公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

クイズ 税務調査

 最近、非営利・協同の法人や団体に対する税務調査が増えています。中には、法人税消費税の申告をしていないところに対して、源泉所得税の調査を「口実」に調べにきたもしているようです。
 そこで、少しざっくばらんな形で、税務調査への対処法を紹介してみたいと思います。クイズ形式で、「だめ」なパターンと「正解」のパターンを示しますので、気楽にやってみて下さい。

 

-いきなり調査官がやってきたら-

A 驚いてしまって、とりあえずお茶を入れ、心証をよくするようにする。金庫やレ  ジを見たいというので、「遠慮なくどうぞ」と応え、見せてしまう。
B 怒りを満面にして「ふざけるな!」と応え、力ずくでも追い返してしまう。
C 事前連絡なしの訪問に抗議するとともに、調査官の話を聞いた上で、「調査の受  託の可否や日程等を含め、内部で検討して返事する」と応え、調査官を帰す。

 小売事業等現金を多額に取り扱う事業を行う場合や税務署が何らかの外部情報を得てる場合、事前連絡もなしに突然やってくる場合があります。非営利・協同の法人でそうた調査を受けねばならない事情があることはほとんど考えられないので、その際には、ず、明確に抗議しましょう。その上で、調査官から話を聞き、後日返事をすることにし一旦引き下がらせることが適当です。
 Aのように弱腰になる必要はさらさらありません。一方でBのような感情的対応も考物であり、逆にこうした対応を理由に攻撃を受けかねません。Cの対応が正解です。

 

-調査したい旨の電話があったら-

A 電話を受けた担当者がスケジュールを確認し、調査官の要望と調整の上、日程を
 きめてしまう。
B 調査の趣旨や調査官の要望事項を確認し、「折り返し返事をする」旨応えておく。 C 「調査など受けません」と応え、電話を切ってしまう。

 税務署から直接、あるいは顧問税理士を通じて、調査の連絡を受けた場合です。調査の依頼を全て受け入れなければならないと勘違いして、「はい、わかりました」と応えしまい、事前の打ち合わせも十分できず、必要以上の日程をかけさせられて、四苦八苦る事態もたまに見られます。税務調査は基本的に任意調査といって「税務署に協力する趣旨で設けられている制度であり、こちらの都合や要望を税務署側とすりあわせ、相互協力しあってすすめられるべきものです。したがって、税務署からの要望はそれとしてきながら、法人側でも十分に検討し、要望を伝え交渉することが適当です。
 したがって、Aのような対応をすべきではなく、一方で、法的には質問調査権が税務にあることも考慮しCのような対応もいただけません。Bが正解です。

 

-内部での事前準備、組織検討-

A 事前準備などしない。元気よく「出たとこ勝負」でいく。
B 税務調査を通じて、その他の重大な問題が生ずる可能性もあるので、経理部門だ
けでなく組織的な検討を行い必要な準備をする。 C 皆忙しいので、経理部門だけで事前準備し、とっとと終えてしまう。
D 準備や検討を行うふりをして、返事をどんどん延ばし、調査官が忘れてしまう事
  をねらう。

 連絡を受けてから調査日までの期間では、税務調査に当たっての準備、組織的検討をう必要があります。経理や総務人事部門で調査対象期間の帳簿や伝票関係書類を見直し課題をあらかじめ把握します。また、想定される質問や調査内容に対する対処方法を組全体で検討します。顧問税理士がいれば、参加してもらうことも望ましいでしょう。更に税務調査への対応する人員の配置(調査の記録者も含め)もあらかじめ決めておく必要あります。
 したがって、Aのような「でたとこ勝負」やBのような一部門だけでの準備ではいけせん。また、税務署との電話等での事前の交渉の過程で、結果的に連絡がこなくなると来期以降に延期するといったことはたまにありますが、わざわざそれをねらっていくとったDのような対応も、逆に調査官にあらぬ疑いを持たせないとも限りません。Cが正です。

 

-調査の最初に(1) 調査官、調査目的や調査手法、日程の確認-

A  調査官の確認を身分証明書等で行った上で、調査の目的や範囲、必要書類、日程
等を確認する。同時にこちらからの要望事項もつたえる。
B 顔も見たくないので、とっとと早く終わらせるために、すぐに調査をさせる。
C 怖い顔をしているのであるいは美人なので、身分証明書の確認やよけいなことは  いわず、調査官の要望に従って調査に入る。

 税務調査は、法人の帳簿や書類を外部のものに見せることになるのですから、調査官身分が真正なものかを確認することは当然必要です。調査官は通常身分証明書をもってますので、その提示を求め確認記録します。また、最初に調査の目的やその対象範囲を認し、目的外の調査や範囲外の資料請求等をさせないようにします。更に日程を確認し効率的かつ迅速な調査を求めます。また、調査官からの説明に対し法人側の要望も伝えす。
 Bのように何の確認もなしにいきなり調査をさせるのは不適当であり、また、Cのよに変に恐れたり逆に甘く考えたりすることも正しくありません。Aが正解です。

