非営利・協同の組織形態-

 以上のような状況を追ってみると、プロスポーツの世界でも日本や世界の社会、経済状況の影響が一定反映していることがわかる。スポーツの健全な発展、地域に根ざしたプロスポーツクラブの運営というあるべき理念から考えて、単なる名称や建前に終始せず、その組織形態についての問題点を探っていくことが本質的課題の一つのように思われる。
また、以前当事務所も参加してスペインモンドラゴン協同組合の見学を行った際、スペインでは協同組合法等非営利の法人法制があることを認識したが、スペインのサッカークラブに見られるの法人形態の状況はこうした法制度の影響の可能性も考えられる。日本の場合、非営利の法人形態は非常に肩身の狭い役割を担うにすぎず、この間のNPO法制や公益法人制度の改定議論でも、税法上の取り扱い等それを大きく広げる視点の欠如が特徴的である。こうした法制度の在り方も検討点の一つであるように思う。

 しかし、株式会社組織がプロスポーツで多いことの理由の一つとして、非営利型の組織では現実に資金が集まらず、経営が成り立たないことも事実であろう。日本においても、FCバルセロナ型のサポーターにより所有するクラブとして、横浜フリューゲルス消滅後のサポーターが中心となって横浜FCが設立されたことがあった。しかし1年ちょっとで財政事情や経営の主導権争いにより内紛状態になり、株式会社形態に変わったことがある。非営利・協同の法人組織の場合、経営、財政問題がネックになることがプロスポーツに限らず散見される。次回は会計士らしく、この点につき考えていきたいと思う。