公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

公益法人制度改革と税制改定

 07年9月に内閣府より法人制度改革3法の関係規則が発布され、また、12月には与党税制調査会及び財務省より税制改正大綱が公表され、公益法人制度改革及び税制改定の骨格が明らかとなった。
   引き続き詳細不明な部分はあるが、とりあえずの概要をお知らせすると同時に、私見としての改革改定の基本的評価と論点を明らかにしておきたい。本年12月に実施される制度改革に対する検討議論での参考あるいはたたき台とされることを望みたい。

<参考>

-法人制度改革関係-
  一般社団・財団法人法 (06/6/2制定)
  公益法人認定法 (06/6/2制定)
  上記2法の施行に伴う整備法 (06/6/2制定)
  上記の関係規則 (07/9/7制定)

-税制改定関係-
   与党平成20年度税制改正の大綱 (07/12/13公表)
  財務省平成20年度税制改正の大綱 (07/12/19公表)

 

1,公益法人制度改革の概要

(1) 制度改革の概要

 2006年6月に制定された公益法人改革3法に基づき、08年11月末をもって現在の公益法人制度及び中間法人制度は廃止され、12月よりあらたに準則主義(株式会社と同様に法律に基づく設立手続きを行うことで自由に設立する方法)によって設立される一般法人(社団、財団)の制度がスタートする。従来の公益法人中間法人と同様基本的に一般法人に移行するが、その内新たに定められた一定の公益要件を満たす法人については、行政が認定する公益<認定>法人への移行も認められる。
   なお、従来の公益法人については、経過措置として、11月末での公益法人制度の廃止以降も5年間を限度に「特例民法法人」として従来の法人制度に基づく存続が可能である。また、一般法人については、税法上の取扱の区分に応じて「非営利」「その他」に区分される。

 

(2) 各法人制度の意義と要件

① 08/11月までの法人

公益法人 

 民法34条に基づき、公益的目的(祭祠、宗教、慈善、学術、技芸その他公益に関する営利を目的とせざるもの)を行う社団、財団として国もしくは地方自治体の認可を受けて設立された法人。約26千法人存在する。                                         
  法人税法上の取扱は原則非課税であり、収益事業分のみ課税となる。            

中間法人

 中間法人法により2002年4月より設立が認められた法人形態であり、株式会社等の営利法人と公益法人等の非営利法人との「中間」という意味で中間法人と名付けられた。社員の責任態様に応じて有限責任無限責任とに分かれる。約4千法人存在するが、鳴り物入りで制度化された割には広がらなかった。
 法人税法上の取扱は普通法人として株式会社と同様に全額普通税率で課税される。

② 08/12月から13/11月までの法人

特例民法法人

 公益法人の廃止以降、経過措置として5年間を限度としてその存続が認められることになっており、新たな法人へ未移行の公益法人の経過措置期間中における名称をいう。基本的に、公益法人の制度や規制はそのまま存続する。なお、従来と同様社団と財団とに分かれるが両形態間の合併は可能となる。

③ 08/12月からの法人

公益<認定>法人

 公益法人から移行する法人や新たに設立される一般法人の内、新たに定められた公益目的やざまざまな要件を満たすものとして、国や都道府県が設置する「公益認定等委員会」の答申を受けて、行政が認定する法人。なお、従来と同様社団と財団とに分かれるが両形態間の合併は可能となる。
 ポイントとなる財務的な認可時及び認可後の継続要件は以下の通りである。
・ 公益目的事業の遂行
・ 公益目的事業に関わる収入がその実施に要する適正費用の範囲内
・ 公益目的事業比率が50/100以上
・ 遊休財産額が公益目的事業費用の範囲内
・ 収益事業等で生ずる剰余の公益目的事業への繰入割合50/100以上
・ 解散or認定取消の場合公益目的取得財産残額の同種の法人への寄付

 

一般法人

 定款等で社員等への剰余金や残余財産の分配をうたわない法人であり、その意味で「非営利」と整理される。準則主義での設立が認められ、行政からの規制も後述の公益法人からの移行時措置以外はなくなる。なお、従来と同様社団と財団とに分かれるが両形態間の合併は可能となる。
 中間法人から移行する法人及び公益法人から移行する法人の内公益<認定>法人以外の受け皿となる法人である。
 なお、財団については、純資産額が2期連続して3百万円未満となった場合には、解散しなければならない。

 

非営利一般法人

 一般法人の内、以下のような要件のいずれかに該当する法人

<剰余金非分配>
・ 定款における剰余金の非分配の記載
・ 定款における解散時の残余財産の国等及び公益<認定>法人等への帰属の記載
・ 同族役員の規制
<共益>
・ 会員相互の支援等共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としている 
・ 会員が負担する会費が定款あるいは定款に基づく規定や総会等で定められている         