 

-調査の最初に(2) 法人、団体の概要、調査への対応方針の説明-

A よけいなことをしゃべらないようこちらからの説明は一切しない。
B 調査官が良さそうな人なので、税務に関係あることもないことも包み隠さず全て  しゃべってしまう。
C 非営利・協同の団体であり、営利の追求を目的としていないこと、構成員や地域  に開かれた組織として、適正な会計処理、申告を行っていること、を調査官に理解  させ、また、調査の迅速、適法な実施を要求する。

 税務調査のはじめには、まず、責任者が法人、団体の概要を説明し、非営利・協同の法人、団体で本質的に営利法人とは異なること、本来法人税等の納税にはなじまないよな組織であること、不正や仮装隠蔽、所得隠しといった問題とは本来無縁であること、いった点をなるべくわかりやすく説明し、調査官の法人、団体のイメージを正確にさせが適当です。できれば調査官に共感させるような話をすると良いと思います。一方で、織防衛の観点もしっかり持ち、外部に漏らすべきでない情報を漏らすようなことはしてなりません。また、調査を受ける上で無原則な対応はさせないことを調査官に明確にし認識させます。
 したがって、Aのような対応では調査官は通常の営利法人と同じような調査を行いかませんし、Bのように対応は相手が権力機関である認識が欠如していることになりますCが正解です。

 

-調査での対応(1) 関係書類の提示や引き渡し-

A 調査を早く終わらせるため、ばんばん要求された書類を見せ、コピーの依頼があ  れば、コピーしてあげる。
B 調査官の依頼する帳簿書類について、法的な義務や調査内容から見ての妥当性を
吟味し提示する。また、コピー等については、内部文書等外部流出が不適当なもの
は拒否する。
C 調査官が法人のコンピューターの中を見せてほしいといったので、操作をさせ、  一部のデータがほしいといいMOを持ち込んできたので、それも認める。
D コピーは当初外部に出せない一部書類は拒否する方針であったが、税務署が簡易  コピー機を持ち込んできたので、仕方ないとあきらめる。

 税務調査に当たっては、調査の目的に添っての会計伝票や会計帳簿、それを根拠づけ証憑を提示しますが、すべてを調査場所に持ち込むのではなく、調査官の依頼書類を確し、それだけを提示するようにします。また、契約書や領収書といった証憑類について提示前に責任者が確認するようにします。また、書類等のコピー等についても無原則にめることなく、その書類の内容、調査上の必要性、外部流出の適否等を吟味し、不適当判断されるものは、コピー等を断るべきです。
 なお、最近法人のコンピューターを調査官に操作させてしまい、ハードディスクのデタを調査官持参のMOにダウンロードさせてしまった事例を聞きましたが、税務調査上ンピューターの中味を開示しなければならない義務はありません。断固拒否すべきです。

 さらに、たまに金庫や職員の引き出し等の実地調査を求められる場合がありますが、基本的には調査の範囲を超えており、拒否すべきです。
 したがって、Aの対応は誤りでありCは論外です。また、Dのように税務署がコピーを持参してきても、こちらはコピー代を気にしているわけではなく、調査官に書類コピを渡すことを問題としている訳ですから、これも誤った対応です。Bが正解です。

 

-調査での対応(2) 誤りが発見されたら-

A 絶対に誤りを認めず、調査官が何をいおうとがんばり抜く。
B 調査官に見つからないように、関連書類を改竄あるいは隠し、とぼける。
C 動揺してしまい、調査官にわび続ける。
D 調査官の指摘内容を吟味し、調査官に誤解があればそれを理解させるべく必要な  説明を行うとともに、明らかに誤りがあればそれとして認めざるを得ない。なお、  他に広範囲の誤りを疑う調査官もいるので、そうしたことはない旨を説明する。

 非営利・協同の法人等では、本来的に不正や仮装隠蔽といった問題は考えられませんが人間の集まった組織ですから知識の不足やミスによる誤りの発生はあり得ます。そして誤りがあれば堂々とそれを正し、必要な修正申告と納税を行えばよいことです。変に隠たり、必要以上に深刻に考えて動揺したりすることも正しくありません。誤りとして調官から指摘された事項を十分に吟味し、調査官の誤解であればその説明を行い、また、の誤りを過大視する調査官には、そうではないことを理解させるようにします。なお、らかな誤りがあった場合でも絶対に譲らないといった対応は、調査をやたらに長引かせだけで、あまり生産的とは思われません。
 したがって、A、B、C、といった対処は不適当であり、正解はDです。

 

