公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

プロスポーツと非営利・協同-その3-

 プロスポーツを巡って、非営利・協同の立場から、その理念、目的(その1)や組織形態(その2)について考えてきたが、最後に、プロスポーツと経営、利益について考えてみたいと思う。
 ご承知の通り、この間の近鉄バッファローズとオリックスブルーウエーブとの合併、球団消滅を巡るごたごたの原因は、直接には近鉄バッファローズの経営不振であり、実質的にはプロ野球パリーグ各球団の赤字構造の回避を目的としたものであった。新聞報道によれば、近鉄バッファローズは毎年20億円以上の赤字を出し続け、親会社である近鉄から様々な名目での補填を受けてきたとされ、これ以上の赤字補填は近鉄の株主から許容されない等のが球団経営者側の言い分であった。巨人戦のテレビ放映料がないパリーグの他球団の経営状況も似たようなものと推定される。
 プロスポーツのような公共的なビジョンや役割を担う団体であっても、経営的な赤字を放置しては成り立たないことが明らかになった事件といえる。こうした問題を、非営利・協同の立場からどう捉えれば良いのであろうか。以下私見を述べたいと思う。

-Jリーグ各チームの損益状況-

 本来は、問題となった近鉄バッファローズの決算書に基づいて論ずればよいのだが、残念ながら未公表であり、Jリーグを含め他のプロスポーツチームでも公開しているところはほとんど見られない。これもプロスポーツの非公益性な現状を表しているといえよう。わずかに、サッカーのJ2チームであり公益法人である「モンテディオ山形(社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会)」がそのホームページで開示しているので、示してみよう。

   モンテディオ山形事業報告 (百万円)
                  平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度
                             決算               決算             決算           決算             予算
<収入>
*1会費収入                75                  79               118            111              119
*2事業収入                38                  70                 54              73                78
*3広告収入                90                  96                 97              89                93
*4補助金収入             89                104               134            129              130
*5Jリーグ分配金           48                  47                 68              71                52
*6雑収入                    20                  36               106              93                70
収入計                      362                436               580            567              542

<支出>
*7トップチーム事業          278                306               330            369              401
*8その他サッカー事業       14                  18                 33              46                61
*9その他スポーツ事業       3                    3                   3                4                23
*10管理費等                41                  87                 93              92                87
支出計                       338                415               460            513              572
収支差額                   +24                +21             +120            +54               -30

*1 正会員(法人)、賛助会員、後援会員からの会費収入
*2 入場料、各種グッズの収入
*3 企業等からの広告料収入
*4 行政、民間からの補助金収入
*5 Jリーグからの全国ネット放映権料等を原資にした分配金
*6 地方ネット放映権料、選手移籍金収入等
*7 トップチーム選手等の報酬や移籍金、レンタル料や交通費等
*8 下部チームや普及事業費用
*9 女子駅伝等他スポーツ事業費用
*10 管理人件費等

 収支差額は予算である平成16年度を除き、一見毎年度黒字となっているが、その黒字は毎年各1億円以上ある補助金収入や会費収入によって生じていることが明らかである。この補助金や会費収入の多くは、他のスポーツチームであれば親会社、スポンサー企業の赤字補填となろう。ちなみに、J1チームである東京ヴェルディの場合、数年前に出版された「日本サッカーはほんとうに強くなったのか」(中央公論新社刊)によると、総収入13.5億円、総支出23億円、赤字額9.5億円であり、これを親会社である日本テレビが補填している。90年代後半は単年度で20億円もの赤字を出した年もあったという。一方鹿島アントラーズは年約6億円の赤字分を親会社からの借入による形式を取り、将来の剰余で返済する方針とのことである(前掲書)が、いずれにしても実質上の経営的自立にはほど遠いことがわかる。