・ 定款にて特定者への剰余金分配や残余財産の帰属を与えていないこと
・ 同族役員の規制
・ 特定者への特別な利益提供がないこと

 

(3) 公益法人における法人移行手続及びその後の行政からの規制内容

 公益法人は、08/12月以降経過措置として全く同様の法的取扱となる「特例民法法人」に移行するが、その後の5年間の内に、公益<認定>法人もしくは一般法人に移行しなければ法人の解散ということになる。また、その後も一定の行政からの監督規制を受けることになる。以下の通りである。

① 公益<認定>法人

 08/12月以降、移行のための行政への認定申請を行う。それに基づき行政からの諮問を受けた「公益認定等委員会」で前述の要件の整備状況や欠格事項の有無を審査の上答申が出される。それを受けて行政が認定することになる。なお、不認定の場合でも再申請は可能である。
 認定後もこの「公益認定等委員会」が監督権限を持ち、従来公益法人に対して実施してきた定期的な報告徴収、立入検査を行う。また、行政としての勧告・命令、認定取消権限も残ることになる。

② 一般法人

 08/12月以降、移行のための行政への認可申請を行う。ポイントは移行時における法人の時価正味財産額を基礎として算定された公益目的財産額の支出計画である。すなわち、移行時の時価純資産額は計画的に従来の公益法人の公益目的支出に使用しなければならず、その計画書を作成し、行政の認可を受けることになる。
 認可後も一定期間実質上の行政からの監督は続く。すなわち、公益目的財産額が0になるまではその支出計画の実施状況を定期的に報告し、監督を受けなければならない。なお、この計画期間には明確な限度はなく、「行政庁が監督できる期間」とされている。

 

2,税制改定の概要

 公益法人制度改革を受けての08/12月以降に移行する法人に対する税制上のポイントは以下の通りである。
 また、関連して公益性を持つ医療法人として新たに制度化された「社会医療法人」に対する税制も明らかにしておく。
 また、今回の「税制改正の大綱」では明文化されていないが、税法上公益法人等に含まれる特別法上の法人である「社会福祉法人」「労働組合」、さらに公益法人等に準じた税制となっている「法人格なき団体」に対する税制の見通しについても予想しておきたい。

(1) 特例民法法人

基本的に従来の公益法人等に対する税制がそのまま引き継がれる。すなわち、法人税法上の公益法人関係規定そのまま残り、公益法人等の対象法人を示す別表2の中に特例民法法人が加わることになる。したがって、以下のような取扱となる。
・ 原則非課税、例外的に税法の定める収益事業が課税対象となる。
・ 税率は低税率(22%)(ただし、800万円以上は30%となる可能性あり。)

・ 収益事業から公益会計への寄付金に対し課税所得の20%等を上限に損金算入できる   
・ 一部を除き個人等からの寄付に対しての所得税等の寄付金控除は適用されない。
・ 一部を除き、認定を受けての相続財産の受贈に伴う相続人の相続税非課税措置は適  されない。
・ 土地等の寄付を受けた場合に、事前届出による贈与者のみなし譲渡課税の適用除外が可能。
・ 利子等に係わる源泉所得税は非課税。 

ただし、以下の点につき注意を要する。
・ 収益事業範囲の見直しが行われており、今回は当初の改定方針よりも軽佻にとどまっているものの、収益事業に関わる医療保険業の除外措置等の要件見直し等が含まれている。
・ 税率については、後述する公益<認定>法人の取扱との均衡を図るとの理由で引き上げられる可能性がある。

(2) 08/12月以降の新たな法人制度

① 公益<認定>法人

・ 原則非課税、例外的に税法の定める収益事業が課税対象となるがこの内公益目的事業該当分は除外する。
・ 税率は普通税率(30%)、ただし課税所得800万円までは低税率(22%)。
・ 寄付金につき、課税所得の50%と収益事業から公益会計への寄付金全額とのいずれか多い金額が損金算入できる。
・ 個人等からの寄付に対しては所得税等の寄付金控除が適用される。
・ 認定を受けての、相続財産の受贈に伴う相続人の相続税非課税措置の適用。
・ 土地等の寄付を受けた場合に、事前届出による贈与者のみなし譲渡課税の適用除外が可能。
・ 利子等に係わる源泉所得税は非課税。

② 非営利一般法人

・ 原則非課税、例外的に税法の定める収益事業が課税対象となる。
・ 税率は普通税率(30%)、ただし課税所得800万円までは低税率(22%)。
・ <剰余金非分配>の法人については、土地等の寄付を受けた場合に、事前届出による贈与者のみなし譲渡課税の適用除外が可能。

