公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

医療法人制度改革(社会医療法人)が07/4月より実施に

   医療法改定案が国会を通過し、07/4月に施行の予定となっているが、特にその中で、医療法人制度に対する抜本改定がされている。ここでは、改定の概要とその中での「目玉」である社会医療法人制度の概要を説明したい。

1,医療法人制度改悪の概要

(1) 従来の医療法人制度と改訂後の取り扱い  

① 医療法人(一般)  

 医療法上、病院、診療所等の医療事業を担う法人として厚労省都道府県知事の認可に基づき設立された法人。法人数としては約4万。ただし、その内33千は節税等も目的として設立された出資者一人の法人である。また、法人形態としては、社団、財団に分かれるが、圧倒的には一人医療法人のような出資持分のある社団である。「非営利法人」として社団医療法人における出資配当は禁じられているが、脱退、解散時の残余財産の分配は認められている。
 07/4月以降も既存の医療法人はそのまま継続できるが、新たな設立は認められない。

② 特別医療法人  

医療法に定められ、医療法人の中で私的所有を無くし、公益性を高めた法人。認可要件は、財団もしくは持分のない社団であること(したがって、一般の医療法人のように出資社員に対する残余財産の分配はない)、同族役員やその給与が一定限度以内であること、一定の入院施設も持っていること等である。特別医療法人になることにより、一定の医療事業以外の収益事業を営むことが認められるが、実質上のメリットはあまりなく、法人数は50弱にとどまっている。
 07/4月以降、既存の特別医療法人は5年間の経過措置期間を経て廃止され、また、新たな認可はない。

③ 特定医療法人

 租税特別措置法に定められ、特別医療法人と同様に公益性を高めた法人に認められる。認可要件もほぼ同様である。特定医療法人になることにより、法人税率が協同組合、公益法人等のような低税率となる。法人数は約370。
 医療法上の制度ではないので、07/4月以降も当面のところ存続するが、今後の税制改定の動きにあわせて、抜本改定もしくは廃止の可能性がある。
(2) 新たな医療法人制度

① 拠出型医療法人(出資額限度法人)

 改定医療法に基づき、通常の医療法人として認められる法人形態である。財団だけでなく社団としての設立も認められるが、従来の社団医療法人と異なり、出資配当の禁止とともに脱退、解散時での残余財産の分配は「設立時等での拠出額が限度」となる。その意味で、医療法人の「非営利」の性格を明確にしている。

社会医療法人

 改定医療法に基づき、特別医療法人に代わり、公益性を高めた医療法人として制度化されている。詳細は以下で説明する。

2,社会医療法人の概要

(1) 認可要件(医療法42の2、1)

① 役員につき、同族役員等が1/3以内
② 社団における出資社員につき、同族関係者が1/3以内
③ 財団における評議員につき、同族関係者が1/3以内
④ 「救急医療等確保事業」の実施
⑤ ④の業務を担う設備、体制、実績を有すること
⑥ その他公的な運営に関する要件への適合 
⑦ 解散時の残余財産を国等または他の社会医療法人に帰属させる定めとすること

 上記の内、従来の特別医療法人と大きく異なるのは主に④⑤のような医療内容の「公益性」確保とされている。詳細は今後の省令、通達を待たねばならないが、自治体病院レベルの医療内容を要件とすることが予想される。よって、認可を受けるのは簡単でなく、特定医療法人の内50程度ではないかとの意見もある。

(2) 認可方法(医療法42の2、2)

 医療審議会での意見を聴取した上で、都道府県知事が認可する。

(3) 認可後の規制(医療法51、3)

 決算書について、公認会計士または監査法人の監査が必要。

(4) 想定されているメリット

① 一定の収益事業や障害者施設の運営が認められる

② 社会医療法人債(社債)の発行による資金調達が認められる

③ 自治体病院の指定管理者への就任等

 法的に定めれているわけではないが、新医療計画に基づく公益性の高い医療を担うことが想定されており、自治体病院等の「受け皿」として有利な扱いを受けることが想定される。

④ 法人税制、寄付金所得税制上の優遇

 今後の税制改定を待たねばならず、また、そこでは租税特別措置法に基づく特定医療法人制度の動向やそれとの整合性も検討されようが、厚労省サイドとしては各種税制面での優遇を求めている。 

(5) 私見

 基本的には、国や地方自治体の財政赤字を無くし、医療福祉への財政負担を減らす為に公的病院を「民営化」「市場化」するための、厚労省なりの対応策が社会医療法人制度といえよう。したがって、これにより、地域住民に貢献する医療供給体制の充実等はあまり期待できないであろう。結局、大手病院チェーンの勢力拡大や公的病院の「民営化」の受け皿となっていくと予想される。また、既存の医療法人や特定医療法人を改定医療法の元で「優遇」し続ける、あるいは「優遇策」を引き上げる発想はなく、それらが社会医療法人化する「ハードル」は高く、特定医療法人廃止等によるかえって不利な取り扱いとなる可能性もある。
 なお、医療法人形態以外の公益法人の営む医療機関については、既に08/4月より非営利法人に移行することとなっており、社会医療法人制度の動向とあわせて、こうした病院が新たに制度化された公益非営利法人となるのかあるいは社会医療法人を含めた医療法人制度に移行せざるを得ないことになるのか、注目される。また、同時に、生協法人形態や社会福祉法人形態も含めての医療福祉機関の税制改定動向も注視していく必要がある。