-調査での対応(3) 税務署と見解が相違したら-

A 調査官の事実認定や見解の根拠を確認するとともに、法人側の見解を整理し、顧
問税理士がいれば相談の上、明確に主張を述べる。
B 調査官の見解など相手にせず、法人側の見解を意地でも貫く。
C  調査を早く終わらせるため、税務署の見解を全て受け入れる。

 税務調査の中で、事実認定や税法、通達などの解釈を巡って、調査官と見解が相違すことがあります。こうした場合にも落ち着いて調査官の話を聞き、その根拠を確認したで、法人等側での見解を述べます。税務署側の見解が100%正しいとは限らず、誤解ある場合が含まれている場合もあるので、はじめからあきらめることなく、堂々と主張ることが必要です。場合によっては、「修正でなく今後改善してください」と調査官がってくることもあります。なお、あまり感情的になっても、その結果調査官もかたくなてしまう場合もあるので注意してください。
 したがって、BもCも適当でなく、Aが正解です。

 

-調査での対応(4) お茶や食事の提供-

A お茶、コーヒー、菓子だけでなく、昼食も高額なものを用意し、実質上接待付け  にしてしまう。
B 一切何も出さず、調査官を「日干し」にしてしまう。
C 常識的なお茶等は提供する。昼食等については、原則として必要ないが、近くに  食堂等がなければ提供し、担当官から代金を受け取ればよい。

 税務調査中の調査官への茶菓子の提供は常識の範囲内ということです。特別に気を使必要はありません。なお、やたら喧嘩腰で対応するのも考えものです。
 A、Bはよろしくなく、Cが正解です。

 

-調査終了時(1)結果報告と講評-

A 調査官に最後に結果報告と講評をさせ、税務上の課題の他会計管理状況全般に対
する評価もさせる。
B 調査結果は他に聞かれたら恥ずかしいので、経理責任者のみが聞く。
C 調査が終了したら「宿題」だけ確認してさっさと帰らせる。

 税務調査終了時には、その概況結果を把握するために、調査官から最終結論でないとても結果報告を受けることが適当です。また、せっかくの税務調査の機会をなるべく有に使うことも望ましく、今後の税務処理や会計管理の改善といった観点で講評を求めるとも良いでしょう。その際、一部の経理責任者だけでなく、対応した職員全員で聞き、織的に検討するようにしましょう。
 したがって、B、Cは不適当であり、Aが正解です。

 

-調査終了時(2)法人・団体としての見解表明-

A 調査官から結果だけ聞き、こちらからは一切意見等はいわない。
B 何もいわないと悔しいので、経理担当者がとりあえずいいたいことをいう。
C 調査官から結果報告を受けた時点で明確な事実説明や見解表明を述べるとともに、  検討を要する事項については判断を留保し検討する旨を明らかにする。

 調査官から受けた結果報告に対しては、それを必ずしも受け入れるわけではないこと明確にするために、法人等としての見解を明らかにすることが適当です。ただし、見解述べにくい事項や今後検討を要する事項については、意見を留保し、後日明らかにするを述べるようにしましょう。
 したがって、AやBは不適当であり、Cが正解です。

 

-調査後のフォロー(1) 税務署との交渉-

A じっくりと構え、個別の指摘事項に対し反論等を行いながら、調査全体の結論や
修正税額等を調査官に明らかにさせた上で、こちらとしての見解や対応方針を組織
的に検討のし、調査官に伝え、交渉する。
B 全体の結論がでる前でも、ここの修正事項が告げられた時点で個別に受け入れて  いく。
C 調査を早く終わらせるため、税務署の結論を全て受け入れる。

 税務調査後に調査官よりTELなり、税務署に訪問して、最終調査結果と修正要望事が告げられることになります。ここでもそれを100%受け入れる必要はありません。人等側としての反論を行い、交渉を行います。なお、税務署からの指摘事項が複数あるうな場合に、調査官が個別的に修正申告の了解をとろうとする場合がありますが、基本には個別の事項ごとに受け入れることはせず、全体の調査結果と修正金額及び納付税額把握した上で、法人等側での全体としての対応方針を検討、決定してそれに基づき交渉ていくことが適当です。
 したがって、CやBは適当でなく、正解はAです。

 

-調査後のフォロー(2) 法人・団体としての総括-

A 調査を早く忘れるべく、その後に調査の話はしない。
B 組織全体として調査の内容や対応について検討し、その後の会計管理や税務処理、
組織整備に生かしていく。
経理担当者の秘密のノウハウとして、蓄積する。

 税務調査が終了し、その後必要であれば修正申告を行った後には、税務調査の状況やの結果と教訓、改善事項等を文書化し、経理の一部担当者だけでなく組織的な総括を行ことが適当です。今後の様々な改善に役立てましょう。
したがって、A、Cは不適当で、Bが正解です。


 以上、全問正解でしたか?一言でいえば、税務調査に対しては、「不当な点があればたかうこと」「場合によっては必要な対応をすること」この2つの観点で対処するといると思います。「将来の実践」に備えておきましょう。