③ その他一般法人

・ 原則課税、すなわち法人の営む全事業が課税対象となる。
・ 税率は普通税率(30%)、ただし中小法人に該当すれば800万円までは低税率(22%)。

(3) 移行時の取扱

① 特例民法法人 
  公益<認定>法人     から      その他一般法人  への移行時
  非営利一般法人

 

 益金算入額=(簿価純資産額-利益積立金額)-公益目的(取得)財産残額

 

 すなわち、従来の公益法人の時に資本剰余金とされ、それが新たな法人に移行され引き継がれた場合に益金として課税対象とする。ただし、そこから公益目的(取得)財産残額は控除できるという意義と理解される。

 

② その他一般法人    から        公益<認定>法人  への移行時
  非営利一般法人

 

 その他一般法人が解散となり、公益<認定>法人あるいは非営利一般法人が新たに設立されたものとして取り扱う。すなわち移行時に課税関係は生じないものと理解される。
(その他一般法人は解散により清算所得が生ずれば課税となるが、全額移行法人に寄付するので課税は生ぜず、一方、公益<認定>法人及び非営利一般法人の設立時の基本財産等の受入は非課税と理解される。)

 

(4) 社会医療法人
 (医療法人は税法上株式会社や一般法人と同様全事業が課税対象となる。)

・ 原則非課税、例外的に税法の定める収益事業が課税対象となるがこの内医療保険業は除外する。
・ 税率は低税率(22%)。(ただし、800万円以上は30%となる可能性あり。)
・ 寄付金につき、課税所得の50%と200万円のいずれか多い金額が損金算入できる。
・ 土地等の寄付を受けた場合に、贈与者のみなし譲渡課税の適用除外が可能。
・ 普通の医療法人から社会医療法人への移行は、法人の解散及び設立があったものとして取り扱う。

 

(5) 社会福祉法人労働組合等及び法人格なき団体

 前述の通り法人税法上の公益法人関係規定はそのまま残ったので、公益法人等の対象法人を示す別表2に記載の社会福祉法人労働組合等及びそれに準じた取扱となっている法人格なき団体に対する取扱は従来と基本的には変わらないことになると予想される。
 ただし、注意を要するのは、(1)特例民法法人の項で述べた点の他、収益事業の見直し範囲が当初の改定方針より軽佻にとどまったことから推定し、むしろ本格的な見直しは2009年以降実施される可能性があるということである。
 
3,評価と論点  

(1) 基本的評価

基本的には、以下のような点から公益事業の主体としての公益法人制度を縮小、解体し税負担を高める制度改悪である。
・ 従来の公益法人制度を廃止し、公益<認定>法人へのハードルを高く設定したこと。
 公益<認定>法人の要件は、それを厳格に守ろうとすれば通常の事業活動の実施はかなり難しいと思われる。
・ 税率を基本的に引き上げ、株式会社等の普通法人と同様あるいは近づけたこと。
・ 公益会計へのみなし寄付金損金算入制度は、高いハードルの公益<認定>法人以外は認め られないこと。 等

 一方で、税制につき当初の改定方針で述べられていたような収益事業の抜本見直しや一般法人の原則課税への転換は以下のような点で見送られている。この点は、税務当局も非営利法人への課税に対する社会的批判を受け一定考慮せざるを得なかった、一部高級官僚の天下り先としての公益法人の「逃げ道」を用意した、といった点が考えられる。
・ 収益事業の範囲拡大を比較的軽佻なものとしたこと(ただし、医療保健業の非課税要件見直しについては現時点で詳細不明であり、要注意)
・ 経過措置期間の法人である特例民法法人に対しては基本的に従来の税制上の扱いを継続している。
・ 原則非課税扱いとする非営利一般法人について、その要件は比較的クリアー可能なものとしたこと。


ただし、公益法人の新法人への移行状況を踏まえて、あらためて収益事業の範囲拡大等を打ち出してくる可能性は十分あり、引き続き注意を要する。

 

(2) 検討すべき論点

① 公益<認定>法人の要件と事業の継続見通し

 前述の通り、ポイントとなる財務的な認可時及び認可後の継続要件は以下の通りである。
・ 公益目的事業の遂行
・ 公益目的事業に関わる収入がその実施に要する適正費用の範囲内
・ 公益目的事業比率が50/100以上
・ 遊休財産額が公益目的事業費用の範囲内
・ 収益事業等で生ずる剰余の公益目的事業への繰入割合50/100以上
・ 解散or認定取消の場合公益目的取得財産残額の同種の法人への寄付