 また、総収入の規模自体も、ちょっとした中小企業並みであり華やかなプロスポーツの世界の割には思いの外脆弱であるといえよう。ちなみにJ1、J2のチームの財政(総支出)規模は、1.3億円~40億円(前掲書)と同じ脆弱な中でもかなりの格差がある。
 収入の内訳で見ると、入場料等の事業収入は収入全体の10~20%でしかなく、予想以上にプロスポーツ運営事業での収入は少ないことがわかる。これほど低くはないだろうがJ1チームやプロ野球球団も基本的には同様の状況と予想される。東京ヴェルディの場合入場料収入は総収入の25%、鹿島アントラーズは40%(前掲書)である。しかし、サッカーの入場チケットは1~5千円程度と決して安くはなく、野球と異なりゲームを毎日できるわけではないので試合数にも限界がある。試合あたり入場者数を増やす努力しかない。
 また、もう一つの事業収入の柱となるテレビ放映権収入は、Jリーグ分配金に含まれる全国ネット分と雑収入に含まれる地方ネット分をあわせてもせいぜい1億円程度と推定される。もちろんJ2に属する山形と比較し、テレビ放送の多いJ1の各チームはこの数倍の放映権収入を得ていると思うが、総収入比ではせいぜい20%程度であろう。残念ながら通常のテレビ放映は視聴率のとれる日本代表戦等に限られ、Jリーグの試合放映は衛星放送や有料放送ばかりで多額の放映権はとれていないと想像される。

 一方支出面では当然トップチーム選手の年俸等が大きいが、ジュニアチーム等下部組織への支出やサッカー以外のスポーツへの支出もわずかだが見られる。この点は地域に根ざす「ホームタウン」制を引くJリーグの特徴であり、財政支出上も増やしていくことが事業収入を増加させていくための一つの戦略といえよう。しかし、経営に苦しむチームからは、下部組織の運営から撤退したい旨の意見もでているようであり、この点Jリーグの理念を揺さぶる可能性を秘めているといえよう。

-プロスポーツと利益、非営利・協同-

 プロスポーツのファンとなる我々が望んでいるのは、より強くすばらしいプレーで我々に感動を与えることであり、子供たちに「自分もなりたい」との夢を与えることである。また、ホームタウンのチームとして、地域の誇りとなってもらいたいということである。しかし、プロスポーツも一つの事業である以上、必要な支出に見合う収入を得ていかなければ優秀な選手を獲得できず逆に放出せざるを得ず、地域に根ざす取り組みもできず、衰退してしまうことは明らかである。スポーツ大国アメリカがサッカーで世界一になれない大きな理由の一つは、プロサッカーリーグが過去経営不振により破綻したこともあって発展しきれていないことにある。

 プロスポーツを経営的に成り立たせる為の方策として世界的にも一般的なのは、企業化を推し進めること、大企業等のスポンサーと連携することである。例えば欧米で見られるようにサッカークラブが株式上場し営利化を推し進めることがあげられる。また、テレビ局を親会社に持つ一部Jリーグクラブのように「野球と同じように全国ネットの放映権もクラブに渡せ」といい、「テレビの力で野球界の巨人のように人気も財政的にも一人勝ちするクラブを作り、Jリーグも支配したい」といった企業エゴで、「地域に根ざす」といった理念やサポーターの思いとはかけ離れたクラブを作ることもそうであろう。一体こうした方法以外にはないのだろうか。こうした方法では当面の経営改善はあるとしても、プロスポーツの理念を喪失し結局衰退の道をたどらざるを得ないのではないだろうか。
 
 モンテディオ山形の財政報告が一つの示唆を与えていると思う。会員を圧倒的に増やし、サポーターとして応援してもらうと同時に、会費も負担してもらうという方法があるのではないか。もちろん、会員には金だけでなく口も出す、地域活動への参加やボランティアにもなってもらう、会員としてのチケット提供等のサービスも提供する、といった様々な工夫が必要であろう。仮に現状会員の5倍の会員数となれば、そうした展開も可能となる計算となる。
 一方で、当然クラブとしての当然の自助努力は必要であろう。感動する面白い試合を行うことが基本ではあろうが、会員増による地域との協力を基礎に、入場者数を増やし、テレビ放映権収入を増やしていくようなことが展望されればすばらしい。
 すなわち、利益追求型企業依存型の経営から、非営利・協同の理念重視、地域依存型の経営への発想転換が、プロスポーツの世界においても、結果的に経営的な展望を切り開くことになると思う。私自身そういったクラブであれば、例え弱くても一生懸命応援し、何とか時間を見つけてスタジアムに通いたいと思うがいかがであろうか。