公認会計士・税理士 根本 守 のブログ

私は、所属する協働公認会計士共同事務所において、日本の数多くの「非営利・協同」組織の経営や会計に関する支援業務を行ってきました。「非営利・協同」組織を今後も応援しさらに大きく広がってほしいと願う立場で、このブログにおいて「非営利・協同」の様々なことを述べたいと思います。なお、過去に事務所のホームページ等に掲載した文章も、現在でも有効と思われるものは(例えその後に法令等が改定されているものであっても)そのまま転載しています。(2019年8月)

自治体病院の財政をめぐる法的規制など

 県立、市立等の自治体病院をめぐっては、この間自治体財政の逼迫を背景に、再編統合、民営化などの動きが盛んです。昨年の民主党政権の誕生後も基本的な政策の変更はなく、自治体病院の存続が危うい状況は全国的に広がっており、「地域医療の崩壊」現象の象徴ともなっています。地域住民のいのちと健康を守るために、地域に根差す医療機関の果たす役割は重要です。特に、例え不採算でも公共的な役割を果たすべき自治体病院は、その役割を十分発揮できるようにしていくことが求められるべきで、単純に「赤字だから閉鎖」などというのは昨今評判の悪い新自由主義の弊害の最たるものと思います。
 当方もこの間、地域住民の作る研究所で行っている地元自治体病院の経営研究に少し関与してきました。自治体財政論については専門外ではありますが、ここでは自治体病院をめぐる法規制の動向、自治体病院に対する補助金等の制度につき、当方の知るところを簡単に紹介したいと思います。

1、自治体病院の法的位置づけと財政原則

 自治体病院は、水道事業等と同様に自治体が営む公営事業と位置づけられ、地方公営企業法にその法的根拠をもちます。つまり、財政的には地方自治体の一般会計とは別個の独立した特別会計を設置し病院事業活動を行います。
 ただし、病院事業については、他の公営事業とは異なり、地方公営企業法全部の適用をうけず、一部のみ適用することができます。すなわち、組織上病院としての管理者を設置する必要はなく、また、働く職員は公務員資格でそれに基づく労働条件で遇することが可能です。こうした一部適用の病院は、全国自治体病院973のうち75%弱を占めています(2006年度)。つまり、地方自治体の「直営」に近い方式を採用しているところが多数です。
 また、地方公営企業法では公営企業の財政の原則について、「経済性と公共性の調和(地方公営企業法3条)」をうたっています。すなわち、独立した事業体としての「独立採算制(同法17の2、2項)」であるべきことと、一方で「経費負担」つまり負担が適当でないあるいは負担が困難な経費についてはそれを地方自治体財政が負うこととしています(同法17の2、1項)。しかし、この間の動向をみると「経費負担」を引き下げ、できれば0にしたいというのが政府の意向と思われます。

2、自治体病院に対する財政支援制度

 自治体病院に対する財政支援制度は、大きく病院建設等に関わる設備支援と日常の経費に関わる運営費支援とに分かれます。

(1) 設備支援

 病院建設を行う場合、地方自治体はその多くを病院事業債を発行して調達し、残りを一般会計や病院会計から支出して賄います。
 この場合、基本的には、建設費の1/2、すなわち病院事業債の元利償還金の1/2と残りの支出の1/2は地方自治体の一般会計からの繰入金によって賄われ、そして、国は、地方自治体一般会計負担額のおおむね50~60%程度を地方交付税として地方自治体に支出する制度となっているようです。
(「ようです」という意味は、自治体病院によっては、単純にそうした扱いになっていいない例も見られるからです。)
 いいかえると、自治体病院の建設費は、一般会計からの特別な措置等がない限り、その1/2以上は病院事業で生み出していくことが求められます。

(2) 運営費支援

 日常の運営費支援については、地方公営企業法の財政原則に基づき、もともと不採算で医療事業での収入では賄えない経費を一般会計から繰り出すこととなっています。具体的には、「へきち医療」「結核医療」「精神医療」「リハ医療」「周産期医療」「小児医療」等につき、一定の基準で一般会計から病院会計に繰り出します。そして、国は、これらの支出を支える趣旨で、病床当たり495千円等の基準で地方交付税地方自治体に支出します。
 以上のとおりですが、実際には単純ではなく、国や地方自治体に一定の裁量の余地があるようですし、一方で現実に上述の支援で不足する場合には地方自治体独自での追加支援を行っている事例もあるようです。そして、政府の本音はこれをできる限り縮小したいということと思われます。

3、財政健全化法

 自治体財政については、従来の法規に代わり、当時の自民党政府のもとで財政健全化法が2009年4月に施行されました。この特徴点は、従来の地方自治体の一般、特別会計に対する規制という枠を広げ、自治体病院を含む地方公営企業等もその対象として規制を加えるということです。したがって、自治体病院財政赤字も大きな問題点としてクローズアップされることになります。
 財政健全化法は、規制する自治体財政の対象を大きく広げるとともに、財政健全性の指標に照らしての各地方自治体の数値開示、健全化計画の策定、促進のための措置を講じています。指標をかなり大雑把に示すと以下の通りです。

(財政健全化の指標) 市の健全化基準
① 実質赤字比率(自治体財政本体) 15%
② 連結実質赤字比率(自治体財政+地方公益企業) 20%
③ 実質公債費比率(自治体財政+地方公益企業+広域連合等) 25%
④ 将来負担比率(自治体財政+地方公益企業+広域連合等+第3セクター等) 350%

 上記の指標のいずれかに該当した場合、財政健全化計画の策定とその議会での承認、総務省への報告をはじめとした規制が始まるということです。

4、自治体病院運営ガイドライン

 財政健全化法とおおむね期を一つにして、自治体病院そのものに対するガイドラインが2007年12月に総務省より通知されました。
 そこでは、自治体病院に対して、以下のような内容での「改革プラン」を2008年度中に策定し、3~5年でのプランの実施を求めるとともに、その実施のためであれば「特例債」の発行を認めるといった「あめ」も用意しました。

 ① 経営効率化の達成計画
 ② 病院の再編、ネットワーク化の計画
 ③ 経営形態の見直し計画

 この内、経営形態の見直しについては、現状で経営効率化計画が達成できない場合、地方公営企業法の全部適用、地方独立行政法人化(非公務員型)、指定管理者制度の導入、民間委託のいずれかを選択することとしています。


 以上駆け足で紹介してきましたが、自治体病院の将来を財政一本で決めさせていくやり方が政府総務省サイドから強く打ち出されています。この点をしっかり見据えつつ地域の医療を守ると同時に、地域住民の理解を得られるよう自治体病院の経営的な再生も目指す視点からの対案を示していくことが求められていると思います。