 法人としての事業遂行を前提に考えると、公益目的事業では剰余は出せず一方で公益目的事業比率は50%以上でなければならない(この比率算定上自己所有土地の想定地代等を含むことができることとなっているが)。また、収益事業剰余の50%以上を公益目的事業に繰り入れなければならず、一方で遊休財産額は1年間の公益目的事業費用の範囲としている。
 法人としての正常な事業遂行のためには、一定の拡大再生産が必要であり、その為には一定の剰余の蓄積が必要である。このことと上記の要件をクリアーすることとの整合性をとることはかなり難しい。公益目的事業への多額の寄付や補助金がされるか、収益事業で利益率の高い多額の利益が確保される構造でなければ成り立たないものと思われる。
したがって、公益目的事業の範囲については、その内容が要件をクリアーするかがまず問題となるが、その他公益目的事業とそれ以外の事業とのバランスすなわち法人全体の事業の中でどの部分を公益目的事業とするかを、事業の収支を踏まえて検討することが必要となろう。
 また、一旦公益<認定>法人となった場合、認定取り消しされた時には同種の公益<認定>法人等に公益目的財産残額を全額寄付し一般法人に移行することになり、従来の公益法人から一般法人への移行時のように一定期間をかけての支出等は認められない。この点も含めて慎重な検討を要する。
 
② 医療保健業を営む公益法人社会医療法人への移行の見通し

 医療保健業を営む公益法人については、移行法人の一つとして、社会医療法人を選択することはありうる。①の点での公益<認定>法人の困難な要件を踏まえ、税制上の取扱を考慮すると、社会医療法人が最も適合するともいえよう。
 ただし、現状の法制では、公益法人特例民法法人から社会医療法人への移行は、公益法人等の残余財産の寄付先として法的には社会医療法人は入っておらず、また、残余財産がない場合であってもその手続きは既存法人の解散、社会医療法人設立、既存法人から社会医療法人への営業譲渡といった形となり税法上の取扱を含め簡単ではない。
 また、社会医療法人は医療審議会において認定されるが、この要件も厳しい中でクリアーできる見通しがなければならない。通常の医療法人では、課税上の取扱は普通法人であり選択の対象とはならない。
 これも慎重な検討を要する。

③ 一般法人移行時の公益目的財産額と移行後の公益目的支出及びその税法上の取扱

 一般法人への移行時の公益目的財産額は、法人全体の時価評価での正味財産額すなわち純資産合計額であり、公益会計のそれではない。その意味で多額となりうる。(ただし、退職給付引当金等の負債も年金数理計算等で適正評価されるので圧縮することもある。)
 また、公益目的財産額は計画的に公益目的支出を行っていくことが義務づけられる。この公益目的支出は、従来の公益法人では収益事業の所得の20%が公益会計へのみなし寄付金として損金処理が認められたためこの寄付によりまかなわれたが、税法改定により公益会計へのみなし寄付金の損金算入規定は一般法人にはない。したがって、非営利一般法人の場合だと通常は収益事業会計での税引後の利益から公益会計に寄付され公益目的支出を行わなければならない。また、その他一般法人の場合だと事業収益に関連しない支出として通常の寄付金等に含まれ損金不算入となる可能性が高く、実質上非営利一般法人と同様の効果となろう。
 公益目的財産額を0とするまでの期間は「行政庁が監督できる期間」を限度とされており具体的に規定されているわけではないが、これも認可を受けるために慎重な検討を要する。
 
④ 一般法人設立時の寄付金の取扱

 従来公益法人を設立する際の受贈する寄付金は、原則非課税法人として当然非課税とされてきた。この点につき、新たに一般財団法人の設立時の受贈寄付金の取扱は明らかになっていない。
 しかし、特例民法法人等からその他一般法人に移行する際には、基本的に受取寄付金等を原資とした資本積立金部分(純資産から課税済みの利益積立金を控除した残額)を益金参入する(実際にはこれから公益目的財産残額が控除できるので益金算入額はわずかとなろうが)ことはうたわれており、この点から推定すると、非営利一般法人以外の一般財団法人設立時の受贈寄付金は益金扱いとなると推定される。
 一般法人を新たに設立する場合には、この点を慎重に検討する必要がある。


 以上、取り急ぎの説明を行ってきたが、
・ 詳細が明らかになっておらず、また、現状の法人の財政状況と今後の見通し、事業全体の中での公益目的事業の区分、範囲等も含め慎重に検討すべきこと
・ 5年間の経過措置期間があり、当該期間中の特定民法法人はとりあえず極端に不利な扱いとはならないと予想されること
といった点から、移行状況を見守り十分な検討を行った上での意思決定が望まれる。